29 ラマヌジャンだって、何か分からんけど、何かすごい数式や公式を出したりしてくんじゃん?
「――それで、ガイシャの被害者を調べるのは分かったんですけど……、どうして? この、B氏なんですか?」
無二屋も気になって、スピーカーモードで聞いてみる。
『さあ、ねい? そいつは、俺らも分からんのよ。根拠レス――、ってやつ?』
「えっ、――?」
「わ、分かんないん……、ですか?」
と、まさかの答えに、群麻と無二屋のふたりはキョトンとしていると、
『そうだよ? だって、綾羅木さんたちの、タヌ――、いや、妖狐の妖具だろ? だから、少しオカルティックなとこがあるかもしれないけどさ? 勘弁してやってよ』
「オカル、ティック……、ですか……」
と、オカルトとの言葉にポカンとする群麻に、
『そ、そっ。何か原理はよく分からないけど、何かそんなデータや分析結果が、出てくる――。ラマヌジャンだって、何か分からんけど、何かすごい数式や公式を出したりしてくんじゃん? たぶん、そんな幹事』
「は、はぁ……」
と、碇賀元は、確かにどこから思い浮かんだのかツッコみたくなる数式や公式を多く残した数学の偉人の名前を出して答えた。
そうしながらも、
『つまり、そういうことだ――。いや、“そういうこと”にしておけ、な? アンタらも? とりま、話が先に進まないと、困るだろ?』
「「は、はい……」」
と、碇賀元が電話越しに圧をかけてきて、ふたりに“イエス”の返事をさせた。
なお、その“圧”の原動力はというと、めんどくさいことはしたくない考えたくないという、人間の根源的な性分からくるものなのだが……
それはさておき、
『とりあえず、さ? まあ、調べてみてよ? それで、もし本当に……、何らかしら、犯人につながりそうな糸口が見つかれば、儲けもんだと思ってさ?』
「わ、分かりました、」
と、群麻は無理やり納得して、B氏に関して調べることにした――
――という経緯で、群麻と無二屋のふたりは、ここに調査にきていたわけである。
「しかし……、動画が流れてきたのには、驚きました」
Bの同僚だった男が、神妙な面持ちで言い、
「まさか、自分たちの同僚が……、仲間が、そんな目に合うなんて」
と、女のほうも、思い出すのも辛そうな様子で言った。
彼らと、“その動画”を確認してみる。
映し出される電車内――
軽く混んでいる状態であり、乗車口スペースには多くの人が立っており、つり革を持ってたり、人によっては持てなかったりしていた。
その中で、Bもつり革は持つことはできず、カバンを抱えた状態で立っていた。
そうして、電車が途中の駅に停まらんとするとき、“事”は起きる。
急に、
『この人、痴漢です!』
などと、女子大生くらいの女が言うやいなや、B氏をつかんだ。
突然のことに、B氏が、恐らく『え――?』と声を出して、当惑しているようにみえる。
ただ、その時は、B氏は混乱しそうになりながらも、何とか冷静に対応しようとしていた。
しかしそこへ、二人の男が――、つまり、撮影者たちグループの男がB氏を連れ、強引に外へ出させる。
B氏は、『ち、違う! 僕はやってない! そ、それに、そもそも! どうして勝手に動画を撮っているんだ』と主張しながら、毅然として対応しようとする。
そのまま、手に繊維片がついてないか、弁護士を読んだりしようとするも、
『貴方がやってたの、撮ってますよ!』
『みんな、そうやって主張しようとするんですよ!』
と、捕まえた状態で、無理やり連れて行こうとする。
当然、『や、やめろっ!』と、B氏は抵抗しようとしたが、
『逃げるんですか!』
と、悪いことに相手に餌をやる形になり、グループのひとりに投げ技の要領で地に伏せられる。
そんな、惨めな姿のまま拘束――、すなわち、“私人逮捕”された形になってしまう。
続いて、駅員と警察が遅れてやってくる。
『おい、やめろ!』
と、警察は撮影者グループとBの双方に叫ぶ。
グループのひとりと軽い言い合いになりながらも、女もB氏によって触られたと訴え、そのままB氏は引き渡されて逮捕されてしまったわけである――
動画を見終わって、
「見てのとおり……、Bの言い分も聞かず、状況すら確認してないですよね」
と、同僚の女が群麻たちに言い、
「強引に、B氏が痴漢をしたと、押し切ろうとしていますな……。まったく、どうして、連中はこんなことを、」
と、群麻が同意する様子で、私人逮捕グループに憤った。
また、この動画の件に関して、VR室で拾い出したSNSの投稿も見てみる。
それらは、フォロワー数の多いSNSインフルエンサーの投稿と、その引用から拡散していた。
『何の権限があってこんなことするんだよ? 冤罪かもしれないじゃないか』
などと、私人逮捕を批判するものから、
『痴漢は女性の敵だ』
『これくらいしたほうが抑止力になる。応援してます』
『社会人として誤解をされない行動をすることが大事。疑われるようなことをしている時点で落ち度があるのでは?』
などと、撮影者がわを擁護したり、B氏を非難するような投稿など、賛否が分かれていた。
ただ、それでも、動画によってBは自身の顔がさらされてしまい、
「やはり、社内でも話題になりましたよ」
「Bも、潔白を訴えていましたが……、それでも、心を病んで……、会社からも、退職を勧められて……」
などと、同僚ふたりは、辛そうに思い出す。
「それでも……、まさか、自殺するなんて――」
男の言葉に、
「……」
「……」
と、群麻と無二屋のふたりは、言葉が出なかった。
そうしていると、
――ポツ、ポツ……
と、窓の外で、雨が少しパラつきはじめていた。
良かったら、良くなかってもブクマとかお願いするのだ!(ずんだもん風ボイスで)
※過去作の宣伝(むしろこっちを読んでほしいのだ)
『トランス島奇譚』:
洋上の謎の島、Xパラダイスに招待されたパク・ソユンとドン・ヨンファの二人は奇妙でグロテスクな体験をすることに……
ーーー 作中引用 ーーー
その、ワインボトルにグラスを手にしてパク・ソユンが言う。
「は、ジュースよ? ジュースは、ブドウ味が美味しいのよ」
「いやいや、それ、ワインじゃないか? まだ飲むの?」
「だから、ジュースだって言ってんじゃん? お酒は絶対やめたんだって」
言いながら、パク・ソユンが早速、グラス一杯のワインを飲む。
酔い覚まし……とされるラムレーズンのアイスと、赤ワインと――
いわばこれは、下剤と下痢止めを同時に飲むようなものである。
まあ、だいたいの確率で、下剤のほうが勝つとのことだが……




