ギルドへの登録
▽▽▽ ラッドディム ギルマス ▽▽▽
ギルマスは先ほど聞きつけた情報をもとに、契約している精霊も使い事実確認を進めている。
まぁ、それだけではとても足りないため二階の小部屋に来たやっかいそうな連中の顔を拝みに、その扉を開けた
「デモレス、入るぞ」
ガチャリと無遠慮に開いた扉からぬぅっと入ってきた禿げ頭の巨漢のギルマスは、じろりと周りを見ると、ふむと目を細めた。
「そいつらが、この時期に森を抜けた奴らか。」
「あ、ギルマスお疲れ様っす。そうっす。詳しいことは?」
「門での問答は聞いている。一応、顔は確認せんとな。」
そういうと、禿げあがった頭に負けない眼光で三人をにらむ。
「そこのチビ、ギルド証をよこせ。確認をする。
で、お前らは?」
「えっと、サナ、、こっちのこいつなんですけど、この街で冒険者登録をしようかなって思っています。」
「わかっていると思うが、ギルドカードは高度な魔道具だ。二枚目は一枚目の複製が作成されるし偽装は簡単にはできねぇ。つまり、ギルドへの加入履歴はなしってことだな?
で、そっちのにやけた男は?」
「余か?余は人の枠にはまるつもりh
「戦力にならないただの荷物持ちのごく潰しですので、ギルドカードはとりあえずいいです。」
確かに体の動かし方がなんといかタイミングがちぐはぐというか、座っているだけのはずが少々曲がってしまっている。それは逆に疲れるのではないか?という傾きっぷりだ。やはり体のどこかがおかしいのであろう。だが、その男の気だるげに見える眼はふつふつと暗い光をたたえている。
「クリト、とか言ったな。」
「ほう?なぜ余の名をしっている?」
「で、スタンビートの犯人はお前らか?」
ギルマスは男にそう話しかけたが、反応したのはとなりのガキの方だった。
「ななな?なんのことでしょうか?」
ギルマスは目を細め上から冷たく見下ろす。名前を当てても少しも動じない男より、そもそも反応がほぼ無い女よりも、さきほどから挙動不審なこのチビ助をターゲットにした方が崩しやすそうだ。とりあえず、スタンビートになんらかの関係があるのは間違いと判断する。
「森は安全なんだな?」
「、、、えっと、たぶん大丈夫ですよ?
凶悪な魔獣とか、危険な呪いや魔道具の暴走とか、いきなり沸いた毒ガスとかの危険な類は居なかったです、よ?」
“居なかった”ねぇ。と思いながらあえて突っ込まず、ガンレットをつけたチビ助に向き直る。
「ユーナ、とか言ったか。俺は嘘がわかる。そういう精霊を連れている。そのうえで、もう一度聞く。この街に何しにきた?」
あからさまにおびえた様子でユーナが答える。
「旅の路銀を稼ぎにです。。あの、クリトがいまちょっとアレなんで、私とサナで稼がないと旅が、、、」
「旅の目的はなんだ?」
「私の恋人とこのクリトはまともな人間にするためです!」
急にふんすと鼻息荒くいう小僧、、、いや、小娘か?どっちでもいいが、答えた。まぁ、ここまでは嘘がなさそうだ。
「で、どうやって稼ぐんだ?」
「えっと、普通にギルドで依頼をもらって、、、」
「Eランクの二人でか?そっちの女はそもそも戦力になるのかよ?」
そういって女を見ると、マントの影から剣の柄を見せてきた。、、、完全に無表情であるが、なぜかドヤっているように感じられた。
「確かに、飾りで選んだ剣じゃねぇな。刀っていったか?」
女が鯉口を切る。だが、油断も力みもなく、見事な自然体を体現する。
「、、、なるほどな。どこぞの騎士かなにかか。そこらの魔獣ならいけるのかもな。
ただの道楽じゃその構えはできねぇな。とりあえず、現状は信じてやる。
ラヤ!こちらのお嬢さんが登録だそうだ。説明してやれ。」
そういって、ギルドの事務員を手配すると、ドスドスと出て行った。
もちろん、部屋を出る際に、デモレスに詳細を聞くように目くばせをしていく。
“それで、君達はここで冒険者をするみたいだけど、戦う力はあるっすか?”
“はい、実は炎の魔術がすこし使えまして、それにEランク歴は長いので、薬草の見分けとか、あと魔物の解体とかもある程度できるんですよ?”
“へぇ、炎の魔法が得意なのに、Eランクなんすか?”
“えっと、実は、精霊と縁が結べたんです。それで、急に魔術ができるようになって。まだ修行中なんですけど。”
“おー!それは運がいいっすね。精霊との契約があるなら、そこらのDランクの魔獣程度なら問題ないっすね。けど、独学?師匠はいないんすか?”
“えっと、その、、、えへへ。実は、師匠が恋人になってくれまして。”
“え?それじゃ、師事はしているんすね。一緒に旅はしていないんすか?”
“え?あ、その?、、、はい。すみま、、はい。えっと実は、師匠から精霊を引き継ぎまして、それで、、あの、、、師匠はえっとトーマって言うですけど、、、その、炎の英雄って村では呼ばれていたんですけど、、、。あの黒骨騎馬に、、、。”
“、、、そうっすか。申し訳ないっす。変なこと聞いちゃったみたいっすね。で、サナさんでしたっけ?剣の腕はどの程度自信があるんすか?”
“、、、、、、達人だ。”
“ククク。サナが達人なら、余はなんと名乗ればいいのやら。”
“えっと、まぁ俺はそんなに強くはないっすから、よくわからないんすけど、ギルマスがサナさんのことを手練れって判断してるっぽいっけど、クリトさんはどんなことができるんすか?”
“余か?そうだな、こんなのはどうかな?”
その一言を最後に、忍ばせていた音の精霊の集音魔方が弾かれてしまった。
ギルマスことガランは、思ったよりも厄介な相手だと禿げ頭を掻く。
ガランは音の精霊と契約を結んでおり、あらゆる音を集め、確認することができる。しかも、場所さえ特定できればある程度過去の音も集めることができるのだ。連れている精霊のことはギルドの上層部のさらに一部しか知らないが、あらゆる盗賊や違法取引の企みを潰した功績でギルド長までのし上がった。そんな彼は、情報戦だけではなくもちろん腕っぷしも、そしてなによりも危機管理能力に長けていた。そんな彼が、強い違和感を抱く駆け出し冒険者。スタンビードからの森の沈黙というこのタイミングで現れてた彼らをガランは放っておくつもりはなかった。
(とりあえず、集音魔法を弾いたのがどんな方法だったのか、確認だな。それと、過去再生ができるかで、ある程度読めるかもな。まさかほぼ魔力を発していないあの魔術が気づかれた訳はない、、いや、万が一そのレベルの冒険者である可能性も考慮すべきか。)
ガランは現在の手駒で、どのように奴らを監視するか、手を考え始めた。
▽▽▽ ユーナ ▽▽▽
クリトがスッと手刀で空を切り、、、なにも起こらなかったのを確認したユーナはため息をついた。
「クリト、、、えっと、どんまい。大丈夫。次は大丈夫になるよ。まぁ、なんとかするから、もう少し待っててね。」
フッとなぜか鼻で笑うクリトに軽くイラっとしながら、ユーナはデモレスに向き合う。
「えっと、とりあえず、ギルマスさんとお話しできたからもういいですか?あの実はとってもお腹空いてまして、、、。」
「ああ、もうちょっと待ってもらっていいっすか?たぶんもうすぐサナさんのギルドカードができると思うんで」
そんなこんなで、近くの魔獣や採取できる薬草類、そのポイントなどを聞いてしばらく待っていると、ギルドの事務方の女性の方、ラヤさんっだたかな?が戻ってきた。藍色の髪の毛と口元のほくろがあり、スレンダーでキレイ系。うん。私と仲良くできそうな気がする。そんな彼女が申し訳なさそうに口をひらく。
「えっと、サナさんすみません、なんかうまくいかなくて。あの、なんでか、サナさんの魔力紋がうまく取れなくて。その、もしかしてエルフ族が近親者にいたりしますか?」
ギルドカードはカードに血液を一滴たらすことで、他人同士では決して同一になることのない魔力紋をカードに登録するシステムだということだ。で、サナの魔力紋が常人とは異なると。まぁ、サナはホムンクルスだし、精神的には精霊みたいなもんだし。
あれ?これってまずい?秘密がバレて実験体へクラスチェンジ?
そうして、私がおろおろしている間に、何やら違う材質っぽいカードで再チャレンジ。
どうやら、こんどはうまくいったようだ。
「よかったです。サナさん、不思議な雰囲気の方だなって思っていましたけど、エルフの血が混じっているんですかね。
、、、で、あのう、余計なお世話かもしれませんけど、エルフって伝説的な種族じゃないですか。しかも実在が複数確認されていることもあって奴隷狩り的にさらわれたりとかもあるそうなんですよ。ギルドとしては、サナさんがそうだとは情報を出すつもりはないですが、その、、気を付けてくださいね?」
目じりを下げてギルド事務員は心配そうにサナを見る。なるほど。女子力高そうだ。
まぁ、言われているサナは目を合わせて、軽く目礼で感謝を伝えている。うーん。これもこれで、凛々しい雰囲気だ。まぁ、私には合わないから、その路線はサナに譲るとする。
「えっと、ギルドに付き合ってくれて感謝っす。それで宿なんすけど、となりの銀の靴指定っす。部屋は、三人一部屋ならしばらくはこっちで指定した代わりに補助を出す予定っすけど、それでいいっすか?
よければ、こっちで予約しとくっす。」
宿代が少しでも浮くなら、それでよしとGOを出す。グランタイズでしっかり稼いできたので路銀に今は余裕はあるのだが、小市民の身としてはなるべく節約はしていきたい。こうして、パーティー登録もすませて、やっと!念願の!肉!魚!タンパク質!を摂取するために、ユーナたちは食堂を目指していった。