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星の旅路  作者: 望月 紫桜
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5話

 その日は晴れていた。誰もが目を疑いたくなるほどの晴天で眩い光は私の心をかき乱していた。そのせいなのだろうか、普段なら足の踏み入れる事のない場へと歩みを進めた。

 足元が崩れ、底なしの地底へと向かう。落ちてゆく夢、希望。ここに助けてくれる者はいない。身勝手な人物を叱ってくれる人も、心配をしてくれる人もいない。ただあるのは孤独、静かに消え去ろうとする魂は諦めの姿勢でいた。何もないのならこのまま沈むのも一興なのだろう。愛想のない世界で生きていくのにも気が滅入っていたから。

 運命というものは残酷なものか、手を掴む者がいた。それは強力で抵抗することもできない。この世に生を受け、新たに息を吹き返す。外界との交わりを試みようと目を覚ます。瞳孔を開けると、一人の男性の姿があった。老人にも見え、青年とも呼べそうな爽やかさ。実際なところ、年齢までは判断がつかない。いや、知らないからこそ生まれた関係であったのだろう。

「君はどうして、それを受け入れようとしたんだい。その先にあるものを知らないという無知から始まるものだったら、呆れるしかないが」

「知っています。私だって知っています。この先にあったのは永遠の眠り、最大の幸福であると同時に最悪の不幸。つまり、死。私には生きる意思がなかった。このままいれば楽になれたものを……」

世界は私を否定する。時に喜びを与え、絶望を振りまく人生に憎らしさを覚えた。

 生きていれば誰しも平等に不幸は訪れる。そう男性は口にした。不幸と同様の幸福。相互関係までとは言わずとも、一定の法則があるのは確かなのだろう。今なら言える。男性との日々はキセキの巡り合わせであったと。それが、初めから終わる結末であると決められていたものだとしても。

 男性は私の名を欲した。本当に失礼な人間だ。勝手な一人の情だけで正義を振りかざし、一人の少女を世界の理へと誘う。どのような影響を与えるのかなど予知していることだろう。この世界のため、そう口にする言葉が彼自身のものなのか、世界のものなのかは最後まで突き詰めることはできなかった。彼が自由に生きているのなら、自分も同様にしても良いはずだ。誰にも止める権利などない。少女はここで死を迎え、新たに誕生した。

「私の名前はメアリです。よろしくお願いします」と。

「僕は暫時の師ということにしておこう。僕のことは先生で良い。僕は君の親になることはできないから」

「先生で良いのでしょうか? なんだか恥ずかしいです……年上の人と関わることはなかったので」

こんな経験は初めてだ。初見のはずなのにどこか懐かしさを覚えている。新しい道を夢心地の中で歩み出す。花が、風が二人を祝う。少女は成長し、男性は止めていた足を進めた。

 男性は魔法使いであるらしい。無から形あるものを作り出し、奇跡に近しいものを起こす。彼はその血族であるという。不真面目、楽観的な性格からは想像もつかない。しかし、長いローブ、古めかしい木の杖は彼の特徴を物語っている。特に杖、私の背丈くらいはあるであろうものは耳にした物語と同様のものであった。

 だが、魔法を教わることはなかった。必要なかったとでも言うべきなのだろうか。身の回りにある困難を未知のもので解決するのは裏切る行為にあたる。彼の能力は万能のものではないのだから。

「君がそう決めたのなら、僕は何も言わない。この力は元からあるものではない。空の器に新しく入れるようなもの。その活用は適していないと発揮できない。どうやら、メアリにはその素質がないようだ。僕から教えても意味はない」

「そうなんだ。それなら良いし、私は困らすようなわがままは言わない。でも一つだけ、私はあなたと一緒にいたい。両親のいない私に愛情を教えてくれた。父までとは言わない。だけど……誰よりも父らしい。少し頼りないけれど」と笑ってみせる。気まぐれな、一方的な想いを現実的に受け取らない彼は冷然としていた。

 メアリには家族と呼べるものがいない。親代わりとなっていた者は遠い過去に命を落とし、助けてくれる人も残されていなかった。そんな余裕さえも人類は失っている。生きることは苦しいこと。そう信じてばかりいる村の人たちは諦めることになる。何もかもを流れに身を任せて狂っていった。メアリはこの世界から見放された感覚に陥りつつもここまで来た。その結果がかけがえのないものを与えてくれた。ひとつの生きる希望を。

 先生と暮らし始めてからある疑問が生まれた。先生の生活習慣が異様だった。料理どころか家事ひとつできない。私が起こさなければいつまでも眠っている。今までどうやって生活を営んできたのか気になるところだ。堕落した彼は依存している。誰かがいなければ独りで終末へと向かっていくことだろう。人生経験は多いはずなのに、生活習慣だけは目を疑った。

「先生。今までの生活は……」

「どうしたんだい?」

それだけは掴めない。話そうとしなければ、過去の話としても伝達されることはなかった。

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