死なずには済んだようです
「見たことない顔だねー。それに見たことない服。使用人さんでも騎士さんでもないのかなぁ......ああ!そういえば召喚がどうのこうのってここの王様が言ってたっけ?もしかして異世界の人?」
少女はこちらに近づいてきてまじまじと見ると思い出したように手をたたいた。それと同時に少女からの気配は無くなり、普通の可愛い少女に戻った。それに伴い息が詰まるような張り詰めた空気も解消され、体が自由に動くようになった。
「う、うん君の言う通り異世界から来た人だよ」
今も目の前の少女を怖いと思っているが、何とか少女の質問に答えた。すると...。
「やっぱりそうだったんだ!さっきはごめんね~、今日は閉館してて寝てたんだけどお兄さんが起こすからついつい殺気出しちゃった」
「殺気......」
少女は俺の背中をバシバシ叩きながら衝撃的なことを言った。寝てるのを起こされて怒るくらいはわかるのだがついついで殺気を出せるものなのだろうか。そして、さっきまでのただならない気配は殺気だったのだ。それは言葉も出なくなるわけだ。
今も少女は無邪気に話しているが、むしろこんな少女が殺気を出していたためまだ怖く思う。
「お兄さんそんなに怖がらないでよ。別にお兄さんを取って食おうとも思ってないから安心して」
「う、うん。大丈夫だよ。安心しているから」
「それじゃあ、お兄さんちょっとこっち来て」
少女にビビっていることがばれてしまい...というか当然ばれるような様子だと自分でもわかっていたが気を遣わせてしまった。申し訳なく思い態度を少し改めた。すると、少女は奥のほうに行き手招きする。
手招きする方についていくと図書館の一室に連れてこられた。
「入って!入って!」
「失礼します」
少女が部屋に案内するので部屋に入る。部屋は恐らくこの少女の部屋だろう。一人で生活するには少しばかり広いだろうが家具は一式ある。さらに特徴的に映るのは部屋に積まれてある本だ。一番高いものでは天井に届く高さにまで積まれている。
「とりあえず座って」
少女はベットの上に座り、俺はそれに対面するように置かれたいすに座る。
「お兄さんって今日の召喚でこっちに来たんだよね。召喚が終わってから大した時間は経ってないと思うけど何していたの?」
「自由時間って言われていたから城内の探索をしてた。行けそうなところ全部に入っていたらここについてしまった」
「そうなんだ、てっきり今日は入れないことを知らないお馬鹿さんが入ってきたかと思ったよ。でも、今日ここに来たらいけないことを知らないならしかたないね~」
ごめんなさい実は知ってました......とは言えず少女に相槌を打つことしかできない。言ってしまったらなんだか機嫌を悪くしそう。
「そういえば、お兄さんに名乗ってなかったね。わたしはステラリア・バルサ、よろしくね。ステラって呼んでねお兄さんの名前は何?」
「俺は大村竜胆。こっちに世界だと姓名が逆だからリンドウ・オオムラが正しいかな。どうか殺さないでね」
「にひひ、大丈夫だよ。さっきも言った通り、お兄さんには危害は加えないから大丈夫」
俺が冗談を含むとステラちゃんは笑ってくれたが、その顔は見た目の年相応で可愛かった。さっきの殺気を出していた少女とは別人に思われる。
......一つになったんだけど名前聞いたのに名前で呼んでくれないのね。
「ねえ、お兄さん時間あるならわたしとお話ししよう?いつも一人で悲しいから、ね?」
「16時までに屋敷に戻らないといけないからそれまでならいいよ」
ステラちゃんは話をしてほしいと誘ってきたがその時の顔には寂しさが見えた。もしかしたら、いつもこの図書館にいてあまり外部と接触せず人と話すことがないのかもしれない。俺はそんな顔を見てしまい承諾せざるを得なかった。
☆☆☆☆☆
どのくらい話したがわからなかったがステラちゃんには元の世界のことを聞かれた。科学や乗り物のことについて話すと喜んでくれた。さらにバイクがこの世界に来ていることを話すと、今度乗せてほしいといわれたので二人でどこかに走りにいかないといけない。
ステラちゃんに色々聞かれた一方でステラちゃんにもいろいろこの世界に聞いた。しかしおおよそ初めに国王が俺たちに話したことと変わらなかった。だが、この世界の科学の状況や文化の水準を知ることができた。科学は生活に関係するものではやや高い水準にあるようだ。幸いだが軍事などに関する技術は銃火器はないようだ。そして、科学技術に関しては今まで世界であった召喚できた勇者たちによるものだ。文化の水準は国によりまちまちだが、この国に関しては王制ながら低くはない。
そして、この世界には魔法があり生活の根幹に大きくかかわっている。家事を行うにしても魔法で一部をすることができるようだ。さらには魔獣と呼ばれる動物がいる、いわゆる元の世界で言うところのファンタジーな世界だ。
話を聞いてる中で驚きが多かったが一番驚いたのはステラちゃんが人間じゃなかったことだ。なんとこれまたファンタジーよろしく精霊であった。しかも人型になることができる上級の精霊だ。だから、危険な書物も集まった王城の図書館の司書兼守護を行っているそうだ。
それを聞いて敬語で話そうとしたところステラちゃんに止められた。
「―――もう時間だね、ステラちゃんそろそろ戻らないといけないからごめんね」
「お兄さん待って!」
「どうしたの?戻らないといけないんだけど......」
「お兄さん、大きなバッグ持ってるじゃん...だからわたしを入れて一緒に行こう?わたし精霊だから小さくなってるから」
どうやらステラちゃんはここから出たいようだが、出していいのだろうか。ここの守護をしていると聞いているから出してはいけないような気がするが......。
「ステラちゃんここから出ていいの?ここの守護してるって言ってたけど......」
「うん!大丈夫だよ今日は休館してるし、結界も張っているから。だから連れて行って?」
ステラちゃんの上目使いの攻撃。リンドウは精神に痛恨の一撃(いい方向に)をくらった!!!リンドウはステラちゃんを連れて行きたくなった。
頭の中にこんなアナウンスが響いたような気がする。だが、可愛いロリの上目使いは精神に効いた。まあ、本人が安全だと言っているならいいか。
「じゃあ、リュックの中で静かにしてるならいいよ」
「わあ~ありがとう!じゃあバッグに入るね」
俺が入っていいというとステラちゃんは光の玉のようなものに変身しリュックの中に入った。やっぱり精霊とか人外だからへんしんできるのかな?
『じゃあ、行こう!』
「え!?頭の中に直接!?」
『この形態になると頭に直接話しかけるようになるんだ。そんなことはいいから早く行こう』
ステラちゃんはどうやらこの形態になると頭の中に直接話しかけるようになるらしい。俺が混乱していると催促された。何はともあれ時間も時間だし屋敷に戻るか。
☆☆☆☆☆
屋敷に戻り、自分の部屋に入った。するとステラちゃんはリュックから飛び出し再び人型に戻った。
「お兄さんアカリン持ってたんだね。お兄さんが移動するときにつぶされそうになったよ」
「ごめんね、入れてるの忘れてた」
ステラちゃんはアカリン......つまり厨房でもらったリンゴにつぶされそうになったとぼやく。俺も完全に忘れていたがあの大きさになったら確かにアカリンは脅威かもしれない。これは反省しなくてはいけないな。
トントントン
部屋のドアがノックされた。腕時計を見るとこっちの時間でいう16時になっていた。おそらく、使用人さんだろう。
「どうぞ」
「失礼します」
一人のメイドさんが入ってきた。手には一枚の石板を持っていた。
「リンドウ様でよろしいでしょうか?今からリンドウ様にはステータスを計ってもらいます」
「ステータスですか?」
なぜ名前を知っているのかという疑問もあるが、今からどうやらステータスを計測するらしい。まるでRPGのようだ。ステラちゃんに殺気を受けそれにより走馬灯を見たためこれは現実世界だと思うが、召喚だのステータスだのと言われるとゲームなのではないかと勘違いしそうだ。そのように考えているとメイドさんが石板を俺の目の前に差し出してきた。
「それではリンドウ様お手をこちらの石板にかざしてください」
そして俺は石板に手をかざした。