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ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋、ガチャな俺  作者: まお
序章 旅立ち
4/42

酒器と伝説

 〈、、、あれ?おーい?〉


 付喪神が呼びかけるも、酒器はまるで答えなかった。


「相棒、これってもしかして古く見せてるだけの新品?」


 〈いや、たとえ超新品であったとしても、今日の記憶はあるはずでしょ?〉


 それは、まるで反応せず、ただそこにあった。

 不思議に思い、仮に酒を注ぐもただの酒器として器が満たされていくだけで変化もなし。魔術式も一切見つからず、魔力にも一切反応しなかった。そう、通常なら起きうるはずの魔力の反射すら、何も起きない。


「、、、これはマジな封印具か何かの魔導具(アーティファクト)?」


 久々のアタリにクリトは胸が高鳴った。すでにチエは床に入ったころだし、これはじっくりと調べたい。一切の飾り気のない、古ぼけたその酒器をランプにかざし、いろいろな仮説を上げていく。


「まぁ、これは俺一人で進めたら、ばあちゃんもへそ曲げるな。明日の朝からじっくりやるか。」


 そう呟き、この貴重品をチエから受け継いだインベントリにしまうように魔力を発動させるも、魔道具が酒器を認識できずに収納することができない。仕方なしに結界を構築しようとするも、魔道具に魔力が吸われて構築式がなりたたない。


「こいつは、ずいぶんな食いしん坊だな。」


 とりあえず、一切の魔力を無効化するらしいその酒器と同じ部屋で苦笑いのクリトは朝まで仮眠をとったのだった。




 翌朝、クリトから話を聞いたチエは、少女のように目をきらめかせながら酒器を調べる。


「なるほど。確かに、魔術式は一切見えないねぇ。魔術式を隠匿するにしても、情報をすべて潰すことは成り立たないはず、、、。おそらく、この中に魔力を無効化できるような精霊がいるとしか、、、」


「いや、けど魔力そのものの存在のはずの精霊が魔力を無効化できるはずが、、、」


 ぶつぶつとつぶやくチエとクリト。ふとチエが思いつきをクリトに述べる。


「もしかして、魔力は封じられているのではく、吸われているんじゃなかねぇ。クリト、とりあえず魔力で器をみたしてみてくれないかい?」


 なるほどと思い、酒器に純粋な魔力を込める。

 すると確かに魔力が喪失していく。かなりの魔力が吸われ、クリトの顔が魔力不足で青ざめるころ、チエがニヤニヤと笑い出す。


「おやクリト。魔道具に魔力が足らないとは久しぶりじゃないか。どれ、ここは代わってやるよ。」


 チエはそういうと賢者の石を発動させた。

 魔力皆無のチエが魔女と呼ばれる所以、それはこの賢者の石にあった。これは情報を量に応じて魔力に変換させる魔導具。どんな情報でも構わないが、戦術級の魔法陣に込められた量の情報であってもやっとほのかに火がともる程度の変換率。

 だが、チエは異世界とも結ばれている情報端末(スマートフォン)を持っている。無限に近い情報を取り出せるその端末と賢者の石とで、王族をも凌駕する魔力を瞬時に取り出すことができるのであった。


 そんな戦術級どころか戦略級の魔術ですら楽に発動できるような魔力を易々と飲み込んでいく酒器をクリトは魔力回復薬を飲みながら見つめる。

 チエもこの量はさすがにおかしいと考え、ほかの仮説へと切り替えようかと思った瞬間、酒器の中に黒い一本の線が現れた。それは、酒器の中央から30センチほどの高さまでの空間に走っていた。


 チエが慌てて魔力を止めるのと同時に線から空間がひび割れ、クリトとチエを巻き込んで異空間へと飲み込んでいった。




 その空間では、上下も左右もなく、ただチエとクリトと酒器が浮いているのみの真っ暗な空間であった。そして、酒器が唐突にひび割れ砕けるとそれは巨大な8本の首を持つ蛇のような魔物になった。


八岐大蛇(やまたのおろち)、、、」


 それはクリトが初めて聞く、絶望したように掠れたチエの声だった。


 その魔物は、それぞれの首と胴体が鎖で縛られており、その鎖は、空間に刺さった剣に縫い留められていた。

 今は眠ったように動かない。しかし拍動するように魔力を放つその化け物はやがて一つ目の頭が目を開いた。


「クリト、、、これはやばい。間違いなく神話級の魔物、いや、神の1柱といえるレベルだ。そいつを起こしちまったようだね。さて、目覚めたそれが吉とでるか、凶と出るか、、、」


 クリトが八岐大蛇のプレッシャーに身を竦ませているあいだに、八岐大蛇は一つ、また一つと目を開いていく。そしてすべての頭が目覚めると、体を起こそうとして、鎖に阻まれる。

 ガシャン、ジャラリという音を響かせながら忌々しげに剣を見つめる八岐大蛇は、やがて、首の一つがクリトたちに縦に避けたような瞳孔を向ける。そして、他の頭と体は、クリト達が居たところつながっている空間を目指している。

 鎖が限界まで伸びたところで、首の一つが空間の裂け目に首を突っ込み、大きく口を開き、チエの屋敷を食べ始めた。

 最初の1口は緩慢であったが、2口目はさらに大きく食い破り、3口目からは、その空間そのものを食み始めた。


「、、、魔道具が発動しない。やつに魔力を飲まれているねぇ。」


 低い声でインベントリから攻撃の魔道具を取り出そうとしたチエは、焦りを隠しきれず、だが、諦めてはいない。

 震える足を強引に抑たクリトはチエに倣って剣を構える。


「相棒、いくぞ!」


 〈■■■■!、、■■■、■■■■?〉


「どうした、相棒?何をいっている?」


 〈■?■■■、■■■■■■■■■?■■■■■■?!〉


 クリトも戦闘態勢をとるも、付喪神の声はかろうじて感じるが、意思がつながらない。焦りばかりがつのる中、ふいにバリバリと聞こえていた音が止む。

 つまり八岐大蛇は届く範囲を食い尽くしたのだった。

 こちらを見ていた縦に裂けていた二つの瞳孔がバリっと十字に裂けると、チエとクリトは急激な喪失感を感じクリトは思わず胸と頭を抱えてうずくまってしまった。


「、、、舐めるん、じゃ、、ないよぉ!」


 チエは鬼気迫る表情で吠えると、賢者の石を発動し濃密な魔力を発動させその魔力でクリトも包み込む。


「クリトぉ!気合いれな!あたしより先に死ぬのは許さないよ!」


「、、うっるセぇ、婆ぁは、後ろでおとなしくしていな!!」


「あいつは魔力を吸う。なら、奪われないように、しっかり纏いな!構築式は壊れないようだから、放出系じゃなく、直接たたきつけてやんな!」


 そう叫ぶとチエは目に見えるほど濃厚な魔力を両手に纏い、八岐大蛇へと突っ込んでいき、歯が己の足よりも太い顎を搗ち上げる。

 その直後追いついたクリトは鼻っ柱を真上から切り下げる。ざっくりと下顎まで裂けたその頭は大きく暴れ、のたうっている。だが、見る間に傷は塞がり、その怒りを目に灯した以外には特にダメージは見られない。


「ふん、付喪神がいなくても、剣で裂けるようだねぇ。クリト!あたしが頭を引き受ける。だから、あんたは体をつぶしな!頭が多くても蛇の視界は極狭い。鎖で縛られているうちに、ぶっ潰すんだよぉ!」


 そう吠えたチエは、巨体から敢えて距離を取り、頭共をにらみつける。


「爬虫類の分際で、万能の魔女に挑むたぁ、いい度胸だ!あたしが直々に相手をしてやる!あたしを斃せたら、、この魔力ともども、好きに食らうがいい!!」


 さらに濃密に魔力を展開させ、自らを囮にする。


 そんなチエに対しクリトは静かに集中をしている。自らの魔力を剣先に纏め、束ね、捩じり、尖らす。折れた剣で戦うため、剣に刻まれたのは魔力を刃と化す構築式。

 炎を纏う剣や規格外の強度持つ剣など魔剣と呼ばれるものは(ちまた)にも無くはない。しかしクリトのその魔刃は“斬る”ことのみに特化し、魔力も物質も、構築式ですら両断する。名だたる名剣、魔剣であっても受けることすらできず、遠距離からの魔術であろうと、防御用の結界であろうと、そのすべてを叩き斬る。

 そのため付いた渾名(二つ名)が「魔剣殺し」。

 それはたとえ相棒が万全でなくとも十全に振るえる、クリトの絶対にして唯一の奥の手であった。


 派手に暴れるチエと違い、影のように潜み、気配を薄め、しかし極限の集中を行いながら一瞬の隙を伺う。

 八本の首がチエを襲うが、辛くも避けている。そして、首と縛る鎖同士が絡み、一瞬八岐大蛇が戸惑った瞬間、クリトが矢のように切り込んでいった。狙うは、首の分かれ目の下のあたりの僅かに光沢の違う、一枚の鱗“逆鱗”。首達も気づくも、自らの巨体が邪魔をして間に合わない。

 あと一足半まで距離を詰めた際、ふいにクリトと逆鱗の間を鈍色が阻む。

 鎖だ、と認識をするも構わずそれ事貫けと一気に踏み込み、剣を振りぬいた。

 ギインと硬質な音が響き、クリトの周りがキラキラと輝く。その輝きは砕けたクリトの相棒だった。

 神話の化け物を封じる鎖は、軽くひび割れた跡を見せるも堅牢性を誇示するかのようにジャラリと音を出す。呆然と柄を見つめるクリトに八岐大蛇は大木を思わせる尾を振り下ろす。


 存外に軽い衝撃だったな、とぼんやり思いながら跳ね飛ばされるクリトは、傍らで同じく跳ねるチエを見て愕然とする。クリトの代わりに直撃を受けたであろう右側の手は吹き飛び足もひしゃげている。

 だが、そんなこともよりも美しかった黒髪も程よく焼けた肌も纏う衣服もなぜか色を失い、ぼんやりとした輪郭となっていた。



見つけていただき、ありがとうございます。

序章はもう少しだけ続きます。


次回噓予告

まさかの事態にクリト驚愕。

序章 第5話 「チエばあちゃん大成功!」

君は壮大なドッキリを目撃する。

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