閑話 バーでの一息の休憩①
日が落ちシトシトと雨が降り、雨特有の匂いが鼻孔をくすぐる中、俺とベルファストはガス灯に照らされる道を歩いている。
ベルファストは俺が雨に濡れないように傘を差して、俺のペースに合わせて歩く。
そして俺は王都の街の一角にあるレトロな感じの雰囲気があるバーの前で、足を止める。
「入るぞ」
ベルファストにそれだけ言うと、俺は目の前の扉に手をかけて中に入る。
『リンリンリン』っとドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませ」
その店の中に一歩入ると、そこは別世界。
ジャズ音楽が円盤式蓄音機から流れ、内装デザインもとても落ち着く雰囲気なため居心地が良い。
日頃の疲れも癒やされ、至福のときを過ごせる場所であるここに最近ハマり通っている。
俺はグラスを拭いている一人のダンディーなバーテンダーに話しかける。
「マスター、いつものを」
俺は、目の前にワインやお酒などが置かれたバックバーが見えるカウンター席の椅子に腰掛ける。
「いつものですね。そちらのお嬢さんも席にどうぞ」
「いえ、私はルイス様のアンドロイドメイドであるがゆえ、お構いなく」
「ベルファスト、マスターもああ言ってるんだ。良いからお前も席に着け」
俺はベルファストに席に座るように促す。
「ルイス様がそう仰るのであれば──失礼します」
ベルファストも渋々俺の隣の席に座る。
「ルイスさんもすっかりここの常連客ですね」
マスターは、バックバーからお酒を取り出しながら言う。
「そうだな。ここは、俺にとっては唯一本音で語れる場所で──何よりマスターの《《弟子》》だからな」
「何を仰りますか。ルイスさん、あなたもこの王都では十分お強いですよ」
「そんなことはない。マスターに比べたら俺はまだまだ未熟者。俺はこれからも強くならねばいけないからな」
「その心意気やよし。では、こちらをどうぞ」
マスターは、そう言うと飲み物が入ったグラスを俺の前のカウンターまで滑らせる。
「──これは」
「これは、私の奢りですのでお気になさらず」
「マスター!」
俺は、ダンディーなマスターに目をキラキラと輝かせる。
「では、ありがたくもらおう」
俺は、グラスに口を付ける。
「このジュースも美味い。流石、マスター。俺も早くマスターのカクテルを飲みたい」
「それは嬉しいことですが、ルイスさんは成人していませんから。成人したら是非うちに来てください」
「当然、来るに決まっている───っと少し長居しすぎたみたいだ。マスター、また来るからな。行くぞベルファスト」
俺は、隣でカクテルを無造作に振っているベルファストに言って席を立ち、店を出る。
ベルファストは振っていたカクテルをグラスに入れ、思い切り喉に流し込み、ホイップクリームのスプレーを口にいっぱいかけて、最後にさくらんぼを天辺に乗せて俺の後を追うのだった。




