ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋
「さてと。旅立つ可愛いクリトに餞別をやらないとね」
そう言うとクリトの右隣に光が集まり、チエの娘、もとい、ホムンクルスが現れた。よく見ると、服が変わり刀を佩いている。長い黒髪は後ろで一つに結び、袖の無い白いシャツに黒い細身のパンツに黒い編み上げブーツ。服も飾り気はないが、所謂太刀と呼ばれるタイプの刀で鞘も黒く実用一辺倒の設えになっているが、朱色の太刀紐と銀色に鈍く輝くそ帯執がほぼ唯一のアクセントになっている。
また、腰の後ろには革製らしきやや大きめなポーチを負っているが、剣士である事を意識したのか、動きには邪魔にならない様なギリギリの位置と大きさに収まっている。
チエが準備したのならあれはおそらく魔道具で収納量が増されてるのだろうなと、魔力を読もうとする。すると、なんとなく、良く知っている気配を感じる。
「お前は、相棒?なのか?いや、寿司を食べる時にガリじゃなくて紅生姜が出てきた様な違和感が、、、。」
<是でもあり、否でもある。私はお前の相棒であり、伝説の神剣の草薙の剣であり、お前の一部でもあった。まぁ、その全てが混ざったモノで、このホムンクルスの身体を司っている。まぁ、控えめに言って全てを斬る最強にして優雅なる神剣士の爆誕だ!刮目相待せよ!>
基本精霊であるためか、声を出さずに精霊言語でクリトに話しかける。声は確かに相棒に似ているが、どちらかといえば幼なげであった面影はなく、自信に満ち溢れているようだ。そして顔は全くの無表情で、身体も所謂自然体のままドヤるという器用な真似をしている。
それに対するクリトは、胡乱げな眼差しをむけながら腰の皮袋を漁って一枚の銅貨を取り出し、山なりに草薙に放った。
表情を動かさず <にやり> とあえて声に出した草薙は腰の刀を抜くと迷いなく振り抜き、銅貨を斬りつけた。
そして、キンという硬い音と共に銅貨は遥か彼方に飛んで行った。。。
「だよなぁ。
構成式がおかしいと思ったんだよ。お前、それじゃ魔術しか切れないぞ。
動きにしても多分俺の動きをトレースしたんだろうが、その身体と俺じゃ間合いも筋力も関節の可動域も何もかも違うだろう?
まるで、肉抜き、玉ねぎ抜きの生姜焼きみたいに何もかもが足りないな。
なにより、」
クリトの指が一切の光を吸い込むかの様な漆黒の刀身を指す。
「刃がないぞ?それ。」
冷えたというよりもパサついた空気が、流れる。
「東の国の武具は詳しく無いが、刀身の厚みから見ると確かに刺すよりは断つ様に作られてそうだな。
だけど、刃が潰れた訳じゃなくて、刃をそもそも付けて打たれてないな。
つまりお前は魔力は切れて、体捌きはそこそこの剣士風な棒術士だな。
魔術切りなんていうレアな技能がある分、うっかり焦がした本格カレー並に残念な感じだな。」
副音声すらOFFの完全無表情の娘(?)を見てチエは嘆息しながらクリトに話しかける。
「相変わらず、デリカシーが無いと言うか、遠慮が無いと言うか、、、半分くらい義理の妹みたいなもんじゃないのかい?少しは優しくしてやりなよ。」
草薙は体育座りをしてどんよりした空気でこちらに背を向けている。おそらく、無表情のままで。
「妹にはサトウキビのはちみつ漬けみたいな扱いだな。
ばあちゃんが餞別っていうんだから、これからの旅の道連れだろ?師匠には、相手の実力の把握と自分の身の程の把握は必要だろうって耳にタコ焼きができてそろそろイカも食べたいなと思う程にはくどく言われたぜ?」
やれやれとクリトが応じれば、チエは器用に片眉だけ上げて視線をクリトと合わせる。
「相変わらずかわいくないねぇ。
まぁいい。おまえは今はまともに剣は振れないだろう?魔術構築はもともとバカ魔力量に任せたごり押しだし。魔力を集めるために魔物を刈るには草薙の力が必要だろう。
それと、魔道具もそこそこ作れて器用に使えるおまえなら役に立つだろうから、これも持っていきな。」
そういって、チエは幾何学的に四角く均一に薄平たいが光沢のある石のような、金属のようなものを懐からとりだし、クリトに渡した。
「これは、ばあちゃんの情報端末じゃないかよ。俺には使えなったと思うけど?」
「概念体にまで昇華した万能の魔女を舐めるんじゃないよ。
あんたにもある程度は使えるようにしてある。
もっとも完全な機能の再現は出来ないから、あたしのように音楽や画像、動画なんかは検索できないけど、外部演算は一部インストールしてある。
文字情報なら検索はできるようにしてあるよ。もっとも、入力と応答は音声のみだけどね。
だから、オマケはしておいたよ。」
クリトが魔導具を受け取ると急に声が聞こえ始めた。
〈やぱっり、最初の印象って大事だと思うのよね。びしっと出来る女の印象をしっかりと持ってもらうのってやっぱり大事だし。だってクリトくんでしょ?チエと出会った頃はちょっと生意気だったけど、やっぱりなかなか可愛くてトマトが苦手だったとこととかやっぱり弟的ポイント高いわよね。あとやっぱり最初は手負いの狼みたいにガルガルしてたのに、やっぱりチエに絆された後は、律儀に料理とかしてくれたし。チエが寝込んだ時の粥とか、どんだけ健気かよって感じだし。そりゃ、あたしは人工精霊みたいなもんだから、やっぱりじっさいには味わえないし、そもそも食べるための肉体はないけど、やっぱり食べてみたいわよね。食べたいといえば、やっぱりクーパーさんのところの紫目雉の煮込みよね。“めちゃくちゃ美味しい”“明日も食べたい”“おっさんの手によるおふくろの味”“俺特選最後の晩餐ベスト10殿堂入り”その他もろもろ絶賛だっていう評判の情報がもっさりだもの。あとは、やっぱりチェイルさんところの地獄炒め。超激辛料理で人類の限界に挑戦って言っているけど、どうなのかしら。"三日は尻が痛い”とか、“匂いだけでも目にしみる”とか。気になるわよね。気になるといえば、やっぱりセーナとユーナとトーヤの三角関係ね。トーヤくんが朴念仁過ぎだし、セーナは自分をごまかしてるし。ユーナちゃんの空回りもかわいいのよね。あとあと、やっぱりラウド王子とキュープリ二人組。知らぬは姉のみってドキドキじゃない?でも人気あるのよね。実際の王子と近衛をモデルにしているから、すごくリアルだし。きっと先月のあの出来事もふんわりオブラートに包んでストーリーに取り込むんでしょうね。あーそれと、やっぱりラムレス殿下シリーズの3冊目も気になるのよね。あの絶望のあとの邂逅はムネアツよね。さすが、王都随一の貴腐人の作品よね。だって、まさかあそこで抱〉
半眼になったクリトは無言でチエに魔導具を返す。
チエも無表情で受取り、それをコンコンとノックし、再度クリトに渡そうとする。
まるで牛乳を拭いた後に三日ほど洗い忘れた雑巾を見るような目でそれを見つめ、イヤイヤながら手にとる。
〈お初にお目にかかりますわ。クリトくん。私はチエと共にこの世界に来た携帯型高機能端末に付喪神式人工精霊体のプロトタイプを宿した貴方の姉のような存在でしてよ。以降、お見知りおきを。遠慮なく、おねえちゃんって呼んでいいわよ。〉
「ばあちゃん、あの」
「おまけとして、語り口調と検索結果の優先提示にあたしの娘の人格をトレースさせた。反省はしているが後悔はしていない。」
「いらないかな、これ。」
バッサリ切るクリトに魔導具は焦りをみせる。
〈ちょ!ちょっとまちなさいクリト!ほら、憧れのお姉ちゃんよ?!〉
「いや、そんなんいらんし。」
〈前の町で、八百屋のチナキちゃんみたいなお姉ちゃんがいたらって言っていたじゃない?〉
「よし、壊そう。草薙、出番だ。」
呼ばれた草薙は座ったままグリンと首をこちらに向ける。
〈待って!待って!やっぱり待って!!、あの、、、ね?〉
「年上の女性ならなんでもいい訳あるか!普段はこっちから甘えながらも、偶にあっちから甘えてくるくらいで、ちょっといい匂いにドキドキしつつ、まるで眼中に無いダークホースポジがいいんしゃないか!ただでさえ、包容力のある身体がないうえに、幼少期の氷菓子のような淡い思い出のチナキねぇちゃんを汚したモノには三回目の出汁をとった小魚の尻尾ほどの価値もないっ!」
「、、、このタイミングでクリトの趣味を知るとは思わなかったよ。。
それにしても悪乗りして作ったのは謝るよ、クリト。
だから、そんな冷たい目で見るのはやめなさいな。まぁ、我が娘がポンコツなのはわかっていたけど、改めて接すると酷いんもんだね。。
だけど、持っていきな。あんたの奥の手となるような魔術の構築式をそいつに仕込んである。それに、いろいろな情報を引き出せるのは大事なことだよ。」
「でも、なぁ、、、」
〈ちなみに、クーパーさんのところの紫目雉のレシピもチェイルさんの地獄炒めのレシピもわかるわよ。もちろんチエの特製レシピも。〉
「不束者ですが、なにとぞよろしくお願い申し上げます。お姉様。」
こうしてクリトはナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋と共に旅に出ることになった。
読んでいただきありがとうございます。
次回で序章のエピローグを迎えます。
次回嘘予告
追い詰められたヒトは最後の手段にでる。
序章 最終話 「夢落ち」
禁じ手による終焉に君は耐えられるのか。