表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星の旅路  作者: 望月 紫桜
8/57

8話

 急に日常の視点が低下する。普段より倍は小さくなっただろうか。動かなくなったものの代わりに先生が足となる。自身で自由に行けない弱さ、人間の脆さを憎んでも元の形に戻るなんてことはなかった。だが忘れかけていた感覚が引き寄せられる。幼い頃の記憶、おぶってくれた大きな人物。それを確かに覚えている。二度と再会することの許されない人物との想い出を。

 病が良くなったら何をしたいか、という問いかけ。正直なところ何も思いつかない。考えていなかったというのもあるだろうが、先のことは伸ばしてばかりいた。背けば安楽はやって来ないと暗示をかけていたから。

「何もいらない。ううん、先生が傍にいてくれたらいい」

「そんなことで良いのかい。僕には何でも叶えることのできる万能の力がある。それを使えば君の願いは……」

魔法を使えば大抵の願いを叶えることはできる。望めば永遠に生きることも可能とするものだ。しかし、同時に不遇なものである。多くのものを見放しながら零していく。一人で拭うことのできない苦しみを背負い、滅びゆく世界を眺めていく。耐えることが不可能なものは不要だ。小さなものだけで十分なのだから。

 背中に身を寄せ、胸の内に宿る想いを確かなものにしていく。逃げるのではなく、前に進むために拒むのだ。与えられたものを全うし、未来へ繋げていく。

「何も言わないで。私は魔法になんて頼りたくないの。人間として生きていたのだから、人間として在るのは当たり前のこと。私はそれだけを言っているの。他は何も…………」

「それなら、僕も努力してみるよ。そんな選択肢もあったのか。恩恵を与えているというものではなく、貰ったものを返すという考えなら当てはまるか」

彼から渡されたもの、それらを返していきたいのだ。魔法を与えられたのではないなら、貰う必要もない。

「私には手に余ることは手にしない。むしろ、必要ないとまで思っている」

「そう思ってくれていたのなら、僕もできる限り努力する。僕だって魔法に頼ることなくできるんだから」と引き攣った笑みが見えた。わずかに肩に力が入り、震わせている。何とも簡単な反応なことだろう。今更、気づかないふりをする気はない。

「そう言って誤魔化して、わかっているんだから」

そんな意地悪を口にしてみた。

 また彼の表情が険しくなる。どうして知っているのかと言わないばかりの疑問、全てを理解されているという自覚は芽生えていなかったようだ。最終的に辿り着いた答え。本当、遠回りし過ぎた目的地であった。

「君にはお見通しってことか。全く、参ったなあ……」 

「ふふん、先生のことは何でもわかる。何を隠そうとしているのかも。言い訳は無用だよ」

「そこを何も言わないのか……意地悪なものになったなあ」

二つの笑い声が道全体に響き渡る。互いの成長を感じ取り、未来への希望を抱く。一方的なもので果てしなく続いていくもの。私は先生と共に行くことができない。その現実が憎らしく思えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ