プロローグ
「帰ったぜ、チエばあちゃん」
「おや。おかえり、クリト。無事でよかったよ。」
チエはゆっくりベッドから安堵した顔をむける。
「あそこまで準備ができてんだ。攻略くらい楽勝だ。それより、飯だ。腹減った。」
そう言って、クリトは厨房へ向かう。
「いつもすまないねぇ」
「‘そいつは言わない約束でしょ?’だっけか?」
クリトは苦笑いをしながら手際よく調理を進めていく。
ここは、クリトとチエが借りている拠点。孫のようにも見えるが血はつながっていない。孤児だったクリトを引き取った孤児院の院長だったチエは凄腕の魔術師だった。チエはそこでクリトの才能に出会い、そして育てた。クリトは剣の天才であり、また非常に稀有な精霊と契約を結ぶことができた。
そもそも、教会でも信仰されている五大精霊の眷属ですら出会うことも稀であり、さらにその下位精霊ですら契約を結ぶにはかなりの才能が必要なのである。
そんなクリトの契約精霊は「付喪神」とであった。万能の魔女と呼ばれるチエですら、この世界では聞いたことのない精霊だった。
万能の魔女、、、チエはあらゆることを知っていた。古代の秘術から、町の噂、そして、聞いたこともない技法。ありとあらゆることを。
そんなチエが作り出した料理や芸術、そして魔術。ロストテクノロジーとされていた空間魔術を復活させ収納魔法や遠距離会話の魔道具も作り出した。
結果として巨額の資産を持て余したチエがそのほとんどをつぎ込んだのが、各地のスラムの開放と孤児院の運営だった。
チエは技術、知識は膨大であったが魔力は全く持っていなかった。平民ですら、軽い火種や生活用の水程度は操れるにも関わらず、ネズミなどの小動物程度にも持っていなかった。
なので、魔力量こそ高貴の証とされているこの王国では、奴隷に次ぐ最下層に分類される人種だった。
チエは、そんな中で若い頃に苦労を共にした環境を少しでも改善するために、その私財を揮っていたのだった。
緩和休題。
料理を完成させたクリトは、チエが横たわるベッド脇に椅子を寄せる。
「今日は海鮮にしたぜ。ばあちゃんも好きだろ?」
「クリトも料理の腕を上げたねぇ。これならいつでも一人立ちできるねえ。」
「当たり前だろ?俺はすでにギルドではBランクだぜ?」
「、、、そうだったね。いままでいろんな子を育ててきたけど、お前だけはいつまでも親離れできないねぇ。おかげで、私もついつい甘えちゃっているよ。」
「、、、」
「ねぇ、クリト。実は、お前にもまだ話していないことがある。」
「、、、どうした、藪から棒に。」
そう切り出したチエは、身につけていた、指輪型の魔道具を発動させた。チエが作り出したインベントリが刻まれているその指輪から、一つの蓋の無い棺が取り出された。
「、、、ばあちゃん、“これ”は?」
「、、、そう。ヒトじゃない。ホムンクルス。あたしの、罪と罰さ。
クリト。済まない。あたしの財産も、知識も、秘密も、なにもかもをお前が好きにしていい。
だから、この娘の、、、、、、処分をしてくれないかい?まぁ、そのようするに、あたしと一緒に葬って欲しいのさ。」
チエは、ゆっくりと語り出した。
自分が、実は異世界からの転移者だったこと、その時に得た道具の力で元の世界とこの世界のあらゆる情報を手に入れられること、そして、残してきた娘のこと。
「情報だけなら何でも簡単に手に入ってきたからねぇ。
ロストテクノロジーも、最新技術も。あっちの世界でのロジックも。
魔力が無い世界から来たからこっちの魔法が万能に思えて。
娘に会いたい気持ちを抑えきれなかったのさ。
だから、、、娘を作った。
そして、、、それが禁忌だと、やってはいけなかったと、作ってから思い知ったよ。
身体は作れたさ。だけど、魂は作れなかった。
当然さ。未だに、誰も作れて無いのだからねえ。
天才達が生み出したモノの盗作しか出来ないあたしは、神の領域には、届かないのさ」
クリトは黙って話を聞いていた。
いままで、ずっと育ててもらった。
魔道具の手解きもしてもらった。
冒険の心得も教えてもらった。
師匠であり、恩人であり、家族だった。
だから、我慢しなかった。
「うるせーぞ!婆ア!冷めるだろうが!」
「おま、この、えぇ?この流れはしんみりと話を聞くとこだろぉが!」
「俺は!腹が!減ってるんだ!それに、婆アのそれは粥だぞ?冷めると、半端なく不味いだろうが!」
「この、クソガキが!少しは老い先短い、か弱い老婆を労わらんかい!」
「黒死蟷螂を一撃で燃やし尽くす婆アの何処がか弱いんだ!?」
「あたしは病人だそ?!労われ!」
「その焼けた黒死蟷螂の肉なんか食うからだろうが!医者が引いてだろうが!『えぇ、、、アレを、食べた?』って、普通は死ぬぞ?何腹壊したくらいで収まってくれたんだこの人外が!」
「あたしが人外なら一緒に食ってたお前もだろうが!」
「だから、俺まで気まずくなっただろうが!人体実験に呼ばれそうになったろうが!」
これは、重たいはずであった話もサラッと日常の一コマにしちゃった、そんな師弟がプロローグとなる物語。
見つけていただいてありがとうございます。
基本的に自分が読みたいストーリーで進んできます。
初の連載に挑戦中です。