台風一過の朝
台風明けの朝、むさししんじょう駅、そこには絶望にまみれた少女が佇んでいた。
「大行列ッ……」
「どうしよう…… 台風のあとは駅構内に人気のラーメン屋が出没する傾向でもあるのかぁ……」
今日から学校の授業が始まると早めに家を出たもののそこには改札口を通るために律儀にならぶ大勢のサラリーマン戦士の姿があった。
台風明けの朝、お天気は快晴であるものの、電車は間引き運転。
30分に1本の大晦日深夜運転レベルのダイヤを発動、事実上交通の便は亡くなっているも同然だった。
「うぅ…… おとなしく並んでいたら絶対に授業に間に合わないよぉ、学校からも何の連絡も来てないってことは通常通り授業をするということ!」
『電車、混雑と社内異物処理作業の為運転を見合わせます!!』
「おいおい」
「どういうことよ!?」
「うわぁ、お稲荷ながぬま駅ででかいの漏らした奴とそれの影響で気持ち悪くなって戻した奴いるのかよぉ、ありえねー」
ゆいの耳に届く阿鼻叫喚の数々。
「これは…… 大ピンチ、諸君らが愛してくれた南部線は死んだ! 何故だ!?」
この日台風明けによる間引きダイヤと常時すし詰め状態、始発駅以外から乗車することは事実上不可能となった上に車内トラブル、カワサキの要、南部線は死んだのだった……
「どうにかして通学の方法を考えなければ、バスは方向が違う、走るのは無理……」
「はっ!? 自転車、そうだ里の湯の裏側に自転車ラック取り付け工事の確認用に置いてある自転車、あれを使えば行ける!」
ゆいは里の湯まで走った。
そして里の湯から自転車で走った、ヨコハマの方にある学校に登校するために。
新学期、初日から欠席などという体たらくを見せつけないために。
「ぜぇぜぇはぁはぁ…… 何でぇ、ヨコハマはっ、山ッ」
「何なのこの山アンド山は、山浜って名前の方が良いんじゃないの!?」
そう、ヨコハマは栄えているヨコハマ駅や楓木町、ミナトミライ周辺などは海沿いのおしゃれなイメージを誰もが持っていると思われるが、基本的には山、山、そして山というエリアなのだ。
ヒルクライムを繰り返し必死にペダルを回し続けたゆい。
新学期、1回目の授業を何が何でも受講するという必死の想いで。
……
「あれ、なんで誰もいないの? 台風明けだから皆サボり?」
息を切らしながら、死闘の末にようやくたどり着いた学校。
しかしそこには警備員と思われる人を除いて人影は無かった。
「まさか休校のお知らせが来てたの? でもメール届いていないし」
「もしもし、どうしたんだいお嬢ちゃん?」
「警備員さん、今日って授業休校になったんですか?」
「何言ってんだい? 新学期は来週からだよ」
「……」
新学期は来週からだった。
だから休校のお知らせメールなど届くはずもなく、台風明けの日にわざわざ学校にくる変わり者もいなかったのであった。
「さて、帰りましょうかねー」
ゆいの前には漕いできた自転車と、無数に立ちはだかる数々の山が目に映るのであった。
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