1話
人は生まれながらにして平等ではない。そう決めつけている人間がいる。
貴族の生まれだの王族の生まれだのと言って、威張る人間はこの世界には五万といる。
それは魔族も例外ではない。
魔王の側近や上級魔族など、自身の地位を利用して非道の限りを尽くすものがいる。中には下級の魔族に手を差し伸べ、人道的な魔族も存在する。しかし、そんなのはほんの一握りだ。
そんな魔族に、俺は、少なからず嫌悪感を抱いていた。
幼いころから媚を売られ、崇められながら生きてきた。魔王の息子というだけで怒られず、過保護というくらいに手厚く面倒を見られていた。そのおかげで友達など一人もできず、寄ってくるのは、将来俺の側近や上級魔族になろうと地位を求めている者だけで、本当に俺を必要とする者は一人もいない。周りからしてみれば、地位を上げるための道具でしかない自分。一人の魔族としてみてくれる者は、俺の知る限りでは存在しない。
俺は、そんな生活に嫌気がさし、十八歳になったその日に、今まで自分が思ったこと、感じたことなどをすべて父親である魔王に伝えることにした。
「親父……俺、人間の町で暮らすことにする」
「……なぜだ?」
魔王は怒った様子もなく、ただ純粋に気になったようだ。
「今までさ、親父の…魔王の息子ってだけですごい手厚く保護されてたし敬われてた。別に悪いことじゃないけどさ、地位目当てとか親父と近づきたいとかで寄られるとすげぇ迷惑なんだよ。そんな自分のためにしか俺を見てくれない場所にいても、なんも得にならないだろ?だから人間の町で暮らして、友達作って、遊んだりもしたい。立場のせいで友達なんて一人も出来なかったしな」
俺が言い終えた後、親父は曇った表情をした。
まぁ、何を悩んでいるかなんてわかるけどな。
「レスト……お前が望むなら俺は止めん。だがな、人間は俺たち魔族を敵対種と見ている。友達はおろか、お前を殺そうとしてくるかもしれんぞ?…まあ、お前なら大丈夫だと思うが……」
少なくとも、親父は俺の心配などしていない。親父が困っているのは、おそらく魔王の後継者のことだろう。俺以外にも魔王候補者はいるが、俺に勝るものは存在していない。むしろ、親父より俺のほうが強さで言えば上だ。
俺が十六の時、親父と真剣勝負をするこになったことがある。
結果、魔王城がある大陸の三分の一が無に還り、親父に全治二か月の怪我を負わせてしまった。回復魔法を使っても治りが悪く、左腕が動かないという後遺症も残ってしまっている。
対して俺は無傷。服の汚れ以外は、かすり傷さえしなかった。
だから、俺に魔王の座についてもらいたい親父の気持ちは分かる。でも、いざ魔王になったところで、俺には魔族を統一する統率力がない。従者はおろか、友達なんていたこともないし、そもそも他人と会話することさえほとんどなかったのだ。そんな俺が魔王になったところで、他の魔族の反感を買い、反乱がおこるのは目に見えて分かる。
まぁ、従者をつけなかったのは鬱陶しいからだけども。
力で統率しても、それはただの支配だ。力があるから上の地位に立ち、他人を見下す。そんなのは俺が一番嫌う存在だ。自分がそんな存在にならないためにも、俺は魔王になりたくなかった。
だから俺は、魔族の領土を離れ、人間の町で暮らすことを選んだ。
「あぁ、そこは大丈夫だ。魔族と言っても見た目は人間だからな。俺が言わない限りばれたりしないとは思う。名前については偽名で通すつもりだ」
「まあ、そこまで言うなら反対はできんな」
あまり気乗りはしていなさそうだが、こればっかりは譲れない。親父には悪いが俺はもう魔族とは暮らしたくない。
曇った表情の親父をよそに、俺は出ていく準備を進めた。
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