宴
サナとの激戦を終えたクリトは折れた刀を見てクリトがぽつりとつぶやく。
「やっぱり天羽同斬でも、草薙は切れないね。」
まるで浄化されたかのようにクリトが無邪気な笑顔を見せると、逆袈裟に切られた身体に回復の魔札を発動させる。 そして、警戒しつつ近づいてきたユーナ達に目を向けると、困ったように眦を下げて語りかけた。
「ごめん、僕はこの一枚しかないからその魔札でサナを回復してあげて?
、、、それにしても!ユーナもトーマも酷いじゃないか。あんなに本気で魔術を打ち込むなんて、あと一瞬僕の反応がおそかったら、大ケガでもすまなかったかもしれないじゃん!僕はちゃんと大ケガさせないように気を付けていたのに!」
ぷんぷんというオノマトペが透けて見える表情のクリトにユーナが恐る恐る問いかける。
「、、、クリト?もう、魔王じゃない?乗っ取られてない?」
「、、、へ?あ、僕もう魔王じゃないみたい。あー、残念!魔術構築式がまた下手になっちゃったよ~。
けど、これで、またユーナ達と一緒に冒険できるね。やっぱり、自由に体がうごくのって、うれしくなっちゃうね。」
あざとい位に、にぱっと笑う。ガタイのいいクリトがなぜか可愛く見える。
「、、、少なくとも魔王という脅威は去った。それは間違いないですか?」
エインセルがユーナに問いかける。
ユーナはサナに魔札を発動させ、回復している。気絶はしたままだが、あちこちの裂傷も顔色も戻っていく。そんなサナに安堵しつつ、チセに確認をとる。
「うん、だいじょうぶだと思うよ?チセさん、今のクリトってどうなの?」
<まぁまぁまぁ!こんどのクリトのキャラは!なんと!“ショタ”らしのよ!あのね、あのね、ショタって 言うのはやっぱり少年のことなの。でもやっぱりただの少年って、キャラとして弱いのよね。そこで“ショタ”なのよ!やっぱり幼く、可愛いらしい少年、それがショタ!やっぱり、NOタッチは基本よね。けど、やっぱり、不安よね。でもね、チセお姉さん、やっぱり、思うのよ。男の娘はやっぱり流石にさすがすぎるんじゃないかって。やっぱりクリトはそこまではダメよね。けど、クリトってやっぱり男性としての男性らしい身体つきになっちゃっているじゃない?やっぱり、そっちのほうまで行っちゃうのかしら?けど、ショタってやっぱりそっちはダメだと思うのよね。ミッシェルはやっぱりそっちまで逝っちゃっていたけど。あの新作はやっぱり衝撃だったのよね。まさかミッシェルったら、ラウ
「大丈夫みたいですよ、エインセルさん」
触れることすら躊躇う扉を躊躇なく開けるチセに深く付き合うことはせずにユーナはエインセルに答える。その答えにほっとしたエインセルは改めてクリトと向き合う。
「それにしても、いったい、本当にあなた達は何物なのですか。世界樹に傷をつけるどころか、こんな幹を切り落とすなんて、、、。」
「僕の師匠はね、エインセルさんと同じように異世界人だったんだ。ただし、エインセルさんの居た世界とは別の世界からみたいだけどね。」
クリトが何気なく口にした言葉にエインセルは目を細める。
「なるほど。万能の魔女は異世界からの渡り人だったの。通りで規格外だったわけね。
で、教えてくれるかしら?
貴方の口ぶりだと、さっきの戦闘中もちゃんと自我があったみたいだけど、
なんであんなに凶悪なオーラを纏っていたのかしら?サナさんを本気で傷つけていたし。」
「あの、実は、サナが急成長していたのがうれしくて。
もう普通に話せるようになったみたいだし。やっぱり、サナが龍玉を食べたからだろうな~。」
なぜか少し恥ずかしそうに、クリトは答えていく。
「それと、ちょっぴり羨ましかったんだ。サナはどんどん人間になってきているのに、僕はあんなだったしね。それに、すごく剣もつよくなってて。だから、その、、、ごめんなさい。」
クリトは、でかい身体を小さくして、しょんぼりと反省している。
「いいわよ。私達もクリトを信じきれなくて、マジな攻撃をしたしね。いま思えば、チセさんに確認すればよかったのよね。焦りすぎて魔術の補助演算のお願いしちゃってたし。」
ユーナもやれやれといった感じでクリトの謝罪を受け入れた。それに対して、ほっとしたようにニコリと笑うクリト。
「、、、我は勝てた、のか?クリトと天羽々斬に。」
「あ、サナ大丈夫?」
「、、、あぁ。大事ない。ただ思っていたよりも、痛いというのは辛いものなのだな、と思い知っておるところだ。いままでは身体に傷が入っても単に不快なだけだったが、、これが“痛み”か。」
「なるほどね。龍玉に、世界樹に、魔人、そして魔王。大物を倒したからかしら。確かにかなり肉体と魂が密に絡んでいるわね。」
「うん。今まではサナの魂の依り代は刀で義体を操っている感じだったけど、今はもう肉体の方に宿っているね。あ~ぁ。。。これで、草薙を魔剣として僕が振るうことも出来なくなっちゃったな。最強の切り札だったのに。。。」
ふたたびしょんぼりするクリト。コロコロと変わる表情は、まさに無垢な少年のようだった。少年とよぶには些か体躯が立派すぎるが。
ぎゃいぎゃいと騒がしい三人を見て、エインセルは空を見上げる。
「、、、ほんとうに、終わったのね、アケディア。」
気の抜けた、緩い風が吹いている。
その後、エインセルはエルフの女王として、再び世界樹の精素も使えるのを確認し、改めてクリト達を歓迎した。
「よく世界樹を解放してくれました。
本日は、エルフの女王として歓待いたします。
とは言っても、今更格好つかないですよね。」
森の恵みは確かにエインセルがエルフ達に揃えさせた。
といっても今ここにいる人型のエルフはエインセルのみ。
つまり、料理をしたのはユーナやクリト達。そしてその腕前やレシピは王宮の料理人すら教えを乞うほど。つまり絶品であった。
そして今度こそとユーナはリスにも御馳走を準備して、にこにこと眺めている。
酒も酌み交わし、ある程度の食事も済んだころ、エインセルは改めてクリト達に尋ねた。
「さて。そろそろ、もう少しあなたたちのことも教えてくれないかしら?」
なぜかお酒を飲まず果実水をちびちび飲んでいたクリトがコテンと首をかしげる。
「なにを話せばいいのかな?」
「まず、なんで貴方は魔王だったのですか?」
「、、、あ~。えっとね、話すと長くなるんだけど、、、。」
クリトはあの八岐大蛇が封印されていた魔道具のことから話し始めた。
欠けた精神を補うために魔素や感情を集める必要があり、その手段として魔物を狩りを始めたこと。
そして、その過程でキャラが変わってしまうこと。
ユーナと出会い、トーマを精霊化したこと。そしてユーナが義体を求めて、旅の共になったこと。
鏡の魔女ことインウィディアのこと。古の聖女のこと。
「まぁ、他にもいろいろとあったんだけどね、その、、、あぁぁ」
そう言って申し訳なさそうに目を向けた先には、ゲタゲタ笑いっていたかとぷつっと糸が切れたかのように突っ伏したユーナと、一升瓶を抱えながら切り株に説教しているサナがいた。
「そろそろ、お開きにしてあげてもいいかな?」
遠巻きに怯えるリスたちに謝りながら、クリトはため息をついた。
その表情は、魔王の面影など微塵もなく、姉達に振り回されて草臥れた弟のような呆れた表情があった。