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ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋、ガチャな俺  作者: まお
3章 英雄の条件
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英雄の弟子との邂逅

 そんなこんなで三ヶ月ほどの時間が過ぎた。

 思った以上に苦戦した補助効果の魔札強化もなんとか満足の行く効果をあげ、魔道具の改造もそこそこ進んできた。サナ達も順調にギルドへの貢献を増やし、Dランク(一人前)へ昇格を果たした。今日はその祝いとして久々に全員でギルド併設の酒場へきている。


 ちなみに、この酒場は“檸檬の木”という名前ではあるが、現マスターがゴリマッチョで豪快料理が多いこともあり誰もその名を呼ばない。客どころか施設の人間であるギルド事務員も店員すら。初代マスターである当時のギルマスの奥方様が切り盛りしていた頃は違和感はなかったそうなのだが、今のマスターや雰囲気にはあまりにも似合わない可愛い名前なのだからしょうがない。

 クリトはそんなここの料理が気に入っており、タイミングと気分によっては給仕にも来る下っ端の料理人に簡単なレシピを教えたりもして、さらに自分好みの料理を充実させていっていた。ただ、あのアドバイスをしてあげたあのルーキーはちょっと口が軽かったらしく、クリトは占い師のようなものとして色々な人達から食事の相席を頼まれることが多くなってしまっていたのが残念ではあった。

 そんなある日、酔ったじじぃがしつこく絡んできたので、“手紙をちゃんと確認しろ”と伝えたことがあったが、それがまずかった。

 クリトはチセを通してその手紙の内容が喧嘩別れした娘がとある町で結婚し子供を設けたこと、旦那とともに冒険者は引退して小さいながらも工房を開いたことなどが綴られていた手紙が届けられていたことを知っていた。だが、酔っぱらったそのじじぃはその手紙をポイとサイドデスクに置いたつもりがその裏に落ちてすっかり忘れていたのだった。

 酔っ払いながらもなんとなくその一言が気になったじじいはその手紙を探し、発見した。そして涙ながらにクリトに感謝をしたじじぃは強引に銀貨数枚を握らせてそのまま娘を訪ねてこの街を出て行った。


 それからは、なぜか、クリトにお金を払って占いをせびるという謎の興行が出来てしまった。もっともクリトはチセを通して得ている情報を伝えているに過ぎない。なので、「伝説の聖杯」だの「伝説の聖獣」だのの情報は聞かれても答えられない。なぜならそれは逸話としての伝聞情報しか存在しなかったから。

 さらに、クリトはどちらかといえば静かに料理を味わいたい日が多かったため適当に流したいこともしばしば。ただ、勝手に置いていくとは言っても金の動きがあるため、クリトはリクエストを聞くのをやめ、クリトが定位置に座った時にその目の前に座った者にしか、情報をわたさないことを宣言した。

 こうすることで、情報を渡してもいい気分の時と、一人で食べたい時を明確に分けたのだ。

 そして目の前に座った者が持つモノ、まぁ冒険者なら武器、洒落者ならアクセサリーなどに最近の状況を聞き、そこから必要そうな情報を検索し、ヒントを出すことにした。人間本人よりもその相棒のほうが、本当に必要なモノを理解しているとクリトは思っている。まぁ、宿にまで押しかける阿呆が出たので、一切の拒否はやめて、ある程度は街の娯楽要因として付き合うことにしたのだ。


 結果に対してはピンと来てハッとする者も訝しむ者もおり、結果も妥当なものからしょうもないもの、大当たりの情報まで様々だった。特にクリト的には大当たりだと思ったのは、二人組の冒険者の武器が最近手ごたえのある魔獣と戦っていないことを不満に思っていたから、そのパーティーの実力ギリギリの水晶巨人の居場所と、攻略のヒントを与えたことだった。情報の内容はすぐにピンと来ていたようなのは、さすがBランクパーティーメンバーだけのことはあった。もっとも、女心の機微がわからないクリトにはその微妙そうな表情の意味までは理解できなかったが。


 閑話休題。


 今日はユーナとサナが同席している。つまり、占いはお休みである。檸檬の木の料理を気に入っていたクリトは久々にのびのびと食べれることが決定していた、はずだった。


「貴方がクリトさん、でしょうか。」


 白髪の女が話かけてきた。だが、クリトは目の前のポークソテーと牛の薄揚げを楽しんでいるため、気配を感じた時から無視を決め込んでいた。


「えっと、何かごようでしょうか?」


 なので、ユーナが答える。


「英雄の居場所を教えてほしいの。」


 白髪の女は強い目でクリトを見ている。そして、ジャランと音がする袋をクリトの食べている皿のすぐ脇におく。

 ユーナはクリトが占いバイトをしていることを知らない。そしてまたまだ食べ始めなのでまだ酔っていない。


「はぁ?えっと、確かに私達は“英雄の弟子”ですが、どなたかと間違えてませんか?」


「もしくは、クリトさん、貴方が英、、、!!」


 白髪の女の目がみるみる見開かれていき、目線をちらりと牛の唐揚げをを頬張るサナへ移すとさらに動揺が濃くなっていく。


「、、、なんなの、貴方達。もしかして、私達以外にも、、、」


 白髪の女は明らかに狼狽えている。


「ククク。ほう、原版に会えるとはな。」


 綺麗に食事を終えたクリトは口を拭きながら面白そうに眼を細める。


「、、、貴方達、何者なの?でも、そんな、ありえない、、、」


「ククク。余は間違いなく“常人”にすぎぬよ。ただ、少々魂は特殊ではあるがな。」


「えっと、クリト?あのー、この子と知り合い、って訳じゃなさそうだけど?」


「ククク。ユーナよ、丁重に持て成せねばならぬな。なにせ魂装を纏いし者だ。」


「コンソウって、なによ。。この子が着ているのは確かにここらじゃあまり見ない色合いだけど、そんな変なモノには見えないわよ?」


 ユーナはじろじろ見ながら勝手にファッションチェックを脳内で始める。


「、、、そちらのお嬢さんの魂装はどうしたのかしら?」


「ククク。まぁ、座るがいい。そいつの魂装は師が手配したと聞いた。もっとも貴殿と師は違う筋のようだが。

 さて、ここは馳走を享受する場ぞ?せめて杯を受けてもらわねばな。」


 そう言うとグラスと新しい酒瓶を給仕に手配させた。


「して、貴殿はなんのために英雄を欲する?」


「、、、占師殿なら、そこまで見えているのは?」


「ククク。余は未来視なぞ出来んわ。まぁ、浄財のような形で託されたれれば、多少の老婆心は与えたりはしたがな。」


「、、、貴方はどこまでわかっているのかしら?」


「北の山の結界の中まではわからぬな。」


 白髪の女は慎重に、言葉を選ぶかのように言葉を続けた。


「、、、事情を話せば、受けてもらえるのかしら?」


「さてな。手に余るモノは受けぬよ。」


 クリトが白髪の女と話をしている頃、サナは御馳走を次々にバクバク食べていた。そして、ちょっと手持ち無沙汰なユーナはトーマに話かけながら、お酒を飲んでいた。気持ちいいぃくらいにカパカパと。仕方ないのだ。ユーナの胃袋はそこまで大きくはない。ランクアップしたし、ちょっといいお店でおいしい料理とお酒。酒が進むのはしょうがない。まだ小娘にすぎない飲みなれていないのも、同じくらいしょうがないのだ。


「とーまぁ、、、はやくかれぁだほすいよねぇ~。わたしね、ぎゅうぅってしてほしいのぁ」


 完全にべろべろになっている。



 暫く後、酔いつぶれたユーナを仰向けに俵抱きしたサナは宿へと向かう。その後ろをクリトと白髪の女がついていく。


「それでは、明日からでよいのだな?」


「えぇ。明日、一緒に北の山へ向かってもらいたいわ。けど、大丈夫なの?そんなに急でも。」


「ククク。所詮冒険者など根無し草よ。しかもまだ小娘らはDランク。まだ、指名義務は負うておらぬ。そのあたりは、そなたの方が詳しいのでは?森の女王よ。」


「、、、本当に、貴方はどこまで知っているのかしら?では、明日、町の北門で。」


「ククク。余の身体は少々不便なため、貴殿を見送れぬ。容赦せよ。」


 宿の前についたクリト達を置いて、白髪の女は歩き出した。その後ろ姿からは、彼女の思いを窺い知ることはできなかった。

 そしてクリトは、この街に来て以来最も真剣なまなざしをその後ろ姿に注いでいた。


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