イジメていいのは私たちだけ
「二人とも、準備は出来たか?」
「はい」
「問題ありません」
俺とリナともこの三人は旅立つ前の最終確認をし、玄関に向けて歩いていた。
「──ルイス様」
俺を呼ぶ声がする方へ視線を向けると、玄関にベルファストを含めるメイド隊が横に整列していた。
「見送りか?」
「左様でございます」
「そうか……感謝する」
これはとても気分が良いな、門出にはちょうどいい。
「俺の家族を頼んだぞ。お前たち」
俺はメイド一人一人に目を合わせ、真っ直ぐに瞳を見つめる。
「もちろんでございます! ルイス様!」
「我々が責任を持って御守り致します!」
「主に尽くすのが我が使命。この命落してでも必ずや護ってみせます!」
各々メイドたちはそう言い、目にはやる気に満ちていた。
「では行ってくる。行くぞ、リナ、もこ!!」
「「はっ!」」
リナともこは少し後ろを歩いて俺の後を追う。
「よっこら……せっと。よろしくな、相棒!」
俺はこれから共に旅をする馬に挨拶して乗馬する。
「よろしくお願いしますね」
「よろしく」
二人も旅をする馬に挨拶を交わす。
リナももこも、大丈夫そうだな。
「よし、それじゃあ出発だッ!!」
「「はいっ!」」
「「「「行ってらっしゃいませッ!!」」」」
俺たち三人は、湿った空気に包まれた涼雨とメイド隊に見守られながら出発した。
この雨は俺たちの門出を祝っているような、そんな感じがした。
──少しして、雨がひどくなってきたので俺たちはローブのフードを被って移動していた。
すると、反対方向から何か迫って来た。そう、馬車である。
俺たちはそれとすれ違うようにして横切った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「もー、最悪! かーるねきには、笑わされて横隔膜を腹筋崩壊させられるし、雨には打たれるし、今日は何なのよー!」
「雨に関しては同感よ。髪が傷んでしまうわ」
馬車の中では、雨に打たれ全身がズブ濡れになった二人の少女たちが突然降ってきた雨に愚痴っていた。
「はぁー、どうしてこうもついてないかな〜」
向かいに座り真珠の如く輝いてる腰まで伸ばした長い銀色の髪をもつ少女に風魔法で濡れた金色ショートボブの髪を少女は乾かしてもらっているようだ。
「そういう時もあるわよ、《《レベッカ》》」
「《《カレン》》姉様は風魔法が使えるからこういう時にはいいよねー。ブーブーッ!」
レベッカはむくれ顔でカレンに対し不満を表す。「レベッカは短いから良いけど、私は長いから絞るのが大変よ」
カレンは魔法を使っていない空いている手で髪から水を絞っていた。
「「……まあ、でも──家に帰ったらルイス(兄様)を罵れると思うと、そんなのはどうでもいいんだけどねっ! アハハハッ!」」
見事なまでに二人の言葉はハモった。これ以上ないというほどにハモったのである。
「……あらレベッカ、ルイスをイジメていいのは姉であるこの私だけよ?」
「カレン姉様こそ何を言っておられるの? イジメていいのは妹であるレベッカだけですよ?」
カレンとレベッカの間には見えぬ火花が激しく飛び散っている。
「──私はあの子から魔法を学ぶのに、あの子はちっとも私から学ぼうとしないの。弱いけど素質はあるのにそうしない。だから私は私から学ぼうとしないあの子をイジメたくなるの」
「──私だって兄様から剣を学ぶけど、私からは学ぼうとしない。ポテンシャルがあるのに学ばない。
弱いくせにいつも私が兄様から学ばされている。その事実が私の中で許せない。兄様をブチのめして、『私は兄様のおかげで強くなれたから、兄様にも私から学んで欲しい。兄様も強くなれるから』って……だから私は兄様が強くなるまでイジメるの」
「……レベッカも私と同じなのですね」
「……そのようですね、姉様」
「どう? 協力して弟を強くしない?」
「いいですよ。私もたった今、そう思ったところです」
「決まりね」
「はいっ」
二人はその後、家を出たルイスが彼女たちを乗せた馬車の横を通り過ぎたことに気付くことはなかった。




