自殺屋
俺はアマチュア小説家、しこたまに飲んでいる。馬鹿野郎目、俺の経済学小説がわからないなんて、正直もう何を書いていいのかわからん。裏通りを歩くと店屋があった
「自殺屋」そうか自殺でもするかウィック。
はい、いらっしゃーいい。明るいブックオフのような受け答えだ。古本屋に続き自殺屋も明るくなるのか?
「どの自殺をご希望ですか?」
「安らかに死ねる奴」
「こちらの布団で自殺はいかがですか?」
「いいね。それで行こう」
布団に入り、俺は夢を見る。
俺は今非常にきれいな紅葉を味わいに山の中まできている。デンマーク産の海底で眠っている絵の具を塗ったような赤や黄色やオレンジの葉の中でたたずんでいる。オゾンが心地よい。愛車のスイフトもエンジン快調だ。安くて心地よい走りをするこの車を私は愛している。ほかにも愛するものがある。たとえば今日一緒に来た佳織だ。
「ねえ私のことどのくらい愛している?」
「地球上の全ての女のうちで君が一番好きだよ」
「嘘おっしゃい。地球上の女なんて全てに会えるわけ無いじゃない。そういうのって量れやしないのよ」
俺はため息をつく。経済学で院まで行った偏執的なところが彼女のうんざりするところだ。だが肩をもんでおくれと言うと、そっと手を俺の首から肩に掛けてなでるようにする。彼女の指が有るところ、あるポイントに突然止まる。そこまで来ると突然揉み始める。首と肩がすっかり筋肉を緩める。
「どうしてこんな優れたもみ方ができるんだい?」
「どうして貴方には、これができないのかしら?」
俺たちは笑う。
「気持ちいいな」
「私もうれしいわ」
「計り知れない」
彼女は笑う。
「最初からそう言えばいいのよ」
ゆったりと太陽が沈み始める。山が本来の魔性を取り戻しに来る。ジプシーでも歌い出すようだ。早くここから逃げないと飲み込まれる。肩の調子がよいおかげで運転が楽だ。
「いつか教えてもらいたいな君のマッサージ」
「そうしたら貴方の気持ちよさがわかるのかしら」
「どうかな。ボクサーの話知ってる?」
「ボクサー?」
「真にハングリーなボクサーが一番ほしいものは水だって」
「ふうん」
「でも俺はもっとハングリーだぜ。この世でもっとほしいものはマッサージだぜ。水なんて目じゃないよ」
「ボクサーの減量とかやったことあるの?」
「ない」
「じゃあ、わからないじゃない」
「……」
かわいくないな。君は。
「いやボクサーも肩こりに悩んだらわかるぜ」
「ちゃんと体を鍛えてる人は肩こりにならないって言うわよ」
「そうなの?」
「運動不足直しなさいよ」
「肩こりのためなら体鍛える」
「紅葉きれいだったわね」
「何でそこで無視するんだよ」
「してないわよ。割れた腹筋で結果見せてちょーだい」
「肩だから僧帽筋だよ」
「じゃ僧帽筋で」
完璧に馬鹿にされてる。途中で温泉に入る。
で、家に着くと俺たちはおなじみのコースに移る。つまり、彼女と俺は寝る。そこであのマッサージですよ。気持ちよさはつたえることはできません。
ただ一ついえるなら肩こりのほぐれる手。いいんだな、これが。肩こりのほぐれる手。
肩こりがゆっくりとほぐれていくのがわかる。俺は死んでいく。死んでいく。なんて気持ちがいいんだ。
布団王にあった。
「私は布団を司る布団王、おぬしが負け犬のジョンか」
「そうだとも」
「どうせなら人類を滅ぼさないか? 君の 怨念の強さでなら人は殺せる」
「いやだよ」
布団王はがっくりしたか顔をした。マッサージのうまい女はいない?
俺は逆に聞いた。