9話
ふと、先生が私といる理由に興味を持った。そんなことを口にしても教えてもらえないこともわかっている。このままでいたいのなら求めることをしてはならない。でも、あまりにも似過ぎているこの状況に疑問が浮き出る。本当、先生と私は似ている。そこまでなった要因を突き止めたかった。
そんなことを考えながらも口にすることのできない弱さがあるのが痛ましい。私はそれを忘れることにした。そうすれば何も起きない。これ以上の幸福はないだろう。
「先生、次はどこに行くの?」
「君が行きたいと言った海を目指している。僕もまだ知らなくてね……すぐには着かないかもしれない」と苦笑い。彼の背中に寄り添い、強く抱きしめる。どちらも離れることはない。この時間が何よりも愛おしい。理由はわからずとも大切に温めておきたいものであった。
「そうなんだ。私は大丈夫だから、ゆっくりと行こう。本当は先生がいるだけでいいから」
「絶対に連れて行ってみせる。君の願いをひとつも叶えることなく終わらせたくないから。何だっていい。僕以外の願いを叶えてあげたい」
先生の背中が静かに濡れる。私は先生の大きな背中に顔を埋めた。震えて細くなった声、まだ言葉にできない願望が喉の奥に消える。伝えられなくとも、私からすれば大きな存在に変わりない。
「そんなこと良いのに。もう、先生は一度決めたら曲げないんだから。まあ、私もそうなのかな」
「そうだろうね。メアリには負けてばかりだ。そんな君だからこそ共にいたいと思えるんだろう」
精神的な面であるらしい。自身が正しいことを口にしているとは思えない。だが、それが先生に影響を与えているのは事実のようだ。少し照れ臭いものの、彼と共にいることを実感できる。メアリという人間がここにいる、生きているということを。
「そんなこと言ってくれると嬉しいな。先生からそんなことを聞けるなんて」
たとえ嘘であったとしても。本音である確証は得られない。幻想の物語は始まり、終わっていく。私は精一杯、笑みを浮かべた。硬直し始めた筋肉を動かして。
これが最期の我儘。永遠に続いていく呪いであり、赦されることのないもの。
「先生、最後のお願い良いかな……」
「なんだい?」
「先生、私のことを忘れないで。私との出会い、生活。他にも色々あると思う。私が共に過した日々よりも長いものがこれからあると思う。けれど、忘れないでほしい。私が生きた証になるから」
「わかっている。君が言わなくてもそのつもりでいた。覚悟は決めているから、メアリのことを忘れないよう努力はするさ」
やはり、自信に満ちた表情は見られなかった。
ベッドに倒れ込んだまま、私は先生に話しかけた。ひとつの灯火が消える時を相手も理解しているようだった。かすかに震える指を滑らし、先生の頬へとやる。冷たく、自身の想い出が彼を濡らす。約束の地には行けなかったものの、隣にいる人が看取ってくれるだけで生きた意味はあった。
「今までありがとう。私を見つけてくれて、助けてくれて。先生にとっては気まぐれでしかなかったと思うけれど私は楽しかった。先生との時間が愛おしかった。本当にありがとう。そして、さようなら」と掴まれた手がすり抜ける。力は残されていない。ただ重く、脳からの司令が途切れた腕は静かに落ちていった。