第70話 なのじゃな幼女
──数分前
「姫の元へ急がねば。もっと、もっと、スピードアップなのじゃっ!」
背中の方からなにやら不穏な音が響き渡る。
「ふん、これしきのことで壊れる羽ではないわー!」
そしてわしは更に自身を加速させた。
──だが、この判断が自身に降り掛かるちょっとした不幸が起きることをまだわしは知らなかった。
「な、何じゃ……?」
それからいくらか時間が経った頃、わしは己の異変に違和感を覚え始めた。
まあ何ともないし大丈夫じゃろ。さてと、そろそろ目的地へ着く頃合いじゃから速度を落と──
「……っ!?」
わしはその違和感が何だったのか、この時ようやく理解したのじゃ。
な、何故じゃ……スピードが、落ち……ない……
そう、姫への感情が先行してしまったわしは気付かぬうちに、自分の羽に最大出力以上のスピードの負荷をかけてしまっていたようなのじゃ。
「だ、誰か助けてくれぇぇええええ!!」
──現在
「──その後もずっと飛び続ける運命になるかと思った時……! ソナタに助けてもらい、今に至るという訳じゃ!」
「へっ、へぇ〜……そ、そう……」
なにこの子。おバカさんなの? まだあの生意気王女……いえ、あの子供と比べるなんてもってのほかだった。
「本当に、本当にありがとうなのじゃっ!」
「あっ!」
すると幼女は私の両手を握り、上下に揺らす。
「わっ!?」
──かと思ったの束の間、微笑みながら私を持ち上げて、回り出した。
「ちょっと……!」
「ありがとうっ! ありがとうなのじゃ〜!」
「…………っ! あ〜もう、分かった! 分かったから! 一旦下ろして!」
そして、幼女に下ろされた私は数秒離れた地面と再会する。
「いや、すまんすまん。つい興奮してしまったのじゃっ。そう言えば、名前を聞いておらんかったのっ! お主の名前は何と言うのじゃ?」
「…………もこ」
「そうか、お主はもこというのか! わしの名はセルじゃ! よろしくなのじゃっ! ……して──」
そして一拍置いてセルは口を開いた。
「──お主が姫を傷付けた輩であっておるかの?」
「っ……!」




