6話
出会いから半年が経過した頃のことだった。
「村の外に出てみないかい?」と先生は口にした。少女の手を取り、いつになくやる気に満ちている。広大な世界を知って欲しいと語る姿に敗れた。興味がなかったわけではない。ただ勇気が出なかった。ひとりだと何が起きるのか予想がつかない。対処できる術、知識もない。だから遠ざけて亡失することにした。もとからないと思えば好奇心すらなくなってしまうから。
そんな生き方はつまらないらしい。世界には楽しいこともある。先生は何度も口にし、その口元は緩んでいた。
「それでも行かないと言うなら良い。君の意見を尊重する。メアリが決めることなのだから」
自身に問いかけてみる。もちろん、ここから足を踏み出す不安はある。だがこんな廃れた村でずっと閉じこもっているのも辛い。新しいものが欲しい。繰り返しばかりの日々はもう、先生と共に進んで行くと決めたのだから。
「行く。私が生きる世界を見たい」と決意する。自ら望んで先生から離れることはない。一人前の人間に成長するまで隣にいると。
外は明るく、美しかった。未開の地は煌めき、新しく旅立つ人を祝う。今まで目を向けなかったのが勿体ない。その光景を映し出し、目に焼き付ける。この日だけは忘却したくないと冀った。
「世界がこんなに奇麗だったなんて……」
真っ青な空を飛びながら唄う鳥、草木は風に揺られながら音を立てる。微光が頰に触れて消え去っていく。光は足元まで行き、雪のように降り積もる。この世界で二人しか知らない光景。どこか秘密を共有したようで嬉しい。子どもじみた反応ばかりであるかもしれないがそれで良い。初め贈られた服を翻しながら私は空の下で踊った。
だが、少し気になることがある。先生の表情がわずかに暗い。奇妙なものでも目にした顔だ。特に変わった光景はないように思える。旅をしてきた彼からしてみれば、以前と異なる部分があるのだろうか。
「この光は何だろうか。見たことのないものだが」
「さあ、私にもわかりません。村の方では見なかったので」
「そんな……」と青年は言葉を失っていた。
数ヶ月が経過しても光の正体を突き詰めることができなかった。
「先生、この光の正体は掴めた?」
「いや、今までに見たことのない物質ばかりだ。人間が作り出したものかもわからない。話を聞くにしろ、誰も残っていないから望みはないな。どこに行けば人がいるのだろうか」
二人以外の人影など存在せず、研究は必要性を失いつつある。先生といられるならどこでもいい。こんな願い、求めなければよかった。
先生には幸福なところにいて欲しい。自身が最期の星の記憶を保持しとけばいい。全てが無に還る。私がいなくなれば、この世界は人間のいない日々を費やしてゆっくりと破滅へと向かっていくのだろう。それまでは足を止めないでいたい。できる限り、与えられたものを目に入れておきたい。
そんな夢もいつか終わりを迎える。そう告知されていたものの、それはあっけなくやってきた。