自己紹介をしちゃいます
俺たちは執事さんに案内されながらバイクを押し屋敷の倉庫に到着した。途中階段やそのほかの段差などはそのたびにメイドさんや他の執事さんに木の板を用意してもらい即席のスロープを作ってもらった。屋敷は現在いる王城を囲む城壁内にあるのだが一度城外に出て城壁に沿い、城の裏側まで回ったところにあるため到着するまでにそこそこの時間がかかった。本来であればさっさとエンジンをつけて乗っていきたいが、場所が分からないので重いバイクを頑張って押していく必要があった。
途中で紫苑と会話をしていたため少しは気が楽であり、会話の中でお姫様の名前を教えてもらった。名前はリコット・ロータス・アルスフェルと言いこの国の第二王女のようだ。そして、なぜこいつが第二王女の名前を知っているかというとどうやらボーっと考え事をしていた際に男子高校生と紫苑に接触したようだ。......少しだけだがうらやましい。
「それではこちらの倉庫のどこでもいいのでそちらの馬をお置きになってください」
「ありがとうございます」
「それではわたくしはこちらでお待ちしています」
執事さんは倉庫の扉を開けてなかにバイクを置くように言った。倉庫は木造で新造されてすぐなのか特に何も置いてなくきれいな状態だ。中はなかなかの広さがあり、俺はお礼を言いバイクを端のほうに置きキーを抜いた。紫苑もその隣にバイクを並べて置いた。
「しばらく乗れそうに無いな~、ガソリンも少ないし」
「仕方ない、ただこの世界にガソリンやオイルが無いとは限らんだろ。それに紫苑はある程度バイクの知識も豊富だし、整備もできるやろ?だからその時までは待っておこう。それに今はこの世界に順応することが一番大事なはずだから」
「う~ん...それもそうか、じゃあ行くか竜胆」
バイクを置いた後少しばかり紫苑と会話をした後、外で待っている執事さんのところに戻った。
その後俺たちは執事さんに案内されて隣の屋敷に入った。屋敷はこちらも新築でありきれいであり、なかなかの豪邸であった。正面の扉を開けて中に入ると広いロビーがあり、俺たちはその奥のリビングに案内された。そこでは先にここに来ていた7人がテーブルを囲むように座っていたが誰も会話をせず、ある一名を除き重い空気が漂っていた。いきなりこんなところに連れてこられたらそんなことになるよなぁ......俺は別に元の世界に未練はあまりないし、この世界で生き抜いていく方法を考えなければならないと考えているからあまりネガティブにはなっていない。というよりはネガティブにならないよに気を付けている。ネガティブな考えを持っても前には進めない。
「それでは皆さん、こちらが皆さんが生活していただくお屋敷になります。皆様には専属のメイドもしくは執事を一人つかせます。何か困ったことがございましたら彼らに申し上げて下さい。ですが、本日は予想外の事態が起き、メイドたちの編成を組みなおすことになりましたので到着は夕方までお待ちください。それでは今から16時までは自由時間になります。こちらのお屋敷及び城内では図書館を除いてどちらを回られても自由であります。ですが、絶対に城外や図書館には侵入なさいませんようにお願いします。もし、城内内で迷われた際は近くのメイドや執事、近衛騎士たちに尋ねると良いでしょう。それと部屋で休まれたい方は寝室が二階に用意されていますのでお好きな部屋を話し合いそれぞれの部屋を決めておいてください。それではわたくしは失礼させていただきます」
執事さんは一通り説明を行うとこの部屋から出て行った。......ちょっとこの部屋の雰囲気をどうにかしてほしいんですけど。......さてどうしようか、こちらに来てから成り行きでここまで来たわけだが一応ここにいるメンバーとは協力しなければいけない関係なわけだよな?
壁にかけてある元の世界と変わりのない壁掛け時計を見ると今の時刻は13時だ。そして今からは執事さんが言われた通り自由時間になり、全員がばらばらになる。その前にはコミュニケーションを取り部屋決めはしておいたがいいよな?
柄ではないが動くか......。
「えーっと、わけわからないところに飛ばされてきてみんな困惑していると思うけど......自己紹介と部屋決めだけしないかい?」
俺に注目が集まる。そして誰も何も言わない......困ったもんだ。どうしよか悩んでいると紫苑が反応してくれた。できればすぐに反応してほしかった......。
「......そうだな、俺も竜胆...こいつが言う通り自己紹介と部屋決めはしたほうがいいと思う。ちなみに俺は赤星紫苑、大学生だった?っていうのが正しいかな?よろしく!!」
「俺は紫苑の友達の大村竜胆だ。紫苑と同じく大学生だった。よろしく」
「はいはい!じゃあ次はオレね。俺は水島大輔って言います、高校二年生でした。よろしくお願いします、先輩!」
「おう、よろしくな!大輔」
紫苑から自己紹介をはじめ、その次に俺がした。それに続き男子高校生の大輔君がする。そして、紫苑と大輔君はなぜか握手をした。
改めて大輔君を見ているとスポーツ万能の少年といった印象だ。
「じゃあ、次はあたしの番ね。あたしは相田茜よ、そこの馬鹿の大輔とは一応幼馴染よ。ただそれ以上でもそれ以下でもないわ」
「わ、わたしは、相良桜って言います......よ、よろしくお願いします」
大輔君の後に自己紹介したのは女子高生の二人だった。一人目の茜さんは凛とした女性といった雰囲気であった。一方で桜さんはおどおどとした様子の女の子という雰囲気を受けた。人見知りなのかもしれない。彼女に接するときは気を付ける必要があるかもしれない。
「次は私達ね。私は松原朱華」
「私は松原若葉。見てのとおり双子です。見分け方は姉の朱華のほうが少しだけ身長が高いので見分けるのは難しいと思いますがよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
次に自己紹介したのは女子中学生の双子の二人だ。双子ということもあり見分けがつかない。せめて髪形や服装などの一見してわかる見た目を変えてくれるとわかりやすいのだが、さすがは双子そこら辺の趣味も変わらないのだろう。唯一の見分け方として姉の朱華さんのほうがほんの少しだけ身長が高いらしいが全くもってわからない。さらに二人とも不思議な雰囲気を醸し出している。慣れてくれば見分けがつくようになるかもしれないがそれまでは気を付けなければ。
後、終わってないのは女子小学生の二人だが、一番動揺というかショックを受けている様子だ。見た目高学年に見えるが、精神の状態も体の状態も一番幼いわけだから一番状態が悪くなるのは仕方ない。だが、放置するわけにもいかない。かといってい誰もこの二人にアクションを起こそうとせずまだかな?と二人を見ている。......薄情な奴らだことよ。
俺は頭をかきつつ対極の位置に座る二人のところに行き、二人のそばにしゃがんだ。
「いきなりこんなところに連れてこられて大変だと思うけど、名前教えてくれるかな?」
俺はできる限り優しい感じを出して話しかけた。
「......わたしは、玉野一美よろ、しくお願いします」
「......一美ちゃんね、よろしく!」
まずは、可愛らしい服を着ていた一美ちゃんが何とか挨拶をしてくれた。
「それじゃあ、君はなんていうの?」
「......僕は、八谷十花」
「「僕~?」」
「(ギロッ)」
「「ひぃ、ごめんなさい」」
最後の自己紹介はボーイッシュな見た目の十花ちゃんだった。そして見た目に反さず一人称は僕であった。いわゆる僕っ子というやつだろう。そして普通であればなかなか会うことなどない僕っ子に反応してあほのオス二人が茶化すように「僕~?」などというから、とっさに二人を睨んだがやはり馬鹿にされ心に来るものがあったのか十花ちゃんは目に涙を浮かべ始めた。おそらく、今まで周りにいい人ばかりだったのか、馬鹿にされたのは初めてだったのだろう。
「確かに女の子で自分ことを僕って人は少ないと思うけど、俺はいいと思うし逆に女の子で僕っていうのは可愛いんじゃないんかな。だからあんなデリカシーのない二人の言うことは気にしなくてもいいと思うよ。あと、あいつらは後で指導しとくから」
「そうよ、あんな奴らの言うことなんて気にしなくていいわ。だ、だから馬鹿な男たちはおいてこ、今夜......」
「わ、わたしも気にしないでいいと思います!」
俺が何とかフォローをするとそれに乗じて茜さんがフォローしてくれた。ただ、少し違うような雰囲気を出していたが......。そして、その雰囲気に気づいたのか桜さんが茜さんを押しのけてフォローをしてくれた。てか、桜さんそのくらいの声が出るならさっきの自己紹介の時もう少し大きな声で言ってくれたらよかったのに...正直、部屋や外が静かだから聞こえたがうるさかったら聞こえなかったぞ。
「ふふふっ、お兄さん、お姉さんありがとう。僕はもう気にしてないから大丈夫だよ」
どうにかフォローは通じたのか十花ちゃんは瞳からこぼれそうな涙を拭き笑ってくれた。
とにかく全員の自己紹介が終わった。そうなると荷物を置く必要とかもあるため部屋決めもしなくてはならない。
ぱんっ!!
「じゃあ、部屋決めするか」
紫苑が手を一つ叩いた。そして、紫苑の提案により部屋を決めるために二階に移動した。