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ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋、ガチャな俺  作者: まお
3章 英雄の条件
39/42

天羽々斬の剣と草薙の剣

「クリト、、、冗談だよね?」


 ユーナが恐々と引き攣った笑みで問いかける。

 そんなユーナを魔王は冷たい目で見返す。


「なんだ?貴様らも遊んで欲しいのか?」


 そう言って魔王がフイっとユーナ達に手を伸ばし拳を握る。


「!!

 ユーナ、避けるのじゃ!」

「へ?」


 魔王の腕には絡みつくような魔法陣が既に構築されており、弾く様に開いた手先から紅い雷撃がユーナへと向かう。

 ギリギリでトーマが爆砕の魔術で相殺するも、その爆風に巻き込まれてユーナとエインセルが吹き飛ぶ。


 何度も跳ねながら転がっていく二人とその二人を守るように防御陣を構築するトーマ達。三人を魔王が感情の無い瞳で見つめる。そんな魔王をサナは鋭い目で睨みつけ、斬撃を飛ばす。

 先程の地を裂いたクリトの斬撃にも劣らぬそれは、密度を保ったまま魔王に襲いかかる。

 しかし、魔王はそれを太刀で弾きこちらも相殺する。

 そのためなのか、ユーナ達への追撃は無かった。


「ククク。良い斬撃ではないか。だが、バレバレだ。」


 弾いた斬撃の死角から襲いかかるサナへ視線を合わせてニヤリと笑う。読まれても臆する事なくサナが切り上げる。それを魔王は太刀で滑らす様に受け流し、崩れた体勢のサナを蹴り飛ばす。


「ククク。その攻めの姿勢は正直好みではある。だが、正直すぎるな。多少早かろうとも、どこを狙うかが読み切れるのならば、避けるも嵌めるも易いことよ。」


 ここは世界樹以外は下草程度しかない平坦な場所のため、サナも何度もバウンドしてようやく止まる。そして、止まったと思った次の瞬間矢の様に飛び出し、魔王を再び強襲する。しかし、今度はまだ間合いのギリギリ外でいきなり太刀を振り下ろした。そして、それにより切り裂かれた空間に飛び込むことで、魔王の背後へと回り込んだ。

 流石の魔王も一拍遅れ振り向きざまに太刀を合わせるが、サナの連撃に後手にまわる。


「ククク、フハハハハ!やるではないか!」


 だが、徐々に魔王の剣速も上がって行く。それでも果敢に踏み込み、サナが切り上げるのを魔王は軽やかに太刀で受け止めた、かに見えた。しかしサナの太刀は魔王の剣わすり抜け、首筋へとその刃を向ける。


「!」


 魔王が初めて避けた。バックステップで大きく距離を取る。


「ククク。蛮勇かと思えばなかなかの策士だな。」


 魔王はサナの白い輝きを纏う黒刃を指さす。


「刃を覆う様に魔刃を生成か。その魔刃で空間を割き、本命の黒刃を相手に叩き込まんとは。」


 魔王の笑みが、いや、表情が消える。


「認めよう。サナよ、貴様はもは魔剣殺しの弟子に収まる器では無い。

 ここからは、剣士として余の矜持をかけ相手をしてやろう。」


 そう告げると、魔王は腕を振るい、離れた所からこちらの隙を伺っていたユーナ達へと魔術を放つ。


「『万寿宝來(まんじゅほうらい)』貴様らは、そこで見ているがいい。」


 異界へと隔離する結界でユーナ達を覆う。


「ククク。卑怯かも知れぬが、全力だからな。使わせてもらうぞ。」


 魔王が太刀を掲げ魔術構築式を纏わせる。


「『騒乱の刻 静謐なる氷冠 果てなき泥梨(ないり) 汝の真名にてすべてを断ち切れ “ 天羽々斬(あめのはばきり)”』」


 魔王の太刀が、黄金色に輝く。


「サナよ。容易く死んでくれるなよ?」


 いつの間にか間合いを詰めた魔王がサナへと斬りかかる。魔王の踏み込みで、足元にクレーターが生まれる。魔王の苛烈な太刀筋にギリギリ太刀を割り込ませたサナは勢いよく弾き飛ばされ、世界樹へと叩きつけられる。


 カハッと肺の空気が叩きつけられた衝撃で強制的に吐き出される。だが、目の前には既に既に魔王が迫ってきている。酸欠な身体を強引に動かし、魔王を迎撃すべく振るう太刀は、無常にも魔王が右手持つ金色の太刀でいなされる。次の瞬間には、サナは激しく殴られて激突した地面に巨大なクレーターを成形していた。


「、、、ほう。

 まだ、立つか。」


 魔王の冷たい目の先には、ぼろぼろでも立ち上がるサナがいた。


「魔王だが、なんだか知らぬが、我はまだ折れてはおらぬ。」


「ククク。ナマクラが粋がるな。」


「、、、確かに我は未だに、なにも切れてはおらぬ。だが、貴様如きに、、、天羽々斬ごときに易々と首垂れるほど腑抜けてはおらぬ。」


 静かに魔王を見据えるサナ。フッとかき消えたような速度で魔王に切りかかる。しかし、サナが両手で支える太刀を魔王は右手だけの太刀で軽々と受け止め、左手で魔術を構築する。サナは高速で連撃を繰り出すも、魔術陣は着々と構築されていく。剣を弾かれた衝撃を利用し蹴り足を魔王の顔面に合わせるも難なく躱された。しかし、サナの狙いはその蹴りを当てることではなかった。その軌跡は空間を切り裂き、隔絶された世界と結ぶ。異界から虎視眈々と一瞬を狙っていた三人の魔術師たちからの渾身の魔術はその裂け目を通して、灼熱の閃光となり、魔王に襲い掛かった。


「ゴハっ」


 魔王は魔術を破棄し、強引に天羽々斬で魔力を相殺を試みるも、相殺しきれずに魔王に初めてのダメージが通った。その一瞬の遅滞を逃さずにサナが斬りかかる。初撃、二撃、三撃と入り、四撃目が浅くなった瞬間、サナは仰け反りながら飛び下がる。サナがギリギリのラインで躱したその太刀筋は、サナがつないだ空間の切れ目を消し飛ばし、世界樹の太い幹を音もなく切り落とした。


「、、、世界樹とは、(ことわり)の一部。ただの斬撃で切れるモノではないはずじゃがの。」


「ククク。天羽々斬は全てを断つモノ。魔術だろうと、空間だろうと、理であろうともな。」


 黄金に輝く太刀を正眼に構える。魔王が初めて、構えをとった。

 全身が血にまみれ、ぼろぼろのふらふらのサナはそれでも太刀を魔王へ向ける。そして、誰にともなく語り始める。


「我はな、、、悔しいのじゃ。我は剣の精じゃ。肉体を得てからは剣士としての技も磨いてきた。少なくとも、そこらの冒険者どもとの木刀での模擬戦などであられば、確実に勝つじゃろう。じゃが、それでも何物も切れぬ。相手の太刀筋も、我が走らすべき太刀筋も見える。屠るだけなら、そこらの魔物も相手にならぬ。だが、我の飢えは満たされぬ。」


 ピシっと音がし、サナの黒刃にヒビが入った。


「なぁ、草薙よ。お前もそうであろう?儀礼剣だがなんだかは、最早どうでもよかろう。そろそろ、本性を晒すべきじゃ。理想とする太刀は先ほど身をもって知っておろうが?」


 そのヒビから光が漏れ、その光が強くなるたびに、黒い部分がはがれて落ち、溶け消えていく。


「今こそ、目覚めよ。我と汝が真名は草薙の剣!魔術でも、空虚でも、絶望であろうと!すべてを屠れ!」


 太刀の刃がすべて白く輝く頃には、サナはいつもの無表情な顔ではなく、強く滾る意思を込めた双眸で魔王を見据える。

 最後に刀身が見えないほど強く輝くと、ふっと光が収まり、見事な刃文の白銀に輝く太刀が現れていた。


「ククク。フハハハハハ!目覚めたか!草薙よ!だが、次で終わりだ!」


 ニタリと笑う魔王は上段に構える。

 対して、サナは納刀し、静かに居合の構えをとる。


 ジリジリとすり足で間合いを詰める。


「サナ!クリト!だめ、まって!」


 トーマとチセを中心として、なんとか万寿宝來を抉じ開け、二人のもとに駆け寄るユーナ。

 だが、魔王とサナの極限の集中は一切乱れることはなく、ユーナを待たずにその瞬間を迎えた。

 先手は魔王。音はおろか、光すらも置き去りにするかのような黄金の軌跡がサナを押しつぶさんと襲い掛かった。

 直後、二人の中間から発せられた衝撃は辺りを飲み込んだ。

 ユーナは悲鳴上げることすらできずに、爆風に飲まれていた。



 ユーナへの衝撃波の直撃は、ギリギリ追いついたエインセルとトーマの防御結界で反らしたため、ダメージはない。濛々と舞う砂埃が落ち着いた先には、二つの影が見える。


「クリト!サナ!」


 クリトが改良した回復用の魔札を取り出し、駆け寄るユーナ。

 クリトは太刀を振り下ろした姿勢で、逆にサナは剣を振り抜いた姿勢で留まっていた。

 が、次の瞬間、サナがぐらりと倒れこみ、クリトがすっくと立ちあがる。


「、、、流石だね、サナ。」


 クリトの右手にある太刀は、半ばより砕けていた。そして、クリトの胸からは鮮血が噴き出る。サナの持つ白銀の太刀は穏やかな日差しを浴びキラキラと輝いていた。



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