断罪をこの目で見る事に
断罪が見たかったのに、どうしてこうなった。
@短編その61
のっけからとんでもない事を言うようだが・・・俺は断罪するところを、見たい。
一度見損ねてから、この欲求は止まることを知らない。
とあるパーティーに呼ばれたんだが、面倒なので行かなかった。
そしたら!
そのパーティーの主催者だった公爵家の嫡男が、婚約者を・・・なんと!
あの!!有名な!!悪質かつ、悪辣な、そして後でひどい目に合うと言われる!!
D・A・N・Z・A・I!!!
断罪をやらかしたそうだっ!!!
前から噂で聞いていた、あの断罪が見られたそうだ!!
なんてことだ・・・見たかったっ・・!!
話に聞くと、今回の断罪だがパーティーの主催者である公爵家嫡男が、男爵家の婚外子と恋仲になって、邪魔になった彼の婚約者に対してという、まあありきたりな設定だった。断罪自体ありきたりでは無いのだが、それはまあ、いいとして。
勿論、この勝負は婚約者である伯爵令嬢の完全勝利である。そりゃそうだ。
だからと言って痛くも痒くもない腹を探られたのだ、断罪される側はたまったものではない。
怒りで倍返しを喰らった公爵家嫡男殿と浮気女は、貴族社会から消えたそうだ。
愚かな事に、断罪する側は自分達の正義を疑わない。自分達こそ正しいと思い込んでいるのだから始末が悪い。
婚約者という立ち塞がる『悪』を打ち破り、勝利して愛する者を手に入れる事に酔いしれていて、真面なおつむでは無いのが嘆かわしい。ふたりの愛だけでは覆せなかったのだ・・愛というのだろうか?
このように、お目出度い頭のふたりが、正論と常識でぶん殴られる様を見たいのだ。いわゆる『ざまぁ』である。
俺はこの茶番を見たいわけだ。
もちろん、本当に婚約者が下劣で性悪で、男(もしくは女)の浮気相手に対してヤバいくらい酷い事をやらかしたものだから、断罪が成功した事例も無いわけではないが、そんな事は稀な事象だ。
高位貴族の婚約者がいるのに浮気という点を突けば、男(もしくは女)とその御相手が、世間からどれほど白い目で生暖かく見られる事になるのは明白だから、『冷静になれ婚約者』と俺は思う。最初から君が勝ちだ、安心しろと。
もしも俺の妹が婚約者の立場でそんな目に合ったら、こっちから断罪してその家滅亡させてやるわ。
俺よりも両親のご乱心が心配だがな。妹の婚約者は俺の親友で、俺より2倍は優秀でいい奴だから大丈夫だろう。
とにかく、断罪は勝てる場合以外はやるべきイベントでは無い。
・・・と幾度も断罪して失敗する先人達がいるにもかかわらず、年に1〜2回は断罪をする馬鹿がいるわけだ。
恋愛脳って本当怖い。
もしも婚約者自身がいじめまでして浮気相手に仕返しがしたいと思った時点で、その両親なり護衛なり隠密なりが浮気相手を『消す』だろう。だって婚外子なんてほぼほぼ庶民だ。貴族の相手に嫌な思いをさせたなら、こっそりと始末されても文句は言えない立場だ。そもそも高位貴族の男(もしくは女)は、いじめをするなんて手間、そして小物感じわるような立ち振る舞いなどするわけがないのだ。
それをしないのは、その浮気相手など側室(もしくは遊び相手)にでもすればいいと考えているからだ。その程度では目くじらを立てるのも己の懐が狭いと思われる気がして癪に障るから絶対にしない。
家同士の婚姻は重要だから、正室や妃は(もしくは家長)譲らないけど側室や妾(もしくは遊び相手)ならどうぞと心が広い。だって自分の父(もしくは母)や親族も、そういう遊び相手はいるが、母(もしくは父)を大事に、一番に扱っているのだから。家同士の婚姻は、愛情だけでは無いからだ。
・・・なんて言ったが、俺の父は母に一目惚れで、婚約というよりはプロポーズをいきなりやらかして結婚した変わり者だ。今も妾の一人もいないので、周りのご婦人方に母は羨ましがられ、父は模範的な夫と尊敬されている。
二人が幸せそうにしているのを見るにつけ、ああ、やはり浮気は何にもいい事などないんだなぁと改めて思う。
父とは酒が飲める年齢になったので、飲むのに付き合わされるのだが、こんな事を言っていた。
「浮気相手に注ぎ込む金と時間があるなら、全部妻に注ぎ込むさ。浮気相手の何倍もの愛情が返ってくる。だから浮気相手なんか見つける意味なんか無いし、時間がもったいない。だってレイリィ(いまだに母をあだ名で呼ぶ)はいい女だからな!」
と、惚気てくる。まったくやってられない。
俺も母上のような相手を見つけたい。本当に素晴らしい女性だからな。
まあつまりは、だ。
断罪はお笑いイベントで、やらかした奴は末代まで笑い者にされるのだ。
「レオニード様。貴方との婚約を、破棄いたします!」
今こんな戯言を言っているのが、最近俺の婚約者となったマリアナ嬢だ。
うーーん、まさか自分が断罪される側になるとは、ちょっと油断したかな?
愛し合う両親に溺愛されて育った俺は、浮気嫌悪派である。悪い事といわれる事象を何一つしたことが無い、清廉潔白な男だ。面白味が無いと言われることはあるが、ガチガチな石頭では無い。
さあて、どんな理由で断罪してくるかな?
「な、なにを笑っていらっしゃるんですの!婚約破棄されるのですよっ!」
あ。顔が笑っていたか!だって愉快じゃ無いか?どんな理由を言うか、楽しみで楽しみで・・・
妹が婚約者と一緒に、俺のもとに駆けつけた。ああ、二人に心配させてしまったな。
『ニコラス、妹を頼む』と親友に耳打ちし、にこっと笑って見せたが妹達は心配そうな顔である。
・・・まったく。
よくもまあ俺の妹、そして親友にいらぬ心配をさせてくれたな。
言い訳を聞いてから判断しようと思っていたが、もう知らん。こっちが破棄をしてやろう。
「さあて、どのような理由で婚約破棄、しかも退路無しにする気だろう大勢の場での発表だ。言ってみるがいい。納得出来うる理由なら、この場で受け入れてやろう。さあ、言うがいい」
「そ、その威圧的な態度に、いつも萎縮してしまいます!どうしていつもそんなに偉そうなんですの?」
「・・・えーと。それが婚約破棄理由?」
「まだありますっ!ちっとも優しくありません!二人でいる時だって・・・もにょもにょ」
「もう成人した女性なんだから、はっきりと言う!」
「そ、そういうところですっ!!すぐダメ出しをするところですっ!」
「・・・・自分がきちんと話せないのを、人のせいにするのか?」
「そういうところですぅ〜〜〜っ!どうして、妹や親友には優しいのに、私には優しくないのですのっ?」
「・・・・・あのな、マリアナ嬢。とにかく、破棄の理由を言ってもらおうか」
「私が聞いているのですっ!質問に答えてくださいませっ!」
「・・・・・・この場で言えと?」
「言ってくださいませっ!」
「ここでか?」
「ここでですっ!」
今までの彼女はここまで強情ではなかった。
というより、こんな内容の会話、公衆の面前でなく、二人きりの場とかでするものとは思うが・・・
「お兄様、さあっ!」
「ほら、きちんと言わないと、マリアナ嬢に愛想を尽かされるぞ」
「ん?んんっ?」
妹と親友が・・・ぐいぐいとええ顔で俺を見ている。
あ。分かったぞ。お前ら・・グルだな?婚約者殿を見ると、顔が真っ赤でぷるぷると腕が震えている。
あーー・・分かった分かった。
俺は婚約者殿の前まで歩いて行き、片膝を折って跪く。
「ああ、仕方がないな。こういう事はどうも照れくさいが・・さあて、マリアナ。婚約破棄をしたいそうだが、取り下げてもらおうか。俺の方は、君を手放す気がないからな」
彼女の手を取り、手の甲に唇を落とす。
ちら、と上目遣いで彼女を見ると、目が合った。おやおや、顔が真っ赤になったぞ?
「どうして・・」
「うん?」
「どうしていつも言ってくださらないのですのっ?」
「そりゃあ・・・」
「レオニード様っ!」
マリアナは両手を握り拳にして、ブンブン振っている。・・・いつもの彼女らしからぬ、子供のような仕草だ。
可愛いじゃないか。まいったな・・
「照れくさいだろう?」
「もったいぶらないでくださいませっ!」
「じゃあ、破棄はどうする?」
「私に優しくない方なんか、いりませんっ!」
・・・・・・・・・。
えーと。
これは・・・断罪なのか?
いや、婚約破棄宣言ではあったんだが・・・公開痴話喧嘩だろう?
なにをしているんだ・・・俺。このグダグダ感は。
「仕方がない、降参だ。俺は君に対して親密さが欠けていた、そういう事なんだろう?」
俺は立ち上がると、彼女を抱き寄せた。公衆の面前で公開処刑か。よし、受けて立とう。
そのまま彼女の唇を塞いで・・・・・5分。濃厚なのを食らうがいい。
唇を離すと、唾液の糸が引くほど。彼女は腕の中でくてんと脱力している。
「レイナ、ニコラス。後でじっくりと話を聞かせてもらうからな」
「おう!お前、やるときはやる男だな!」
何をええ顔で親指立ててグッ!だ。妹も目がキラキラしているな。
「お兄様、素敵でしたわ!」
「お前達を喜ばせるためにしたのではないわ」
周りの客達がざわざわ、女性達はきゃあきゃあ言うのが喧しい。
顔を真っ赤でくてんとした婚約者殿を抱き抱え、俺は今だ騒然とする会場を後にした。
そして理由を聞いたのだが、俺は思った以上に堅物で、婚約者殿を甘やかすことがなかったのだと。
友人や家族には笑い顔を見せるのに、自分には全然笑みを見せなかったのだそうだ。
嫌われているわけではない、そう信じていたが、友人の妹に笑顔で話しているのを見てショックだったと。
ニコラスの妹は、俺とも幼馴染で顔見知りだからな・・・
身内の枠に今だに入れてもらえない、そう思ったら婚約を解消した方がいいのかと、妹に相談したそうで。
「お兄さまに聞いた方がいいですね。そうだわ!二人きりだと言い負かされてしまいます!人前なら兄も体裁を気にするでしょうから!」
だがパーティー・・人前どころか公衆の面前だぞ。人数が多すぎるわ。
妹はこんなじゃじゃ馬だが、ニコラス、妹が婚約者で本当にいいのか?
「やっとレオニードが婚約者殿に愛情を注ぐきっかけを作ってやったんだ、もっとイチャイチャしてやれ」
「ほぅ。お前も妹にイチャイチャしているのか?」
「普通、婚約者同士はイチャイチャするものだぞ?これから長く仲良くしていく気があるならな」
ふむ。父上と母上のように、か?
うん、そうだな。確かに。長い人生、一緒に過ごす気があるなら、照れている場合ではないな。
こうして堅物の俺も、婚約者殿とイチャイチャする事になる訳だ。
「れ、レオニード様、もうその辺で、むぅっ」
「勿体ぶると怒るくせに。大人しく腕の中にいなさい」
「きゃー」
この出来事の所為で、我が国では『断罪』ではなく、婚約者同志が愛を深める『求愛』の儀式と言う流れになった訳だ。
その発端となった俺達だが、実に仲良く過ごしていて、子供も三人目がお腹にいる。
肖りたいとばかりに、『求愛』は諸外国のパーティーでもちらほら行われているそうだ。
あの『断罪』だが、ここ数年やらかす輩はいないようだ。それで良いと思う。
未だに『断罪』を見る機会が無い俺だが・・
まあ、仲良き事は良き事かな。
タイトル右の名前をクリックして、わしの話を読んでみてちょ。
4時間くらい平気でつぶせる量になっていた。ほぼ毎日更新中。笑う。
ほぼ毎日短編を1つ書いてますが、そろそろ忙しくなるかな。随時加筆修正もします。
連載もあります〜。




