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転がる先  作者: カシテルミ
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転がった先の景色

父は、わたしを見つけ、名前を叫びました。

「あかり!!」

離れた場所でも見つけてくれた父。


その光景は、光。

もう大丈夫。

自分の踏ん張りは、あと少し。


ととが来てくれれば

隣の、おばさんを安心させることもできる

なにより魚さんを海へ

ここに居ては魚さんの命が危ない

とと、早く、早く!! 


心に浮かんだ感情を声にしようとした瞬間。


「わや、なんばしょっとか!!!!こんっバカタレがっ!!!!」 


父の怒鳴り声が、小さな私の体を揺らしました。

怒りを全身から解き放ち、私を見ています。

周りの音は消え

辺りに張り詰めた空気が流れます。

傍らのおばさんは、私の体から手を離し

魚や私より、怒りを放つ父から目が離せず、呆気にとられています。


怒りが吹き出した凄い形相の父は

勢いよく私の元へ駆け出し迷うことなく、風を切り私を綺麗に蹴り飛ばしました。


目の前の景色は、ゆっくり流れ始め

わたしの足は床を離れ、移動しながら宙を舞います。

腕に抱いた魚は簡単に抜け出し、私より高く上がり

各自、床に叩きつけられ

ゴロゴロとまっすぐ床を転がり

惣菜売り場の陳列ケースに衝突し、停止しました。

頭もぶつけたんだから気絶すればいいものを

しぶとく気など保っていたもんだから

痛みより速く、恥ずかしさに襲われ、処理のできない恐怖に囲まれて

4歳の私は、泣きわめくことしかできなかった。

父は、歩み寄り、なお激しく私を怒鳴りつけ

周りの大人が私と父を引き離し、

私の盾になってくれたのを思い出しました。

わたしを咎めていた おばさんは駆け寄り

今度は、父へと怒りの矛先を向け

悲痛な声をあげ

「なんもそこまで、頭打ったらどけんすっとね、わが子を蹴飛ばしてまで、あんた親ね‼⁉」


父は

「こんバカタレは言うて分からんで、ほんなこつ、すんません」


「こげん小さか子に、言うて分からんかったら蹴っとな⁉なんばなんもやりすぎじゃっど」


私の鳴き声と、おばさんの声が響きます。


駆けつけた店員を見つけると、父は進んで歩み寄り、自分が目を離した隙に娘が申し訳ないことをしたこと、損害を弁償する旨を伝え、何度も頭を下げていました。


父の右手にはずっと魚が握られており

父の身動に合わせ、鈍く揺れる魚と目が合い

海に帰っても泳げないことが分かりました。


体の痛みより、全身を射る恥ずかしさより

謝る父の姿が耐えられなかった。


魚を助けたかっただけで

父に謝らせることをしたいなんて

思ってない。


魚はまだ刺し身じゃない

海まで頑張ったら泳げる

魚さんは自由に動けて行きたい場所に行けて、幸せに

その姿を、きっと父も一緒に喜んでくれる。


私のしたかったことは、それだったのに。

父が真剣に謝るから、

バカタレって、蹴飛ばして、怖い顔で言うから

悪いことだったと知った。

全部、嫌で、嫌で、泣いた。

自分が悪い奴なんて

なりたくて、なった訳じゃない。

でも、行いをみたら、悪いこと。


 


わたしが思い出せる古い記憶。

初めて転んで見た景色。


どうしてこんなしょうもないこと

座れた京浜東北線の中で、思い出したんだろう。

携帯をみると啓介との待ち合わせ時間が迫っている。

待たせるといけないから

連絡、入れておこう。

2005年、18歳を迎えようとしていました。

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