第60話 ルイス様?
「ふんっ!」
コピールイスは踵を返し、玉座へと座り直した。
「何だ、挑発には乗らないのか?」
「乗ってもいいが、オリジナルとこんなくだらないことをしてたら、《《お遊戯》》の時間が無くなっちまうからな」
コピールイスは意味深な笑みを俺に浮かべる。
「──お遊戯……だと?」
「あぁ、そうとも……お遊戯さ」
その直後だった、俺の意識が奥深くに沈んだのは。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「はぁーっ!」
「ふんっ!」
レイピアの剣先とルイス様の堅強な拳が衝突し、周りの木々を倒すほどの凄まじい風圧が巻き起こる。
「クッ!」
「どうした、どうした! こんなもんじゃねぇだろ? 俺の攻撃を避けたんだ、もっと愉しませてくれよ!」
「これもルイス様を戻す為──巨大旋風突撃ッ!」
「クハハハハハハッ! 真っ向から突撃とは、おもしれぇじゃねえかッ!」
「ならちょっとだけ俺の力を見せてやるよ……《《ダークネスシールド》》ッ」
「なっ!?」
「ヒヒッ」
ウソッ……信じられない。魔法が──
「戦闘中に考え事は命取りだぜ?」
し、しまったッ! 廻り込ま──
「死ねぇぇええええっ!」
時が止まったかのように、一秒また一秒とルイス様の殺意が込められた拳が迫る。
ルイス様、不甲斐無い私をお許し下さい。
私はルイス様に心の中で謝罪し、瞳を閉じてその瞬間を待った。
……しかし、それが訪れることはなかった。
「あん?」
ルイス様が何やら戸惑いの声を上げている。
私は閉じている瞼をゆっくりと開くと──
「い、糸?」
「──リナ、死ぬにはまだ早いよ」
「……もこっ」
なんと私に拳が当たるスレスレで、もこは蜘蛛糸を用い、ルイス様の腕を絡め取っていた。
「ルイス様の意識を引き戻すのでしょ? ここで死んだら、直属の騎士としてルイス様にどう顔向けするの?」
そうよ、私ったら何を考えていたのかしら。
ルイス様に高い忠誠心を捧げお護りすると豪語していた自分が恥ずかしいわ。
「礼を言うわ、もこ。おかげで、思い出したわ」
「礼を言うのは、後で出来ない? リナが動いてくれないと、私の糸が切れて顔が拳でペシャンコになる」
「ふふっ、それは困るわ……ねっ!」
私の魔力を込めたレイピアの一撃により、もこの蜘蛛糸で拘束された腕の一部が吹き飛び、血しぶきを上げた。
「チッ、まだ体が馴染めて無いか」
私の一撃を食らも、バックステップで私たちと距離を取るルイス様。
「それにしても硬い。ルイス様の体とは言っても、ここまで硬いのはおかしい──あなた、ルイス様ではないですね」
「半ば正解、半ば不正解だなエルフの嬢ちゃん」
「どういうこと?」
「俺はルイスであるが、お前たちの知っているルイスでない」
「ルイス様に貴方が乗り移っているとでも言うのかしら」
「それが一番近しい表現の仕方かもしれねぇな」
「体の頑丈さ、喋り方に戦い方……到底ルイス様とは似ても似つかない。でも、確かに体はルイス様のもの……もしかして、あなたはルイス様から生まれた《《新たな人格》》」
「大正解だ、白髪の姉ちゃん……!」
「なっ────ッ!!」
瞬きをした瞬間、一気にもこは距離を詰められた。
「正解したお前には蹴りをプレゼントしてやるよっ! はあっ!」
「ウグッ! あっ……!」
ルイス様が放った回し蹴りがもこの全身に思い切り食い込み、体がくの字の状態で遠くへ吹き飛ばされた。
「もこぉぉぉおおおおおおおおっ!!」
「まずは一人撃破」




