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ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋、ガチャな俺  作者: まお
3章 英雄の条件
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サナと梟熊

 クリトが少し上機嫌に食事をしていた頃、サナ達は今日は孤児院の子守という名の護衛をしつつ、森での採取をしている。

 森が一瞬鎮静化した隙を狙い、たくましいシスター達と子供たちは森への採取に来ているのだ。少しずつ魔物が森へ戻ってきているがもう少しなら大丈夫そうだ、そう判断をしていた。だが、万が一を考えて、Eランクの冒険者に(お手頃な)護衛を依頼しており、それをユーナとサナが請け負っている。今は川辺で魚を釣ったり、薬草や虫の採取をしている。

 こども達の無邪気な声と川のせせらぎが響くこの場所には平和な空気が満ちていた。そんな空気にユーナはまだ無事な頃の故郷を思い出し、少しだけすっぱい気持ちになっていた。


 不意にサナ(目を閉じて、もしかして寝てる?ってくらい微動だにしていなかった)がふらりと川へ向かい、足が濡れるのも構わずに渡り始めた。

 まだ少し水も冷たいなかザブザブと対岸を見据えながら進み、深くなる少し手前で止まった。そして腰にぶら下げていた刀の鞘を左手で持ち、抜刀の姿勢へと構えたとき、いきなり森から梟熊(アウルベア)が飛び出してきた。

 既に気配を感じていたユーナも梟熊と子供たちの中間に陣取り、魔術陣を展開している。

 梟熊はその勢いのまま目の前のサナに踊りかかった。

 だが、次の瞬間には、ゴッパァン!と激しい水しぶきを上げながら川の中ほどに叩きつけられた梟熊の姿があった。数メートルは立ち上った水しぶきが落ち着くころには,首のあたりから胸の近くまでが異様に変形し、明らかに異常な力で打ち据えられ骨も筋も砕けたような姿になっている。

 サナは梟熊が飛び掛かる直前から微動だにしていないように見える。だが、実際には一瞬体がぶれて見えるほどの高速で梟熊へ斬撃を加えていた。ユーナにも最近やっとなんとなく大まかな動き程度はわかるようになってきた。残心を残すかのようなサナは、静かに構えを解き、ユーナのモトに向かう。その足取りはどこか沈んでトボトボと感じる。

 少し心配そうな顔をし、ユーナは水飛沫でしととに濡れたサナの体を乾かすために風と炎を混ぜた乾燥の魔法を発動する。


「倒せているだから、いいじゃん。サナは弱くないし、むしろ強いよ?」


<じゃが、切れておらぬ。クリトは刃どころか刀身もない剣であらゆるものを切り裂き、“魔剣殺し”と呼ばれておったのにの。我の一部には、かの“相棒”も取り込んで居る。あれは構築された魔術ではなく、精霊の権上としての結果じゃった。それは我も発動しておる。だが、なぜに、、、我には切れぬのであろうか。>


「まぁ、そこはクリトも言っていたじゃん?儀礼剣の本質は邪を払うこと。そちらが本質である以上物理的切断は二次的なモノだって。」


<じゃが!我は、それでも“剣”なのじゃ!切って、斬ってこそ我が本懐なのじゃぞ?!>


「気持ちはわかるけど、、」


<我は恥を忍んで包丁を借り受けての胡瓜(きゅうり)すら切れんかったのぞ?!我はあの刃こぼれした出刃包丁にすら負けるのか?!>


 確かにあれはひどかった。手持ちの太刀ではすでに諦め、全身全霊、一献集中をもって、借り物の包丁を使ってすら胡瓜を切ることすらできなかった。そしてなぜか爆散す胡瓜。その下に敷いていたまな板に食い込む包丁。思わず胡瓜と包丁とサナを見てユーナは口をあんぐりと開けてしまった。鉄面皮のサナでさえ、現実逃避のような遠い目をしていた。余談だが、サナは倒した獣の皮を剥ぐこともできない。詳しい描写はしないが、惨状であったことだけをここに記しておく。あれは無かったことにしておこうと、皆が心にきめているのだから。

 相変わらずサナの表情は傍目にはキリっとした表情のままではあるのだが、ユーナにはサナがひどく落ち込んでいるのがよくわかる。


<女子力を料理スキル全振りなユーナには、我の気持ちなどわからぬっ!>

「おい、ナマクラ。喧嘩売っているようだな。言い値で買おうか?」


 そんな、ちょっとだけ殺伐とした二人はそっと脇に置いて、梟熊という獲物が狩れたのは事実。見た目以上に逞しいシスター達はほくほく顔で解体をしている。契約的には護衛期間中に狩った獲物や採取したモノの20%が護衛料になっている。ハンター側に不利ではあるが、孤児院への支援的な意味でもこのような取り決めが通例になっていた。なので、この梟熊も孤児院の収入になるのだ。

 すいすいと皮を剥ぎ、スパスパと骨と肉を分けていく様は見事であり、サナはそれを羨ましそうに見ている。もっとも、その視線と意味に気付いているのはユーナだけだが。




 その夜、その孤児院のシスターの一人はガランと会っていた。


「はい。サナが梟熊を一撃でした。非常に素直な剣筋でしたよ。もっともその速度と威力は可愛いものではありませんでしたが。

 また川辺という割と森の中の気配が掴みにくいところでしたが、二人とも漏らさずに対応しておりました。」


 孤児院のシスターことラミィは元冒険者の元孤児。それなりに稼いだあと、幼い頃の自分を保護してくれたシスターの後を継ぎ、今はその孤児院でシスターをしている。冒険者ランクは引退前はC。職業は斥候(スカウト)


「んで、そのサナの魔術や太刀以外の獲物については?」


「、、、魔術は特に使っている様子はありませんでした。精霊を連れているかは判断できませんでした。

 また、二人とも子供たちがベタベタ触っても特に厭うこともせず。ポーチは確かに魔道具で収納量も多めなようですが、暗器や毒などはしこんでいない、、というよりもその道には明るくなさそうです。少なくとも、暗殺を警戒するような生活はしていない、と断言できるかと。」


 シスターは本来の依頼、つまり、ユーナとサナで構成された“英雄の弟子”の実力把握およびその背後関係の調査についてガラン(依頼主)に報告をしていた。


「また、直接的な隙はないのですが、二人とも行動が素直なため、手練れの暗殺者からの搦め手による襲撃には弱いかと。ですので、悪知恵のあるゴブリンロードやオーガメイジなどが相手の場合はやや苦戦するかと思います。逆に、火力は異常にたかく、鉱甲亀(メタルタートル)程度であれば、おそらく容易いかと。また、あの剣速であれば剣蜂(ソードビー)の群れであっても対処できる可能性があるかと思います。ただ、剣での斬撃だったはずですが、一切切れておらず、急所を叩き壊すことで梟熊の命を刈り取っておりました。さすがに抜刀から納刀までの瞬間では刃の状態までは見切れませんでしたが、あの一撃にびくともしない設えの剣であれば、ナマクラであるのは不自然であるかと。」


 そうか、とガランは腕を組み目を閉じる。サナの獲物はこの辺りではほぼ見かけられない、太刀という種類の剣に見える。ガランも手にしたことはないが、たしか、異常に鋭い切れ味を有するタイプの武器だったはずだ。そんな特殊な武器を携えていることもあり最初はサナはどこぞの没落貴族関係かあるいは落胤かとおもったが、そうではなさそうだ。ユーナの所作は確実に平民のそれだし、サナも見苦しくはないが,貴族のマナーかと言われれば、そうではない。つまり、その出自についてはまるで分らない。

 ただ、門で見せたメダル。どうやら2つほど国を挟んだ先にある国のグリーラム領のモノらしい。だが、それだけだ。貴族のメダルを見せたということは、そこの関係者の可能性はあるが、ここまで離れていてはその威光は届かない。そもそも、直接拝領した物なのかも疑わしい。

 あいつらはなぜ、なんの目的で、あのタイミングで、この街に来たのか。ガランは思考を巡らす。


「それと、すでにガラン様もお気づきだとは思いますが、サナはほぼ口を開きません。子供たちとも単語レベルではありますが成立する会話をしているため、聾唖という訳ではないかと。しかも、パーティメンバーであるユーナにすら口をきかないようです。ですが、なぜか意思の疎通ができているようで、はた目にはユーナが独り言を呟いているように見えております。しかしユーナを読唇したかぎり、会話を交わしている模様です。」


 そうなのだ。サナはほぼ口から言葉を発しない。そのせいで、ガランは音の精霊を用いた盗聴ができずにいる。さらにクリトに至っては宿の部屋に結界を張っているようでそもそも精霊がちょっかいをかけれない。確実に普通の冒険者ではない。ただの荷物持ち(ポーター)だというクリトも含め、胡散臭すぎる。そもそも、採取などに荷物持ちを連れて行かないとはどういうことなのか。ガランの直観は特にクリトからなんらかの害悪を感じ取っている。

 まだ何のしっぽも掴めていない。だが、ギルド長として、この自分の目の黒いうちは決してこの街を荒らさせないと気を引き締めた。


「また、ユーナの方ですが、本人曰く火の精霊を連れているそうです。ですので、火の魔法が得意と言っておりました。それ以外の魔術も使えるとは言っておりましたが、あの動揺っぷりからすると、おそらく火以外は戦闘では使えないかと。」


 魔術を行使するには魔力とともに膨大な情報を圧縮した陣の構築が必要なのだ。つまり、バカは魔力量が多くても、大した魔術は放てない。おそらく、ユーナは契約している精霊関連の魔術しか使えないのであろう。ガランもこれについては、人のことは言えず、少しだけ遠い目をしていた。

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