一番目の男の子 3
十歳の時にアルチナに拾われたニックは、セルディに言われた一言が原因で、セルディには近付かないようにしていた。
セルディが苦手というのもあったが、セルディが子供嫌いならば、子供の自分はなるべく関わらないようにしようと決めたからだ。
────それから五年も経ち、ニックは十五歳となった。
「アルチナ様、今日もお出掛けになるのですか?」
「えぇ。そうよ。何せ〈生贄の子供〉が来ているんだもの。子供は可愛いけれど、生贄はいらないのよ~」
アルチナは子供好きではあったが、人間を食べるようなことはせず、生贄になった子は別の場所に逃がしていたのだ。
「良い魔女なのか、悪い魔女なのか……よく分かりませんね」
ニックがアルチナの髪を櫛でとかしながら呟くと、アルチナが「あら?良い魔女は子供限定よ」と話を続ける。
「結構前に、魔女が本当にいるかどうか?ってことで、森に入って来た若者達がいたけれど、魔女探しだけじゃあ飽き足らず、森の中まで荒らすもんだから狼の餌にしてやったわ」
────────これが、帰って来なかった人間の若者達の真相であり結末だ。
話によると、かつて街で起きた〈奇怪な事件〉も、アルチナのせいだと言う。
「生贄はいらないけど、生贄にされる子達は大抵貧しい子なのよねー。だから、森で生贄の子供に会って、こんな国から逃げさせる事が出来るのは良かったわ。まぁ、生贄にされるのは私のせいだから申し訳ないけど、この森から出る気はないわよ?この場所気に入ってるし」
満面の笑みを浮かべるアルチナに対し、ニックは「それは良かったです」と苦笑いしながらアルチナの髪を結ぶ。
「それじゃあ、行ってくるわね。セルディの部屋も掃除宜しく」
セルディの名前が出た瞬間、ニックの表情が少し曇る。
だが、ニックはパッと笑みを浮かべ、「……分かりました。行ってらっしゃいませ」と玄関までアルチナを見送った。
「……家事、やらないとな」
ニックは今ではアルチナの周りのことや、家の掃除もこなすようになり、完全にアルチナの世話係……否、執事化していた。
ニックは黙々と家事を始め、何度かセルディの部屋の前を通り過ぎる。
セルディの部屋のドアは基本的に閉じられており、中を見ることは出来ない上、ニック自身見るつもりもない。
けれども、掃除をする為には中に入らなければ行けない。
普段ならば、セルディの部屋はセルディが寝ている朝か昼間に掃除をしていたのだが、今日は珍しくセルディが起きている。
セルディが寝るか、散歩に行くかを待てば夜になってしまう。
「……魔女様、入りますよ」
気は乗らないが、ニックは軽くノックをしてドアを開ける。セルディは背中を向けたまま黙々と絵を描き進めていた。
その様子を、部屋の掃除をしながらニックは後ろから見ていた。
(前から思ってたけど、絵上手だよなぁ)
五年前の初対面以来、ニックとセルディは互いに話をすることはなく、ほとんどアルチナが間に入って話をしていた。
アルチナが居ない間は会話自体しないので、ついこの間とうとうアルチナから「コミュニケーションは大事よ!」と注意を受けてしまった。
とはいえ、一緒に暮らしていながらもセルディと会話をしたことないニックはどう声を掛ければいいのか分からなかった。
(アルチナ様から人間とのハーフとは聞いていたけれど……魔女って言われないと本当に分からないよな)
ニックは手を動かしながらも、チラッと横目でセルディの背中を見つめる。
セルディは振り返ることなく絵を描き続け、ニックは掃除が終わると、口を開くことなくセルディの部屋から出て行ってしまった。