ユーナとチセ
「どっこいしょっと。あらあら、おばさんぽい声出しちゃったわね。
ん~。日当たりはいいし、やっぱり風が気持ちいいわ。
ユーナちゃん、ここいい所ね。
ちょっとお話しない?
あら、この草、乾燥させると肉の生臭さを抑えられるの。
やっぱり少し摘んで帰ろうかしら。
たくさん生えてるし、いいわよね?」
「誰だ、お前?」
いつもは抜き身の剣のような覇気をまとっていたサナだが、なぜか今はおばさんっぽくなって慣れ慣れしく話かけてきた。
「えっと、サナよ?」
「いや、違うだろ。」
ユーナは半眼で断定する。
「あら、やっぱりわかっちゃった?完璧になりきってるつもりだったのに。だって体はサナなのよ?
すこし体を借りておしゃべりする位ならばれないって思っていたのに。それにしても、やっぱり若い体はいいわね。膝が軽いのよ。やっぱり肌もつやつやだし。あなたも気をつけなさいね。若いからって日焼けにノーケアだと年とると皮膚ボロボロよ?」
正直、動きが素人っぽすぎる上に、明らかに雰囲気違うし。怪しすぎて、逆に警戒心が削がれてしまった。
「それで、お前は誰だ?なんの用だ?」
「えっとね、私はチセ。サナのお姉さんみたいなものよ。けど、今は私の事はどうでもいいの。さっきサナが落ち込んで帰ってきてね。どうやら、ユーナを怒らせたみたいって。あの子、やっぱりクリトに似ちゃったのか、口下手でしょ?ユーナちゃんと暮らしてから、最近は華やかな表情も見せる様になってきたけど、やっぱり不安そうな顔ばかりでしょ?お姉さん、お節介ってわかっていても、やっぱり心配なのよ。クリトは今手が離せないし、やっぱりこう言う事は女同士がいいかと思ってサナに伝言頼んだんだけど、やっぱり、いやなのね。そうよね。ごめんなさいね。急に変な事言って。変に思わないでね。私やサナって、やっぱりこんなだから、それもアリかなって思っていの。ユーナちゃんはヤンデレクラスに一途っぽいから、大丈夫って私はやっぱり太鼓判おしていたんだけど、やっぱり異種族恋愛は無理なのよね。そうよね。クリトも言っていたわ。やっぱり常識的に考えればそうだもの。ごめんね。お姉さん変なこと言っちゃって。大丈夫。ユーナちゃん可愛いから、街へ降りればきっとモテるわよ。お姉さんが保証するわ。やっぱり女の恋は上書き保存!さっさと黒骨騎士を倒して結婚資金にしちゃいましょう!」
一気にまくしたてられて気圧されてはいたが、それでもこれだけは譲れなかった。
睨みつけながら宣言する。
「私は、トーマ以外とは嫌。トーマが亜死族として生きるなら、私も眷属にしてもらう。
トーマが私のすべてだから。」
「う~ん、同種恋愛に拘るのは、わかったけど、やっぱり亜死族は辞めた方がいいわよ?
すぐに魂が瘴気にまみれて自我が崩壊しちゃうし、肉体だけの関係っていうのは、やっぱりお姉さんはダメだと思うけど、ユーナちゃんが望むのなら、、でもそれも直に腐っちゃうし。ほんの刹那の邂逅はやっぱりロマンチックだけど、瘴気だらけで二人の世界に浸れないし。。。
それならやっぱり精霊になった彼と関係を育んだ方がやっぱりいいと思うのよね。」
「精霊の彼、、、って誰ですか?」
もしかしてという薄い期待に、確かめずにはいられなかった。
思わず、サナだかチセだかの肩をつかむ。
「もちろんトーマ君よ。
ギラちゃんが言うにはね、まだ繋がっているらしいのよ。ただ、ギラちゃんもトーマ君と離れてずいぶん弱ってきているから、私はクリトほどまともに話せないのよね。
あのね、クリトってすごいのよ。異世界の私のためにバッテリーを作ってくれたり、他に契約者のいる精霊や魔導具を使いこなしたり。力尽くが多いし、本来は剣士だったけど、やっぱり凄腕の錬金術師でもあるのよ?実は自慢の弟だっておもっているのよ。あの子と出会えてほんとによかったわ。あの子小さい頃はチエおばちゃん、って甘えていてね、しょっちゅう布団に潜り込んできていたわ。それでね、すごくトマトが苦手なの。トマトといえば、」
埒が明かない話をするチセだかサナだかなんだかを放置し、山小屋に駆け戻る。すると、クリトは武器に付加するための触媒を錬成していた。
「おう、どうした。
砂糖と塩を間違えて作ったパンケーキ食ったみたいな顔して。
そんなに急いで腹でもへっているのか?」
ユーナはいきなりクリトの襟首をつかみ詰め寄った。
「あんた、トーマの魂を錬成できるの?」
「あ?まぁ、俺っていうのもあるし、チセが方法をしっているからな。
俺の師匠に仕込まれているから、まぁ多分でき
「どうやる?何が必要?何をすればいい?洗いざらい吐きなさい」
「あ、え、あの、くっ、、ぅし、ま、て、あ、」
「はっきり喋れ!」
ガクガクとクリトを揺さぶるユーナが、それではクリトがしゃべれないと気づくまで、それなりの時間が費やされた。なまじ丈夫なクリトは、しかし、身体の動きと技術の乖離もあり、非力なユーナにされるがままになっていた。
サナも戻り、情報が整理される。
ボロい雰囲気となったクリトは、トーマの現状、そして救えるかもしれない方法を伝えた。
チャンスはおそらく一度。可能性は高くない。
「んで、お前はどうしたい?」
「決まっている。トーマをあの化け物から取り返す。」
「まぁ、魂魄昇華が完成していれば、ヒトの身を捨てて精霊化するようなもんだからな。
おまえが安全な場所まで逃げたと確信できれば、玉石に退避している可能性もゼロじゃない。
だが、それ以前に俺たちを信じられるのか?」
「ゼロじゃない可能性があるなら、私からすれば、その他のリスクは無視できるのよ。
だけど、まあ、この際だから一つだけ、聞いてもいいかしら。
アナタたちが黒骨騎馬を狩る目的ってなに?
そんだけ資金も魔道具も技術もあるなら、金目当てってことはないでしょ?
それとも、あの黒骨騎馬ってすごい素材にでもなるの?」
「、、、ま、簡単に言うと、俺もこいつも呪われているようなもんでな。
その、まー解呪には、魔力が集める必要があって、そのためには化け物共を狩る必要があるってわけだよ。」
「なら。トーマは、魔力の塊だけど、そっちはどうなのよ?」
「正直、トーマの魔力でも、もらえるんなら集めたい。
だが、解呪の構造上、恨みを買うのはあんまりよろしくない訳さ。
それに、チセもサナもお前を気に入っててな。
トーマとの仲を応援したいんだってさ。」
「、、、魔導具ってのは、意思があるものも在るのね。。。」
「ま、こいつは特別だよ。
なんせ、俺の師匠の最終傑作のひとつだしな。紅茶のゴールデンドロップでどんぶりサイズの紅茶をつくったようなもんだな。」
「あんたの師匠って、どんだけぶっ飛んでるのよ。」
「チェイル亭の地獄炒めよりもぶっ飛んでるよ。」
「あんたも、大概だけどね。
技術もそうだけど、その食べ物中心な考え方。
食いしん坊っていうことなら、サナのほうがよっぽど貪欲だし。
まぁ、そのヘンテコな感じも変な呪いの影響なら、ある意味なっとくかな。」
むすっとするクリトにニヤニヤと笑いかけるユーナ。
「ほっとけ。んじゃ、魔剣の続きすっから、向こうに行ってろ。
それと、クリトを抽出するってんなら、確率を上げるためにもういっちょ仕込みがいる。
明日からそっちもやるから、飯は任せた。」
「りょうーかい。
リクエストある?」
「黄鮭あったろ?あれでムニエル作ってくれよ。」
「むにえるってなによ?
そんな料理しらないよ。」
「あー、サナ、チセ。レシピ教えてあげてくれね?」
こうしてその日も暮れていく。
トーマを取り戻すチャンスはたったの一度。
その日はもうすぐそこまで来ている。
そして、ユーナにはもう迷いはなかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
次回嘘予告
一瞬の憧憬とともに訪れる新たなる地獄。
第一章 第6話 「アレンジャーなチャレンジャー」
君はただの白飯が恋しくなる。