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流るる夢に想いを馳せて。

作者: 柊ゆづき

あなたは人生について悩んだことはありませんか?

立ち止まりたくなった時、なぜ生きているのかわからなくなった時。ぜひこの物語を読んでください。

生きやすくなるためのヒントが隠されています。この物語は深呼吸するような作品となっております。


プロローグ:夢


 「必ず、助けるから。」


第一章:【私】


 「花、花、朝よ。遅刻するわよ!」

はあ、最悪だ。また変な夢を見た。男の人に何か言われてる夢。この夢を見始めたのはたしか1年くらい前。それから私はあまり寝れなくなった。

「はーい、今行く。」

階段を降りるといつものように食卓にご飯が並んである。お母さんが作る朝食はいつも決まっている。炊き立ての白米にお味噌汁、卵焼きと果物。朝からこんなに食べれないのに。残すと口うるさいから無理して食べるけど。絶妙にダサい制服を着て今日も家を出る。

「行ってきます。」

「行ってらっしゃい!」

いつもと変わらない毎日。平凡、普通。つまらない。誰かこの日常をぶっ壊してはくれないだろうか。そんなことを考えながら長くも短くもない通学路を歩く。

ここはランウェイだと思いモデルのウォーキングを真似てみる。犬に吠えられた。気にしない。前はおしっこをかけられたんだから。今日はうるさいカラスはいないみたい。いつも喧嘩してるから今日は早く着いちゃいそう。


 「花ちゃん、おはよう。」

「あ、おはよう。梨加、愛菜。」

私のイツメン、梨加と愛菜。梨加は親が会社の社長らしくいつもキラキラしてる。先生にバレないように髪の毛を染めたりピアスを開けたりしている。私には真似できない。大学生の彼氏がいるらしく人生を楽しんでる。羨ましい。

「花ちゃん、寝癖ついてるよ。」「あ、まじか。ありがとう。」

この子は愛菜。典型的な真面目っ子。黒縁眼鏡をしてる。図書委員会の副委員長。いつも忙しそう。前になんでそんなに大変なのに副委員長なんてしてるの?って聞いたら、楽しいから!なんて。ちょーいい子。

「今日、席替えでしょ。近くになれるといいね!」

「そうだね!」

「うん。」

何か一つでもやらかしたら離れていきそうな二人と今日も何気ない日々を過ごす。


 席替えは可もなく不可もなく終わった。梨加と愛菜とは離れたけど幼馴染で唯一の男友達、大樹と隣になった。

「お、花。よろしくな!」

「うん。よろしく。」

寝てたら起こしてくれなんて私の知ったこっちゃない。こんなつまらない授業なんて受けたくもないのに。最近、私は何もやる気が起きない。寝ても覚めても何をしてても。ずっとぼーっとしてる。何か胸に突っかかってるものがあって。でもそれが何なのか分かんなくて。何かを探してる。これが“私”。今の生きる理由。私、宮本花は何かを見つける為に今日も生きる。


第二章:【未】


 「花ちゃん、進路決めた?」

高校2年生。11月。私は人生の帰路に立っていた。とは言っても大したものではない。進学にするのか就職にするのか。進学にするなら大学か専門学校か。就職するならどこの企業は行くのか。

「うん。進学しようと思ってる。」

「えー、じゃあ就職は私だけか。」

「そっか、愛菜は大学だもんね。」

愛菜は図書館の司書になりたいらしくその勉強をする為に大学に行くらしい。梨加は実家の会社をいつか引き継ぐ為に就職して現場で学ぶみたい。

「二人ともやりたいことが決まっててすごいな。」

「え、花ちゃんやりたいことないの?」

「夢とかは?」

夢。考えたこともなかった。強いてあげるなら“何か”を見つけること。こんなこと志望理由書に書けやしない。

「これから見つけよっかな。」


 「ただいま。」

家に帰ると明かりが着いていなかった。たまにある。お母さんがどこかに行っている。そのどこかは聞いたことないけど多分知ってる。でもお互い口にしない。絶対に。

「あら、帰ってたのね。おかえり。」

「ただいま。」

今、晩御飯作るからね。とお母さんはいつも通りの顔で台所に向かった。

「お母さん。私、進学にしたから。」

そう。たくさん学びなさい。とお母さんは言った。

うん。今日は何故かこれ以上会話をしなかった。


 私には父がいない。正確には私の何歳かの誕生日に死んだ。川で子どもを助けて自分は溺れたらしい。

父のことは覚えていない。お母さん曰く頑固であまり笑わない人だったみたい。だだ私が産まれた時はすっごく笑ってたって。見たことないくらい笑顔だったって。昔聞いたことがある。お母さんは今でも父のことが忘れられないらしい。父が溺れた川によく行っている。夜家を出るお母さんをつけた時に見てしまった。海斗さん、海斗さんって泣くお母さんを。私はそれから父のことは一切口にしてしない。触れちゃいけないようなそんな気がしていたから。

「さあ、できたよ。ご飯食べよう。」

「うん。」



 「必ず、助けるから。」

 


第三章:【壊】

 

 水の音。今日はいつも見る夢が少し違った。水の音が聞こえた。水の中にいるのか。何かに手を引っ張られるような。あと少し、あと少しで思い出せそう。

「花、花、朝よ。遅刻するわよ。」

ポチャン

「はーい。」

「はい、しっかり食べてね。」

「いただきます。」


 嫌な予感がしてる。暗い雲に覆われているような。モヤっとするような。何か黒いものが心を侵食してくるような。その何かによって私の人生は破壊されることになる。


 「花、ちょっと聞いてくんない?」

梨加が少し腹を立てているような口調で話しかけてきた。どうしたのと聞くと、愛菜のことで愚痴を言いにきた。

「就職に悪影響だから、もうチャラいことするなって。」真面目な愛菜とチャラついてる梨加と何故仲が良いのか分からなかったけどやっぱりこういう話になるかと思った。

「梨加のことを考えてくれてるんじゃない?」

違うわよ。私のことが気に入らないの。この前も…

ああ始まった。これは終わらないやつだ。聞くだけで相手は満足するからうんうん、と相槌を打って終わろう。

「花は私の味方でいてよね。」


 「花ちゃん、相談があって。」

愛菜が私のところに駆け寄りながら話しかけてきた。またどうしたの。と聞く。愛菜は梨加のことを思って色々アドバイスだったり直した方がいいところを言っているのに聞いてくれないと言っている。私じゃダメなのかなと。そんなことないよ。感謝してると思うよ。って言っとく。これで大丈夫。

「でも、梨加ちゃんさ髪の毛を茶色にしておかしいんじゃない?校則違反だしこの前先生に注意されてたのにまだ黒染めしてないよ。」はは。聞くだけ聞くだけ。

「ピアスも開けて。可愛いと思ってるのかな。」

そんなこと言わな…

ガチャ バン

嫌な予感か正体はこれか、と思った。

「どういうこと?陰で私のこと馬鹿にしてたの?髪の毛もピアスも可愛いって褒めてくれたじゃん。」

「可愛いって思ったよ。でも、ルールを破っていい理由にはならないよ。」

「なんでも、ルール、ルールってうざいんだよ。クソ真面目。」

「酷い。私は梨加ちゃんの為を思って言ったのに。」

「二人とも落ち着いて。ちゃんと話そ。」

「てかさ、花ってなんなの。」

グサッと刺さる音がした。

「私の味方でいてって言ったよね。」

だめ。

「え、花ちゃん、梨加となんか話してたの?」

やめて。

「そう。あんたの悪口を話してたのよ。」

違う。

「え、酷い。両方にいい顔してたの。最低。」

私は。

「花ってそういうところあるよね。いい人ぶって。自分の気持ちは隠して、常に相手に合わせて。それ全然嬉しくないから。」

「花ちゃん片親だもんね。お母さんみたいに周りを伺って生きてるもんね。だから全部中途半端なんだよ。」

終わった。その瞬間目の前が真っ暗になった気がした。


 それからのことはよく覚えていない。気づいたらいつも通りの道を歩いて家に着いてた。暗い。お母さんはまたあそこにいるのだろうか。

「あら、花、どうしたの。電気付けないで。」

やめろ!

「どこ行ってたの。」

「え、ちょっとね。」

だめだ!

「あの川でしょ。お父さんが死んだ。」

「え、ええ。」

ばか!

「いい加減にしてよ。何回も何回も。もうお父さんは戻ってこないんだよ。近所の人にひそひそ話されて恥ずかしいよ。」

「ごめんなさい。」

「それに、毎日同じ朝ご飯。しかも量多過ぎ。食べれるわけないじゃん。」

「それは、花に大きくなってほしいから。」

「もう高校生だよ。いつまでも子どもじゃないんだから。」

「花、どうしたの?何かあった?」

「なんで。」

「え?」

「なんでお父さんいないの。なんでお母さんしかいないの。もう嫌。お母さんのせいで私、中途半端って言われた。周りに合わすことってそんなにいけないこと?お母さんが陰で何か言われてるの見るのも限界。もう変なことしないで。」

「花、それはね。」

「もういい。聞きたくない。」

「花!」

その時、初めてお母さんの怒った声を聞いた。

私は聞きたくない、聞いちゃいけない、って思ってそのまま家を出た。とにかく走った。遠くへ、遠くへ。


第四章:【海】


 辺りは真っ暗だった。何も見えない。ただひたすら前に進む。最悪だ。お母さんに八つ当たりした。お母さんは何も悪くないのに。私が中途半端なせいで。最悪だ。私は何も持ってない。梨加のような自分で人生を楽しむ力も。愛菜のような夢も。お母さんのような優しさも。何にも持ってない。空っぽだ。私がいることでお母さんを困らせてたんじゃないか。死んだ方がマシなんじゃないか。そんなことまで考えてしまう。頭が痛い。このまま消えてなくなりたい。ああ、そっか。私って弱かったんだ。今やっと気づいた。私は何もできない。生きてる意味なんて…

バシャーン

気づいたら私は川に落ちていた。

暗闇を走っていたから気づかなかったんだ。やばい。泳げない。助けて。息が苦しい。あ、私助けられる資格ないや。梨加と愛菜と中途半端に付き合って、お母さんを傷つけて。お父さんのことを知ろうとしなくて。まあいっか。このままさようならしても。




「必ず、助けるから。」


 


 「陽子さん、花は?」

「それが家を飛び出したきりわからないの。スマホも置いてっちゃったみたいで。」

「クソ。」

「私が悪いの。あの子の気持ちに気づいてあげられていなかった。どうしよう大樹くん。」

「大丈夫です。俺が必ず見つけますから。」

 



「必ず、助けるから。」




声が聞こえる。誰?

「必ず、助けるから。手を伸ばせるか?」

うん。伸ばせるよ。

「よし、いい子だ。あともうちょっとだ、花。」

どうして私の名前を知ってるの。

「そうだ。ほら。お父さんにしがみつけ。」

お父さん、お父さん。思い出した。変な夢の正体。そうだ。あれは夢なんかじゃない。私の記憶だったんだ。3歳の誕生日、お父さんの仕事が終わるのを待っていた私は川に遊びに行ったんだ。そこで足を滑らせて川に落ちて。頭を強く打って溺れた。その時、お父さんが助けてくれたんだ。自分を犠牲にして私を助けてくれたんだ。なんで忘れてたんだろう。お母さんは知ってたんだよね。私を傷つけない為に言わなかったんだね。辛かったね。ごめんなさい。お母さんに謝らないと。お父さん、もう一度助けて。私まだやらなくちゃいけないことがたくさんあるの。お母さんに八つ当たりしてごめんねって謝る。お父さんのことちゃんと聞く。知りたいの。あと、梨加と愛菜に謝らないと。二人とちゃんと向き合いたいって伝える。進路もちゃんと考えるから。お願い。お父さん。

「必ず、助けるから。」


 「花。」

お父さん?

「大きくなったな。」

お父さん、お父さん!

「さあ、手を繋いで。上がるぞ。」

うん!


 「花!!しっかりして花!」

「梨加、愛菜、いたぞ!花だ!」

「花!」「花ちゃん!」

みんな…?


第五章:【陽】


 目を覚ますとみんながいた。お母さんは崩れるように泣いてて梨加と愛菜は笑うように泣いてた。大樹は隠すように泣いてた。私も泣いてた。目から涙が止まらなかった。


 それからしばらくして私は退院した。梨加と愛菜とちゃんと話をした。二人はお互いのことを思っていた上での口論になったらしい。もう仲直りしているみたい。私は二人に謝った。中途半端に関わっていた。二人とちゃんと向き合ってちゃんと友達になりたい。そう伝えた。二人は笑って許してくれた。私もごめんねって。言っちゃいけないこと言ったって謝ってくれた。心がふらっと軽くなった気がした。一人じゃない。そう思えた。


 私は大学に進学することを決めた。川や海のことを学びたいって思った。いつか、お父さんみたいな溺れて死ぬ人を無くしたい。そう思ってる。何からすればいいのか全くわかんないけどこれからたっくさん勉強しようと思う。すごく楽しみ。


 お母さんとも話した。お父さんのことちゃんと聞いた。お母さんは泣いてた。辛かったねって気づいてあげられなくてごめんねって。私の方こそごめんっていつもありがとうって。そう言って抱き合った。お母さんの胸は温かかった。お母さんを幸せにするからって言ったら、花が笑っててくれたらそれで幸せだって笑ってた。私も釣られて笑った。この瞬間がいつまでも永遠でありますように。お父さん、見守っててね。


エピローグ:樹


放課後、大樹と帰る道。

「なあなあ。花って何で花って名前になったんだ。」

「え?何でよ。」

「いや、なんでもねえけど、知りたくて。」

「…お父さんがつけてくれたんだ。お父さんが海斗、お母さんが陽子って言うの。」

「うん。」

「それで、海、水と太陽。二つがあれば綺麗な花が咲くって。俺が水となって母さんが陽となってお前を育てるからなって。言ってくれたの。」

「そうなんだ。ステキな理由だな。」

「大樹は?なんで大樹なの?」

「立派な樹になって、美しい花をお嫁に貰えるようにだってよ。」

「へー。」

「俺のお嫁になってくれないか?」

「は?私たちまだ付き合ってないし」

「じゃあ、付き合うところから!頼む!」

「泳げる?」

「え?」

「だって、私、結婚するならお父さんみたいな人がいいから。」

この物語を読んでいただき誠にありがとうございます。読んでくださった方が少しでも前向きな気持ちになれると幸いです。私自身が感じていること思ったことを花に伝えていただきました。花はこれから強く生きるのでしょう。私も負けていられません。あなたには今を楽しく生きていただけると嬉しい限りです。あなたの笑顔で救われている人はいます。あなたが明日も笑えますように。

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