門番の直観
この町はかつて小国ながら魔道具が発展していたラムセイヌ国の首都として、それなりに発展していた。だが、帝国の勢いと時勢にのり、当時の王家は帝国の衛星都市となることを選択。既に当時の王の妹殿下が輿入れされていたこともあり、非常に緩やかに統合されていった。そしてこの町は今も平和にその歴史を今もなお綴っている。
そして、北は翼竜が住み、奥地には竜神もいるといわれる霊峰ピラトゥス。東には魔素が濃く、巨大な湖と多様な動植物が潜む大森林ゼーアルプ。
優れた魔道具もあり、狩場としても魅力的なこの街は、今ではこう呼ばれている。冒険都市ラッドディム。
そんな街の門番は、その三人組の旅人を胡散臭そうに見ていた。
いや、長年の勘からはっきりと確信していた。ぜったいこいつらは街で問題を起こすと。
「、、、身分証を出せ。」
「えっと、、はい、これです。。。」
そう言って提示されたのはEランクの冒険者証一人分。
それを持つのは草枯れたガキで、右手にはゴツイ造りのガントレットを嵌めている。
Eランクにしてはかなりいい装備だが、武器として持っているのは魔石の嵌ったこれまた値打ちにありそうなスタッフ。
近接の魔術師?なのか、長らく門番をしているが聞いたこともない。
「それでですね、、、あのこの二人は、そのぉ、、、身分証を無くしてしまいまして、、、、」
そうして、そのガキが指さした先には、フードをかぶったまま、堂々としている男女。
貴重な身分証を無くしたのに、少しは殊勝な態度でも取るべきじゃないだろうか。
「、、、身元保証は?」
「えっと、、これです。」
そういって取り出したのは、二つ先の国の名前と、おそらく貴族の名前の入ったメダル。
材質と精巧な作りからして、おそらくは本物。
「、、、顔を見せろ」
促されて、フードを軽く持ち上げて見せた顔は、女の方は無表情だが間違いなく美人の部類。むしろ門番においてはドストライクな感じであった。男の方は、がっちりした体躯に覇気をまとい燃えるような赤い瞳が印象的で、不遜な感じをビシビシ出している。ただ、少し体が不自由なのか、動きがぎこちない。
まぁ、門番なんかをしていれば、色々な奴が来る。ここまでは、まぁまだギリギリ許容範囲だ。
見るからにに高価そうな装備を持つEランクのガキ。人形のように無表情だが上玉の女。そして、覇気をまとうが体が不自由な男。
そんな組み合わせの奴らがこの街にくるのは、まぁ、ありえなくはない。
だが、これだけは確認をしなければならない。
「貴様らは、ゼーアルプを超えて来たのか?」
「はい。そうですが、、?」
「実は、一週間ほど前に軽いスタンビートが起きてな。普段は縄張りからほとんど出ない六脚熊やその天敵の角箆鹿も一緒くたに暴走していた。まるで何かから逃げるかのようにな。街への被害はほぼ無かったが、街道の方へあふれた魔物にやられた商隊や旅人が数組でた。」
ぴくぴくと口の端を歪めながら、ガキが答える。
「、、、それは、なんとういうか、ご愁傷様といか、、」
「収まったとおもったら、こんどはパッタリと魔物がでなくなってな。冒険者ギルドでは色々ともめているようだ。
そしてお前らが来た。」
「えっと、、、それが何か問題に?」
わかりやすく目が泳ぐガキ。ここまで怪しいと、むしろ魔物とは無関係で別件の事件にかかわっているのか。
「一週間前のスタンビート後に初めて森から出てきたのがお前らだ。動物を含めてな。鳥すら見ねぇ。普通は旅人は安全な街道を通る。森に入るのはこの街で装備を整え魔物を刈ることを生業にする冒険者どもだけだ。
お前らは、なぜ森へにしか続かないこの道の方から来た?このタイミングでゼーアプルを超えてきたのか
?」
「えっと、、、実はですね、、、お金はまぁ無くはないのですが、その、、おなかが空きまして。
それで、その食料調達のために、森へ入っていました。」
そう言って背負い袋を外すと、確かにこの森で取れる木の実がゴロゴロ出てきた。
「それで? なにか森で不自然なことがあったり、したりしたのか?」
「なにもしてませんよ?!」
「、、、ククク。まぁ、普段との違いといえば、我が居る、というこ
「クリトは黙ってて!あんたがしゃべると面倒になる!」
ばごんっとガントレットの嵌った右腕で頭をはたいて男を黙らせると、あらためて門番に向きあう。
男は顔面をめり込ませて、片足が目の高さでぴくぴくしていたが、2秒後には男は立ち上がった。
割と整った顔立ちだったのが、鼻血をたらしているのが割りとシュールである。
こんな美人を連れていたイケメンの鼻血に少しだけ留意が下がる。
「ほんとに、なにもなかったし、その、、、気づいたこともありませんでした。
ただ、ほとんど魔物に合わなかったというか、その、全然いなかったというか?」
ガキが目をばっさばっさと泳がせながら告げる。
門番は深く嘆息すると、旅人に告げた
「まぁ、その女がどこぞのお貴族様で、お前らがその護衛とかかもしれんが、その身分を名乗らん以上、それなりの扱いになる。
そのメダルは、まぁここじゃあ鉱物以上の価値はねぇな。
だから、通行料そいつらの分と合わせて銀貨35枚。それと、念のためしばらくは見張らせてもらう。宿は冒険者ギルドの隣の建屋“銀の靴”に指定だ。まぁ。ギルドの連中が話を聞きにいくだろうから、それまではギルドで待機をしておけ。おい、あー、デモレス、案内してやれ。」
門の裏の詰め所から出てきた男が先導する。
しばらく歩くと、その男が口を開いた。
「隊長がすみません。隊長、この街が大好きなんすよ。それで、スタンビートのあとぱったり魔物どころか動物までいなくなるなんて聞いたことないような異常事態でピリピリしてるんす。」
「、、、冒険者ギルドとかは、どうしているの?ここ、冒険者の町ですよね?」
「はい、冒険者ギルドも今てんやわんやっすよ。たぶん、すげー魔物が森の中にでたんじゃないかって。なので、もしなんか気が付いたことがあったら、ギルマスに報告してほしいっす。」
そう促されて着いた冒険者ギルド。黒い石造りの割と洒落た外装の建物。ただし、その大きさは周りとは規模が違う。大通りど真ん中ということもあり、周りは商店が軒を連ねているが、そのワンブロック分が冒険者ギルトになっている。それというのも、ひっきりなしに冒険者が狩りの成果を持ってくるのだ。ここまではマジックバックなどの魔道具で持ってきているのがが、獲物には巨大なモノもある。その解体やら鑑定やらを一手に引き受けている。そして、その間の待ち時間をつぶすための酒屋も併設されている。
そんなわけで、これだけ巨大な建屋であっても、中はかなり混雑をしていた。ゼーアプルに獲物が一切いないのだから仕方がないとばかりに、昼間から酒をのんで騒いでいる。
「おつかれっす。すみません、ギルマスは時間とれそうっすか?」
「デモレス様、お疲れ様です。ギルドマスターは、おそらく大丈夫かと。二階の、」
「あぁ、大丈夫っす。小さいほうの部屋でいいっすよね。そこで待たせてもらうっす。」
「助かります。少々、お待ちいただけますか。」
そういうと慣れた感じで右側の階段をデモレスは上っていく。
デモレスとしばらくこの街のこと、、、有体にいえばおススメの料理屋や屋台、それから普段この周りで狩れる魔物などを聞いていた。
今の季節はクポの実が旬なのと、コメから作った酒がちょうど出来上がるらしい。
そんな他愛無い話をしていると、いきなり扉があき、禿げあがった巨漢が入ってきた。