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ナマクラ魔剣とポンコツ知恵袋、ガチャな俺  作者: まお
1章 炎の英雄
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黒骨騎馬とサナ

 ガギンと、重い金属音を響かせながらサナは表情も変えずに既に二桁におよぶ突進を太刀で受け流していた。

 黒骨騎馬の攻撃は単調である。早い上に重量があるためほぼ直進にしか進めないからだ。だが、その速度は尋常ではない。しかも、(つがい)になりかけていたトーヤの身体を切り離され、激高した黒骨騎馬は足に魔力をまとい空をも駆けている。


 他方、サナは最初の落下で右腕がまともに動かなくなっている。


 当初は避けていた攻撃も、4度目の突撃時に黒骨騎馬が鎧の形状を変形させるという不意打ちにより、読み誤り跳ね飛ばされてから後手後手に回ってしまっている。いかに達人の剣士であったとしても如何(いかん)ともし難い重量差を捌き切ることはできず、少しずつでも確実に毀傷を蓄積させられてきた。


 すでに避けるだけの体力はない。受け流すのが唯一できることになってしまっていた。


 右側から来た突進を太刀を盾になんとかやり過ごすも通り過ぎ様に黒骨騎馬が跳ね上げた拳大の礫がサナの背中を直撃した。不意の一撃により限界近くの身体がふらついた。

 瞬きにも満たないその隙であったが、それを黒骨騎馬は見逃さずに突っ込んでいく。


「サナ!」


 珍しく張った声を出したクリトはやや小ぶりな瓶を両手に1本ずつ抱えている。そんなクリトは眼中にないとばかり、黒骨騎馬はサナを跳ね飛ばした。


 吹き飛んだサナはそれでも衝突の瞬間にわずかに体をひねることで、直撃をさけ、向かう方向にわざと跳ね飛ばされていた。クリトも駆け出し、地面を弾みながら転がるサナに追いつくと、右手の瓶の中身を周囲にばらまき、左手の瓶の中身を一口含んだ。口の中でその酒に魔力を込め、吹き散らすと詠唱を開始する。


「『満たされるまで 飽きるまで 隔絶されし世界を抱け 万寿宝來(まんじゅほうらい)』」


 一気に広がった立体魔法陣が弾け、二人を包むかのような丸い球体の薄膜が形成された直後、黒骨騎馬が突っ込んできた。が、そのまま素通りしていった。


 その薄膜の中は、この世に隣接する此処に非ざる世界。

 薄膜の中と外は互いに干渉できないという、チエが一つ目の奥の手として仕込んだ絶対防御の魔術であった。黒骨騎馬が何度もアタックを繰り返すも、薄膜の中にはそよ風一つ立っていなかった。


 クリトは嘆息しながらサナに向かい合う。


「おいおい、ずいぶんボロボロだな。

 お子様の食べかけミルフィーユみたいだぞ?

 だが、いけるよな相棒(サナ)。」


 ボロボロの姿で転がっているサナは無表情のまま見上げると、右手に握っていた剣をクルリと回し、クリトに差し出した。


「飲まれるなよ?チセ、身体のほうよろしくな。」


 〈お前こそ、今度は飲まれるでないぞ?〉


 黒い片刃剣を受け取った瞬間、サナの目の光が消えた。そして、黒い鋼板のようなものをサナの右手に握らせると、急にサナの表情が変わる。


「大丈夫よ、私にまかせてね。

 やっぱり、クリトは男の子だもんね。大丈夫。今回もきっと何とかなるわ。

 それよりも、この体、あちこちやな感じがするわね。これ、痛いってことなのかしら。動かしたくもないわ。あらあら、やっぱり。服もあちこち敗れているじゃない。血もついちゃって。洗うの大変なのよ。そうだ、やっぱりクリト、洗濯用の石鹸をつくらない?大丈夫結構簡単なのよ?」


「あー。後でな。それよりその体は乾燥したバームクーヘンみたいなもんだから気をつけろよ?

 あと、動けるようになったら早めにユーナのとこに迎えにいってくれ。

 結界を張っているから大丈夫だとは思うが、トーマの魔力が綿菓子みたいになっている。

 なるべく集めておいてくれ。」


 そういって、指輪(インベントリ)から魔札と荷物をチセの入ったサナの身体の近くに置くと、クリトは剣に向き直り、残っていた酒を太刀にかけていく。


「『凍れる刻 空虚なる炎熱 混濁たる絶望 汝の真名にてすべてを屠れ 草薙の剣(クサナギのつるぎ)』」


 チエがクリトに送った、二つ目の奥の手(戦う手段)

 それが、この草薙の剣の魔術であった。


 ピキッ、パキパキパキと音が響き、黒い刃にヒビが入る。そのヒビから光が漏れ、その光が強くなるたびに、黒い部分がはがれて落ち、溶け消えていく。


 黒い部分が溶けるたびに、クリトの表情も変わっていった。ピンとがずれていたような雰囲気は薄くなり、熱く燃えていた目に相応しい、凛とした表情になっていく。

 そして剣の刃がすべて白く輝く頃には、クリトは獰猛な笑みを浮かべていた。最後に刀身が見えないほど強く輝くと、ふっと光が収まり、見事な刃文の太刀が現れていた。


「行くぞ、相棒(クサナギ)。」


 太刀を振り下ろし、黒く裂けた穴を空間に作ると、一足に飛び込んでいった。


「やっぱり、クリトはやんちゃなまま成長しないわね。あんなに張り切っちゃって。」


 クスクスとチセは笑いながら、どっこいしょ、と体を起こして、魔札を体にペタペタと貼りだした。




 一方の黒骨騎馬は、触れることすらできない薄膜の中に興味をなくしていた。


 ▽ ▽ 黒骨騎馬 ▽ ▽


 そういえば、番になるはずだったアレはどうやら食われたようだ。

 残念だが仕方ない。

 けど、近くに旨そうな魂を感じる。

 あの白い炎程度なら、たやすく蹴散らしてやる。今はひとまず、あれを食らうとしよう。番にはするほどの価値はないが、餌としてみるにはそれなりに旨そうじゃないか。

 黒骨騎馬はそう思い頭を巡らせた。

 が、右後方に妙な気配を感じ、振り返ると、さっきの変な男が立っていた。


「ようカス野郎。俺とクサナギのために、お前の魔力(いのち)を狩らせてもらう。」


 ふざけた事を言い出した男はさっきの番を切り離した女と似たような形の剣を持っていた。そして、上位の魔物である自分をまったく恐れずに睨み返している。


 気に食わない。

 先にこいつを喰らってやる。


 一気に加速した黒骨騎馬は真正面から向かっていくも、男は避けるそぶりも見せずに獰猛な笑みを浮かべている。本能的な引っ掛かりを感じてはいたが、常勝無敗、傷すら受けたことの無い黒骨騎馬はそいつをまっすぐに跳ね飛ばした。


 跳ね飛ばしたつもりだった。


 だが、なぜか無様に大地を抉りながら転がっていったのは自分だった。

 何が起きたか理解できなかった。頭を振って立ち上がろうとすると、うまく立ち上がれない。


 おかしい。

 右前脚が明らかに短い。前腕の中ほどに鎧共々鋭利な断面を見せたそこには、あるはずの脚がなかった。


「遅え。サナが手こずったようだから、期待してたんだが、もういいや。

 あいつは修行のやり直しだな。

 何が、私に切れないものはない、だ。ナマクラのくせに粋がりやがって。」


 いつの間にか近くまで来ていたそれは、誇り高き黒骨騎馬(オレサマ)を見下ろしていた。そして、無造作に剣をもった手を振り上げる気配を感じた黒骨騎馬は本能的に魔力を足にこめ跳ね飛んだ。

 だが、数舜間に合わず、左後ろ脚が切り飛ばされた。


「手間かけさせんな。うぜぇ。」


 おかしい、ありえない。

 黒骨騎馬は混乱に包まれていた。

 川上に向け逃げようと魔力を練りあげるも、急に魔力が霧散し、河原に轟音を立てて落下してしまった。


「逃げられると思ってんの?無理だろ。

 こいつは草薙の剣。

 貴様なんかは屁にもつかねぇ邪神を封じていた神剣だぜ?

 もっとも魔物を食わないで、食い物ばっか退治してるから、俺もこいつが神剣ってのを忘れてたけどな。」


 おかしい、おかしい!おかしい!!

 なんだこいつは、何なんだ?


 ふと気が付くと鋭利に見えていた前脚の断面はグズグズと崩れている。体の維持すらできないほど、急激に魔力が失って、否、奪われている。

 チエが準備した三つ目の奥の手は、すべての魔力を食い尽くす暴食の魔術であった。


 そして、気づいたときには、剣は眉間を貫いていた。


「終わりだ。『絶』」


 眉間から白い刃をはやした黒骨騎馬は極短い詠唱の終了と同時に一気にボロボロと崩れていく。恐怖の体現として君臨していた黒骨騎馬は、混乱の感情の根本が恐怖と呼ばれるものであると理解する間もなく意識を失っていった。


 ▽ ▽ ▽


 ズンと音が響いたしばらくの後、再び虫の音がなり始めた。そして、そこには漆黒の馬鎧だけが後に残されていた。


読んでいただき、ありがとうございます。


次回噓予告

それはまだ、終わらない。

第一章 第8話 「クリトの二日酔い」

君は迎え酒という暴挙に戦慄する。

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