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ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋、ガチャな俺  作者: まお
2章 鏡の魔女
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エピローグ

 鏡の聖女事件から、それなりの時間がたった。


 あの時、おそらく城全体が創昆の結界下にあったのであろう。創昆が破壊され、ねじれた空間だった城が結界から解放されると、破壊の跡もなく全くの平穏だった城がとなっていた。だが現代の聖女ことティアは、贄だった代償もあるため、しばらくはコップを持つのも苦労をしていた。それでも、ティアの周りのみんなが楽しそうにこれからを語っていた。「春には、馬車であの草原まで行こうか」「夏には桃のタルトを一緒につくりましょう」「秋の収穫祭ではまた歌おうね」

 ティアは一部記憶の欠如もあったが、周りの笑顔に支えられ、少しずつ体力も戻ってきた。



 そして、時は流れ今あの頃と同じように雪がちらつく季節になった。


「それにしても、クリトの呪いの力はある意味すごかったな。」


「マジでそれな。ラウド殿下の食客扱いだったけど、サナ様やユーナ様とは違って俺たち(雑兵)と一緒に賄い作ってたりとか狩りしていたしな。あの頃があのモブとかいう状態だったんだろ?」


「だな。まぁ確かに罠の設置とかスゲー器用だったし、今思うと高価っぽい魔道具や魔札とかバシバシつかってたもんな。けど、なんつーか、一流冒険者のオーラっていうか、凄みがないっていうか。」


「ほんと。俺らに交じってバカやってくれてたのって、今考えるとスゲー失礼なことしてたよな。そもそもB級(一流)冒険者だったわけだし。」


「まぁ、あの後のクリトの伝説を考えると、そんなの小さな事に思えるけどな。」


 ガチャガチャと備品整理をしながら、17番分隊の副隊長補佐は苦笑いをする。





 あの日。ティアの無事がある程度確認され、城内の無事がある程度確認された頃には翌日の日も暮れる頃になっていた。あれだけの戦闘があったにもかかわらず、異空間での行為であったためなのか、備品が無事、つまり魔道具類が正常に稼働できていた。そのため事件の規模や内容にしては驚くほどはやく日常が帰ってきた。

 もっとも、ジェムエル老師をはじめとした王宮魔導士達は、隠されていた構築陣や壊れた創昆の解析などで3年たった今でもがっつりと取り組んだままの様だが。

 だが、それでもその日常が帰ってきた最大のきっかけはクリトの始めた宴であった。

 事件明けの翌日の夕食にとりあえずの慰労として、雑兵たちにもある程度の酒も許された。そこにクリトも参加していた。


「いやいや、お前は最高レベルの功労者だし、そもそもラウド殿下の食客だしでこんなとこに来るもんじゃないだろ?」


 17番分隊の一人がクリトに話しかけた。


「今更じゃねぇかよ。第一お前がこの前の狩りの時の借りを返してくれてねーから取り立てにきたんだよ。」


 クリトはニヤニヤと酒を注いで回る。


「さぁ、あの時なぁなぁにしくさりやがったけど、今度はお前が一芸披露をする(借りを返す)番だぜ?」


 酒席は大いに盛り上がり、守護隊も交じり始め、ジェムエル老師も参加し、騒ぎを覗きに来たガリエルにジョッキを渡そうとするところで、侍女頭に一括されてお開きとなった。


 その後もクリトは警備隊訓練に参加をしたら、いつの間にかトーナメント大会になっていたり。厨房に顔を出して新レシピを教えていると思ったら、いつの間にか中庭で屋台販売を始めて行列を生み出していたり。ただの夕食のはずが大いに盛り上がり侍女頭に怒られたのも数知れず。


 そんななか、春の日差しを受けて今回の功労者をねぎらうために王はクリトに褒美を問うた。


「爵位や財宝などは俺の身にあまるモノです。大体、今回の真の功労者はラウド殿下かライムだろ?あ、でございます。」


「ライムはティアの侍女でもあり、相応の待遇を準備しておる。

 だが、お主は士官する気もなく、国内に留まらぬという意思だ。

 なら、王家としては相応の褒美を取らせねばならぬ。そうでないと、余計な貴族連中が煩いのもあってな。」


「、、、なら、一つ。ラウド殿下とティア様と、祭りを行わせていただければ。」


「なに?祭りとな?」



 それから、季節が廻り、再び冬になる頃。

 王都で“聖女祭”が開催されることになった。

 このグランタイズ王城はかつて聖女の鏡があった。その鏡にあやかり、町は鏡で装飾される。

 そして、この祭り時だけは、みな白い衣装に包まれる。騎士団長も、侍女も、大人も、子供も。身分に関係なく。ただの一人として、祭りに参加をする。

 一部の洒落者は、白の仮面までつけて、全身真っ白で参加をしている。

 どこの誰だかわからない。というよりも、誰だとか彼だとか関係なく、みんなで楽しむための祭り。噂では、王子や王女も、真っ白な仮面(お忍び)で参加をされているとか。



 あの時、ティアが助かったのは小さな奇跡がそろったから。

 ラウドが、ティアを守れるほどに強くなることを諦めなかったから。

 ライムが、限りなくゼロに近い可能性すらも諦めなかったから。

 そして皆が、ティアとの未来を諦めなかったから。


 だから、聖女祭りは小さな奇跡を諦めない祭。

 王子か王女か、特別なひとを見つけられれば、幸せになれる、、、かもしれない。そんな祭り。

 特別な人から転じて、白い仮面をつけた想い人をみつけて告白をするというイベントにもなっており、年頃の若人は、想い人を探しあったり、高値の花に挑んでみたり。皆が小さな主役となるお祭りになっていた。 毎年グランタイズ城下町では開催されるようになった、そんな祭りの準備を進める彼は同じ隊の連中を振り向きながら、伸びをする。


「器用な奴だったけど、まさか旅立つまでの半年でこんな祭りをブチ上げるとはね。あいつのアレは呪いなんだか、祝福なんだか。」


 余談だが、クリトのキャラはインウィディアの魔力を回収したことで変化していた。

 今度のキャラは「お祭り男」この後しばらく彼が旅の途中で滞在した村は新たな祭りによる村おこしが行われ、グランタイズ王国は特色のある豊かな文化を持つ国として栄えていくことになるが、それはまた別のお話。


 とりあえず、二年目の祭りで「想い人」と出会た彼からすれば、クリトは救世主であった。今年は、彼は運営側。白い衣装は着ていても、兵士として衛兵としての仕事をしなければならない。



「それにしても、ラウド殿下は立派になられたよな。」


「あぁ。自身の努力も我々にはとうてい追えるものではないが、それ以上になんというか、あー、かり、かりせ、、」


「カリスマな。」


「そう!そのカリスなんとか。仕えたいというか、この方についていけば安心というか!」


「四文字の単語も覚えられないようなやつに、殿下もついてきてほしくないだろうさ」


「うっさい!俺だってなぁ、なんかの役にはたつんだよ!」


「わーかってるって。お前の槍術は天下一品だよ。なにせ、お前の嫁さんとの出会いもそれに笑ってくれたのがきっかけだったしな。」


「大車輪は大道芸じゃない!あれは、ちゃんとした」

「はいはい、とっとやんねーと開始に間に合わねーぞぉ」



今日は祭りの日。身分もなにも関係なく、みんなが小さな出会いと奇跡を信じる日。


「あの、これを、受け取っていただけますか。」


だれかが小さな勇気を出す日。

聖女祭は、今年も小さな物語を、街角でヒトの数だけ小さく紡いでいく。


「はい、この剣はグランタイズのものですが、この御身は貴方のために。お慕いしております、、、、、ァ様。」





 後年、ラウドは、人の才能を生かし、育てることで盤石な体制を整えた中興の祖として歴史に名を刻む。特に、料理人を厚遇し大衆料理文化が華やかに実ったことも特筆されている。そして、王家が強い力を持ちながらも、その身分よりも実力を重視する独特な政治体制へ返還していくこととなる。

まぁ、そんな歴史の流れはさておいて。ギャン泣きしていた誘拐王子は、少しは成長したようだ。今日は、身分も関係ない聖女祭。町の悪ガキどもの先頭で走っている、見覚えのあるシルエットが楽しそうなので、聖女の鏡の物語もこの辺で終幕。

モブに徹していたクリトは次こそ主役になれるかは、次のお話でご確認くださいませ。


読んでいただき、ありがとうございます。


次回嘘予告

新たな光が、未来を紡ぐ

第三章 第一話「真の勇者」

君は、主人公より人気のあるわき役が主役となる流れに既視感を覚える。

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