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ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋、ガチャな俺  作者: まお
3章 英雄の条件
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幸運なルーキー

 ギルド併設の酒場で騒ぎがでればもちろんギルドの兄貴達がだまってはいない。だが、今回はあえてギルマスのガランは放置させ、そのやり取りを冷めた目で見ていた。あいつらは確かCランクのなんとかの牛だか山羊だかいう連中で、脳筋だが、Cランクでも上位でけして弱くはない。まぁ、最初の一人目は不意打ちだとは言え、ユーナの拳速はそれなりだったので、ラッキーヒットで吹っ飛んだのはまぁなくはないと納得はした。むしろ魔獣討伐に特化していたので、対人戦の経験はほとんどないはずであった。その意味でもまぁ、納得できなくはない。

 そんななんとの牛とかいう()()()()()()()()を拳でぶっとばしたことよりも、むしろあのユーナが最後に炎熱系と思われる魔術構築をなかなかの密度でくみ上げていたのが意外だった。おそらく、あの小娘(ユーナ)が魔術士だというは本当のことだろう。つまり、あの拳はあくまでサブ。メインの火力は先ほどの威力を軽く上回るということを指している。ガランは連れている精霊が攻撃にはあまり向かないのもあり、戦闘は基本的には物理アタッカーとなる。なので、構築式の内容を初見で読み取れるほどに魔術造詣は深くない。それでも素人目にも分かる密度の構築式だったと思われる。まったく、あんなのがなぜ今までEランクでくすぶっていたのか。謎である。

 だがそれ以上の問題はサナ。こいつは異常だった。あの剣筋と剣速だけならCランクでも十分通用すると思っていい。だが、その剣筋はどうも不自然だった。物理的には不要な筋で切っていたのだ。そして、あの筋でなぜ意識を刈り取れたのか。魔術にしては、構築式は見えない。ガランの連れているのは音の精霊。つまり、風の眷属であるので、もし風系の精霊や魔術であれば、ガランにもそれなりに感知できたはずである。それがなかった。そして、風以外の火、水、雷、地はたとえ精霊召喚による魔法行使でも何らかの痕跡が残りやすい。それもなかった。つまり、ガラン程度ではとても感知できないような異常に高度な魔術か、あるいはそもそも魔術ではないか。魔道具も考えたが、あれも結局魔術の痕跡が残る。そうなると、可能性は毒か。だがそうなると、あの太刀筋の意味が分かんらなくなる。あれはハッタリで振るったにしては鋭すぎた。目を細め、思考に沈むガランがふと思い出したように酒場へ目を向けると、面白そうににやけるクリトと目が合ったのだった。

 ふん、と鼻を鳴らしながら、ガランは執務室へと踵を返した。そして、確実に面倒ではあるが、きっちりとクリト達を調べることを決意したのだった。




 翌朝。ユーナ的にはなかなか具合のよかった宿を出て、少し早めの朝食をすまし、サナとユーナはさっそくまずはEランクらしく町の雑用をこなすか、薬草でも探しに森へ行く。すでに手遅れな気がしなくもないが、目立たないためにはゆっくりと実績をつんでいく。クリトは、留守番をしている。今のクリトは足手まといどころか、魔物狩りにはマイナスなのだ。クリトは今は身体の動きに制限がついてしまっている。そのせいで、繊細な作業、この場合は魔札への刻印や薬草の調合などはうまくできない。だが、その分今のクリトは魔術制御が格段に上がっている。なので、ズルをすることにした。幸いにも今は路銀はそれなりにある。なので、まずは市販の魔札や回復薬瓶(ポーション)を買う。そして、それに強化魔術(エンチャント)を組み込む。そうすると、その効能が跳ね上がる。要するに一から魔術を刻む作業はできないが、魔術札なりに刻まれている魔術構築式の雑な部分を修正する、もしくは再錬成する。それだけで廉価になっている粗悪品が一級品に早変わりするのだ。論理的にはできるはずで、クリトには自信もあった。まぁ、これを堂々と売るのはその店なり商業ギルドなりに喧嘩を売ることになるので、自分たち専用にはなるが。そして、慣れてきたらそれ(エンチャント)を魔道具へと発展させ、旅のグレードを上げる!という魔改造大作成を計画していた。


 クリトは初日ということもあり少々興に乗ってしまい、昼食のつもりが時間がだいぶずれて夕刻近くになってしまった。 だが、急ぎの用事などは特にないため、思いつたままに食堂へと足を進めていった。


 食堂につくと、思いのほか混んでいたが、それでも食堂の端の4人掛けのテーブルのさらにその端を確保したクリトは魚の油煮込みとパン、サラダを頼んだ。


「ご合席よろしいでしょうか?」


 目を上げると、給仕の少女が機械的な笑みでクリトに訪ねている。というか、すぐ脇にすでに若い冒険者連中が来ていて、隣のテーブルを含め座り始めていた。


「悪いな。小型の獣が森に戻り始めていてね。今日は罠を仕掛けただけで早めに上がったのは俺らだけじゃないみたいで、早めに酒場へ来たけど混んでしまっているから。この席をすこし借りるよ。」


「ククク。やはり森は常態へと戻ってきおったか。問題ない、そこを使うがよい。」


「お、おう。すまない。」


 多少年上と思われるが、若造にはかわりない男の不遜な物言いに軽く引きながらも少年は隣のテーブルとともに料理を選び始めた。


「この調子だと三日もすれば元の森に戻りそうだったな。」

「そうねぇ。まぁあたしたちみたいな駆け出し(Eランク)にはあのままのほうが安全に採取ができて、上位冒険者は霊峰へ向かってとすみわけができてよかったんだけど。」

「おいおい、それだといつまでもこのまま(ギルドランクがE)だぞ?」

「まぁーなぁー。それに角兎すら取れないなら、採取の競争率があがっちまうしなぁー。」


 五人組のルーキーたちは最近の森と今の彼らの現状を軽く愚痴りながら、腹にたまりやすいモノと女子だけは果物を追加していた。まぁ、食べる量などを考えれば、それで金額のバランスは取れているのであろう。


「それにしても、いい儲け話ないかなぁー。そろそろリラの靴もやばそうだしな。」

「それより、鏃がそろそろ無いのよ。角兎ならともかく、茶巨芋虫(ブラウンキャタピラー)とか狩るなら氷鏃(アイスピック)がないと厳しいのよね。」

「あー、確かに。木の上から落とさずに倒すなら、必要だよねぇ。時期的にそろそろだし。」

「まじでー、簡単に金になる採取ないかなー。」


 クリトは食べ終わり、すっと立ち上がった。


「ククク。今日貴様らが昼前の休憩としてリイゴの実を取った根本に群生していた黄色い花。それの根を集めておくがいい。」


 それだけぼそりと呟くと、クリトは軽くよたつきながら去って行った。


 五人のルーキーは、怪訝な顔をしながら、それでもなんとなくその一言が気にかかっていた。




 それからクリトはまずは回復薬瓶(ポーション)の強化に成功し、魔札の改造もそれなりに道筋が見えてきた。

 サナもユーナもそれなりに強いのだが、ある種の不器用である。戦闘ではケガどころか隙も無くなってきているが、なぜか荷運びや掃除でケガをする。腕力はそこらの男共よりはるかにあるのに、謎である。なので当面回復薬瓶(ポーション)の重要性は高かった。そのため、クリトはしばらくは屋台での出来合い品や町のパンやでのパンをサナたち買ってきてもらったりして簡単に食事を済ませ、研究に熱を入れていた。おかげで、ついに回復系魔札の強化にも成功した。攻撃系は不器用なサナたちに渡すと逆に危なそうなうえ、そもそもこのあたりの雑魚を狩るには火力は十分足りているので、次は補助系の魔札の強化。まぁ、これはなかなかに難しそうなのだが、きょうは一息つくという意味でもクリトは4日ぶりにギルドの酒場で温かい食事をとることにした。


 前回と同じように端の席で今度はソーセージのクリーム煮を頼んだ。野菜もゴロゴロしているようで、なかなか食いでがありそうだ。クリトは以前に“食の因果に囚われた”ともよべるような状態だったこともあり、食事にはいまだに少し拘っていた。そんな中でもここの食事はなかなかに美味しいと認めていた。まぁ、この身体が自由に動けば、このレベルの食事は作れる自信はあるのだが。


 そして、また食事が届くまで、目をつむり、補助効力の構築式ををどう強化するかの巣案を練っていると、急に話かけれらた。


「あ、あの!この間は助言助かった!」

「おかげで、氷鏃(アイスピック)が揃えられて、ほらみんなも装備を手入れできたし!」


 目を上げると、この間隣でごちゃごちゃ言っていたルーキーどもだった。

 クリトはそういえば、黄色い花(セラキセ)の根を集めるといいと助言したような気がした。

 薬師組合が近々新薬の量産を開始するにあたり、セラキセの根を集めているのをチセを通して知っていた。というか、今この瞬間もチセはべらべらとひたすらにしゃべっている。クリトは適当に相槌を打っているがチセのバグったかのようなマシンガントークは止まらない。。まぁ、それもしょうがない。それにこいつら(ルーキーども)は律義に地図に採取できるモノ、獣道、強者の縄張りなどしっかりまとめている。Bランクのクリトからすれば、有望なルーキーへ少しだけ気が向いたのだ。


「ククク。なんのことやら。」


「いや、正直あのスタンビートで俺の剣とこいつの盾もやばかったんだ。だから、本当にあのタイミングであの採取依頼の情報をくれたことに感謝している。」


「ククク。余は独り言を言ったかもしれぬ。そして()()()()それがおぬしらへ幸運を導いたかもしれぬが、そのような運も含んだモノがお主らの実力よ。」


「だが、あんな貴重な情報をただでなんて、、、」


 クリトは少し面倒になりかけた頃、ちょうど料理が届いた。


「、、、あんたのような人が、“敬うべき先輩”ってやつなのかもな。

 なら、せめて、この皿は俺らに奢らせてくれ。」


 クリトが酒を飲まないのを見て、給仕にチップ混みで皿の代金を渡す。


「ククク。小童が粋がりおって。さて、用がすんだのであろう?失せよ。」


 五人はやれやれという気持ちと、感謝の気持ちと、少しの幸運に感謝をして、クリトの前を去って行った。








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