姉妹二人の処分
「和風月冥一刀流奥義──」
俺は勢い良く突進攻撃を仕掛けてくる姉妹に対して刀を構える。
「──陸ノ型」
そして姉妹に向かって走り出す。
「──ミナヅキ・アオアジサイッッ!!」
花のアジサイを可愛がるように、優しく、美しく、そしてきらびやかに俺は刀を引き抜いて技を繰り出す。
ガキンッ!!
俺の刀と彼女たちのナイフが怒濤のごとく交わる。
そして、俺たちはお互いに相手の先ほどまで居た場所にいる。勝負は決まったのだ。
しかし、俺たちは誰一人として動かなかった。
──それから、沈黙が少しの間流れた。
が、それを誰かが破った。
「カハッ!」
俺は、口から血を吐いた。
「この俺から血を吐かせるなんて……やるじゃねぇか!」
俺はそう言いながら彼女たちに振り返る。そこには、無傷の二人が俺に背中を向けたまま立って居た。
プシャーーッッ!!
「──ッ!!」
その直後、二人から血が勢い良く吹き出した。
バタンッ!
二人は血が吹き出した直後倒れた。一人はうつ伏せに、もう一人は前のめりに。
「ハハッ、私たちの……負けか」
「……クッ……ソ……」
姉は笑い、妹のエメラは痛さのあまり声が出ないようだ。
俺は二人のもとに歩み寄る。
「さっきの一撃は見事だ」
俺は彼女たちに称賛を送った。
「「……えっ?」」
二人は驚いてきょとんとした顔をした。
「おいおい、折角俺が褒めてやってるのに何だその顔は」
「え、いや、私たちはてっきり」
「このまま痛ぶられると思っていた……」
「あぁ、あれは……ウソだ」
「「ウソ?」」
二人は口を揃えて言った。
「元からお前たちを痛ぶるつもりはなかった」
まあ、半分ホントで半分嘘だけどな。
「なら、何故あんなことを?」
エメラの姉は俺に問う。
「お前たちの実力がどの程度かを知りたかった。これが主な理由だな。だから、俺はお前たちをワザと煽った」
「もう一つ聞いて言いか?」
「何だ?」
「そこまでして私たちを欲する理由は?」
「それを聞いて何になる」
「私の興味本位さ」
「……戦力として実力があるお前たち二人が欲しかった──ただそれだけだ」
そんな訳がないだろ。そもそも、この俺を怒らせておいて、死ねると思ったら大間違いだ。
俺はこの世で最も苦しくて残酷で不幸なやり方を知っている。
それは、マインドコントロールによる一種の洗脳だ。
これは操作者からの影響や強制を気づかれないうちに、他者の精神過程や行動、精神状態を操作して、操作者の都合に合わせた特定の意思決定・行動へと誘導すること・技術・概念である。
しかし正確には、不法行為に当たるほどの暴力や強い精神的圧力といった強制的手法を用いない、またはほとんど用いない点があるため洗脳とは異なる。
「本当にそれだけか?」
エメラ姉のこの質問は実に的を射ていたが、それを教えるほど俺はバカじゃない。
「お前たちは強者と戦いたいんだろ?」
「「──ッ!!」」
「俺のところに来れば、いつでも好きな時に強者と戦える。お前たちも強くなれる。衣食住にも困らないし、お前たちの安全は俺が保証する」
人々は、好意には好意が、悪意には悪意が返ってくると認識している。だからこそ、人によく思われようとなるべく好意的な振る舞いをするよう心がける。
しかし、俺ははこの心理を利用し、「自分はこれだけ好意を与えたのだから、あなたも返さなくてはならない」と二人を仕向ける。
これを心理学の言葉にで「返報性の仕組み」という。
たとえば、ある人が同僚のミスをフォローしたとする。
そのうえで、「じゃあ今度は自分の失敗も被ってほしい」「あのとき助けてあげたじゃないか」と強い要求をする。するとどうなるか……簡単さ。
同僚は恩返しをしなければならないと信じ込み、過剰な内容すら応えてしまうのだ。
だから、俺はこの姉妹二人を手中に収め手駒とする。
「そうか……なるほどな」
エメラの姉はどこか納得した様子で
「いいぜっ! お前のところに行ってやるよ!」
「ちょ、姉さん?!」
「エメラ、私たちはコイツに負けたんだ。なら、敗者は勝者の言うことに従う。違うか?」
「ち、違わ……ないです……」
エメラは渋々ながらも納得した。
「なら、お前ら行くぞ」
「待ちな! アンタの名前をこっちはまだ聞いてないぜ?」
俺はそう言われたので振り返って言った。
「ルイス・フェイト・バハリエリだ」
「私は【ルビー】。そして、こっちは妹の【エメラ】。孤児だから私たちに名字はない」
「よ、よろしく……」
「ルビーに、エメラか……覚えておこう」
「これからはよろしくなっ! マスター!!」
ルビーはニカッと笑う。
「何だ? そのマスターって?」
「私がそう呼びたいだけだ。実際にマスターは、この私たちを負かしたんだから。ほら、エメラもっ!」
「マスター、これからよろしくー」
エメラはルビーと違い私に対して敵意剥き出しで言う。顔は笑ってるのに目が笑ってなくてより怖いな。よくよく考えればこうなるのは必然的だ。逆にルビーの方がおかしいまであるぞ。さっきまで、敵だった相手に隙を見せてこんなにも馴れ馴れしいなんて。
「まあ、とにかく帰るぞ」
再び俺は歩き出す。
「ど、どこにだ? マスター?」
ルビーに聞かれた俺はこう答えた。
「どこって、俺たちの家だろ?」
「家ってどこですか?」
エメラはそう聞いてきた。
「家って……ルビーとエメラも住む俺たちの家に決まっまてんだろ?」
「「──ッ!!」」
「何をそんなに驚いてるんだ? 二人共」
二人は一瞬、驚いていたが──
「いや、何でもない。マスターは面白い奴だな!」
ルビーはニカッと笑い、
「姉さんの言う通り、何でもない──面白いかどうかは別として、私も少しだけ興味湧いた」
エメラは口角を少しだけ上げて言った。
「そうかよ。なら取り敢えず足を動かせ。帰るのが遅くなる」
「はいはい、分かったよ。マスター」
「ちょ、私はまだおま──マ、マスターを許した訳じゃないからな!」
二人は各々そう言いながら、俺の後を追いかけるのだった。




