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ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋、ガチャな俺  作者: まお
3章 英雄の条件
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森の女王

 翌朝、二日酔いもなくすっきりと目覚めたユーナは、清々しい朝日を浴びてぐぐーっと伸びをしていた。


「はぁ~!いい朝!」


 隣のベットにはまだサナが寝ている。普段は人形の様に佇んで居るが、最近のサナは寝相が悪く、今朝は片足をベットから放り出してアホヅラで口をモグモグしている。どうやら、いつも通りに食い意地の張った夢を見ているようだ。

 クリトは相変わらず早起きで既に身なりを整え、道具の整理をしている。


 その内容をチラッと見たユーナは感じた違和感を口にする。


「あれ?クリト何処かへ行くの?」


「ククク。然り。ピラティスへと向かう。」


 クリトはニヤリと、凶悪な笑顔を向ける。ユーナはわかっては居るが、正直少しビビる。


「そ、そう。。、、、ん?という事は目処が立ったの?」


「確証は持てぬが、大物を狩れそうでな。恐らく足りるじゃろうて。」


 ユーナはホッと胸を撫で下ろす。


「よかったー。それが上手く行けばやっとクリトのそのキャラも終わるね。次はもう少しこう、良い感じのヤツだといいね」


 にぱっと笑顔になるユーナにクリトも感謝を込めた微笑みのつもりの暗黒微笑を向ける。


「ククク。なら、朝食(あさげ)をこなしたら早速と向かうとしよう。」


 食事の話題に反応したのか、サナも起き出して来た。サナのボサボサ髪を整えつつ、ユーナはふとクリトに問いかける。


「ん?ピラティスって事は北側の山よね?って事はドラゴン狙い?え。まじで無理じゃない?レッサードラゴンじゃ足りないよね?流石にクリトも動けてないし?え、まさか、か、か、カイザー、、、?」


「ククク。否。恐らくもっと極まりしモノよ。」


 さぁーっと顔色を青ざめさせるユーナは慌てて手を振り抗議する。


「この前の地龍(アースドラゴン)でもかなりやばかったんだよ?ピラティスのドラゴンは龍帝(カイザードラゴン)を含む群れだよ?単体討伐でアレだったのに、その上位種を含む群れなんて、しかもそれ以上なんて、絶対むーりぃー!」


 朝っぱらから絶叫を上げ、手をブンブン振り回して抗議をするユーナ。まぁ、クリトの結界で音も含めて部屋の内外を隔絶しているから問題ないが、本来なら壁ドン(壁殴り代行招集)モノである。


「ふむ。それでも勝算は有るがな。何せ、あやつもヤル気だ。恐らく、足りて無いのは火力では無く、何かしらの条件であろう。呪いか、誓約か、或いは(ことわり)に挑むのか。」


 思案顔のクリトにユーナが問いかける。


「え?誰か加えるの?秘密、バレちゃうんじゃないの?」


「相手は森の女王。こちら以上に秘密の存在よ。ならば、共に口を噤むのが道理よ。」


「まぁ、クリトがそう判断するなら、、、」


 少しの不安を抱えつつ、まだ寝ぼけている様なサナの身なりを整えて行く。ぶっちゃけ死にそうな目に何度かあったし、全く敵わずに魔物から逃げた事もザラにある。サナはイケイケだか、クリトは臆病とも言える程に慎重であった。今のクリトの状態もその慎重さから来ている。そのクリトが準備を重ねた上で勝算あり、と言うのであれば、まぁ、最悪逃げ切る算段程度は確保しているのであろう。


「まぁ、とりあえず朝ご飯にしよっか。」


 これ以上考えても仕方ないと、ユーナ達は宿の食堂へと向かって行った。




 お手伝いを頑張る宿の娘さんにほっこりしながら、宿を一度引き払う手続きをしてもらい、北の山を目指して行く。とても良い天気で空が抜ける様に青い。高い所を鳥が舞っている。


「ククク。心配せんでも、協約は違えんよ。」


 空を見上げながらボソリとクリトが呟く。


「ん?なんか言った?」


 ユーナが振り返りながら、クリトに問いかける。


「ククク。大した事ではない。さて、時間は有限じゃて、支度を済ませねばな。」


 収納魔道具で、既にある程度の備蓄は確保されているが、それでも野菜類や薬品、布などの消耗品を買い込む。


「あら、珍しいわね?ビスケットを買うなんて。」


「ククク。これは土産だ。」


 珍しく日持ちのする甘味として重宝されるビスケットや砂糖菓子を大量に購入していく。


「ククク。これで充分か。」


 準備を終えたクリト達は北の山を目指す。

 とは言ってもクリトは以前のように身体を動かす事が出来ない。

 なので、ユーナはピラティスの麓まででも最多でも20日程はかかると踏んでいた。


 しばらく道を進むと、道の真ん中で二羽の小鳥が地面を突いていた。

 クリト達が近づくのがわかったのか、1羽は直ぐに道脇の木の枝に移り、もう1羽はじっとクリト達を見ている。


「ククク。ご苦労。よろしく頼む。」


 ピクリと残っていた小鳥は反応すると、先程の小鳥の脇へ止まる。

 そこへクリトが向かう。


「へー、かわいい。綺麗な羽ね。」


 ユーナもサナとクリトについて木の根本から鳥を見上げる。


 チチチと鳴きながら2羽とも飛び立ち、クリト達の胸の当たりを手が届きそうな距離で飛び始める。

 ユーナは最初は呆気に取られていたが、そこに魔力の流れを感じとり、警戒心を跳ね上げる。


「ククク。ユーナよ。これらは使い。警戒せんでよい。」


 トーマも少し昂って(たかぶって)いるが、警戒はしていない。

 いつの間にか描かれた魔法陣にユーナ達が包まれた次の瞬間、パシュンという軽い破裂音の様な音と共に、ユーナ達は転移をした。




 次の瞬間、ユーナ達は切り立った岩肌の洞窟の入り口に立っていた。振り向くと、遠くに街や巨大な湖、そして広大な大深林が見下ろせた。広大な緑と湖の碧、白い雲と抜ける様な群青の空。控えめ言ってもため息が出るほどの絶景であった。

 そしてユーナの右手ではトーマが大興奮しながら、万能の魔女すらなし得なかった完璧な転移だとか、γ軸の制御がどうだとか、グリンチベルセ歪曲の修正項だのを語りだしていた。精霊になってからトーマは少し自重が減ったのか、たまにこうして暴走する。何を言ってるのかまるでわからないが、ユーナとしては変に気を使われたりするよりも、こうして気軽に話してくれた方が心地よかった。相槌しか打てないが。



「ククク。出迎えご苦労。森の女王よ。」


「いいえ、貴方の歩みを待てる程、こちらに余裕が無いだけよ。こちらの都合で呼んだのだから、気にしないで。」


 洞窟の奥から昨日の酒場で同席した白髪の美女が現れた。

 クリトは足元に皿の様なモノを錬成すると、そこにビスケットや砂糖菓子をいれた。


「世話になるでな、土産じゃ。気に入って貰えるなら、もう少し融通出来るがな。」


 その皿に先程の鳥やリスなどが集まってくる。


「ご丁寧に。こちらとしても歓待の宴と行きたいのだけれど、省略してもよろしくて?」


「ククク、それは遺憾な。成功の暁に期待だの。」


 御馳走が延期されサナが真顔のまま気落ちしているのを横目にクリトは白髪の美女について洞窟へ入っていく。


「クリト、あの、ちょーっと紹介とかして欲しいかなって?」


 ユーナがクリトの袖を引く。


「ククク。そう言えばユーナは昨晩呑まれておったの。

 女王よ、この嬢はユーナ、炎の眷属を従える魔術師よ。陣の構築はまだまだでも精霊との相性や胆力はなかなかのモノ。そこらの冒険者よりも火力は数段上よ。一応、英雄の弟子(このパーティ)のリーダーを担っておる。

 そして此方(こなた)の剣士はサナ。余の師の忘れ形見よ。剣士としてはまだ荒削りでは有るが、魔術を構築陣ごと切断する技を体得しておる。

 そして、、、ふむ。そう言えば貴殿の名を聞いておらなんだな。」


「、、、エインセル。貴方の紹介は無いのでかしら?魔剣殺し殿?」


「ククク。既にそこまで察しておるか。

 如何にも、魔剣殺しの渾名でも呼ばれておった。だが、些かの厄介も負っており、今は剣どころか、体捌きも碌に出来ぬ身よ。それにしても、なるほど。貴殿はそう定義しているのだな。」


「その厄介がどの様なモノなのでしょうかね?

 そして、サナさんが、あの万能の魔女の忘れ形見、、、。なるほど。聞きしに勝る天才だったってわけね。因数が、私達のモノでもこちらの世界でも無い値ですもの。」


 エインセルが少しだけ好意的な視線でサナを見る。

 サナは洞窟の奥を珍しくピリピリした視線で睨んでいる。ここまで強く警戒するサナを見るのは初めてであった。


「ククク。そう急くでない。まずは仔細を説いて貰わねばな。」


「依頼は討伐。最低でも追い払って貰いたいの。対象はランク外。恐らくS相当(災厄級)。ターゲットに着いてはこれ以上は、受ける確約が無いと情報は渡せないわ。報酬は、森の女王の加護、又はらそれに準ずる事で私に対応出来る事なら、誠意を持って応じる事を誓います。」


「、、、ほう。随分と豪奢だの。獲物の素材は?」


「換金出来るモノでは無いので、こちらで()()します。」


「あ、あのう、、、森の女王の加護って?あの、エインセルさん、いえ、エインセル様はどちらの国の方なんですか?」


 ユーナの質問にエインセルは、一瞬惚けた様な顔をして、すぐにクリトにキッとした目線で向き直る。


「ククク、ほぼ、憶測は出来ておるが、貴殿の口から聞いておらん事をほいほい囀らぬよ。」


 エインセルはしまった、と言う顔をして天を仰ぐ。そして諦めたかの様な自嘲の笑みを浮かべながら、ユーナ達に語りかける。


「報酬として森の女王の名を使ってしまいましたので、改めて名乗ります。

 私はエインセル。森の民、エルフを代表する者です。」














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