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星空教室  作者: 瓜
6/6

星空

 あの後、図書館を出て、二人はとある教室に来ていた。


「壁、丸々抜けちゃってるね」

「そうだね。眺めが良さそうでいいじゃない」


 二人は、悪戯っぽく笑い合う。


 その教室は、丁度、窓がある側の壁が崩落していた。

 遮るものがない教室の外には、文明時代には見る事が出来なかったであろう、両手で掬い取れそうなほどの星空と、風にそよぐ変異植物達の姿が見えた。


「綺麗だね」

「うん」


「…あのままシェルターにいたら、一生見る事はなかったかもな」


 ぽつり、とリズは呟く。実感の篭った声だった。


「あぁ…」

「私、君とこの景色を見られて、幸せだよ」


 それから、彼女はイヴァンの方を見て微笑む。

 イヴァンも、つられるようにして言葉を紡ぐ。


「……………。」

「私も…」


 二人は、教室の床の縁に座り、そっと手を繋ぐ。

 気恥ずかしくて俯くと、涼やかな風が頬を撫でた。


 空は瑠璃色に冴え渡り、白銀の月が二人を照らしている。

 彼女達の背後の床に、寄り添う二つの影が伸びる。


「静かだね」

「うん。私達しかいないみたいだ」


 周囲に、他の動物の気配はない。紛れもない、二人だけの世界だった。

 時折、ざわざわと葉擦れの音はするが、それも彼女達にとっては心地良かった。


「今度は、さ。何処に行こうか?」


 イヴァンは、静かに尋ねる。


「…うん。何処でもいいよ。君となら」


 リズは、ぼそりと答える。

 それから、僅かに零してしまった本音に、彼女は赤面した。


「ん、じゃあさ、ポリネシアの辺りとか行こうよ」

「パキタみたいなさ、褐色人種の人達の謎を解きに行こう」


 イヴァンは、楽しそうに笑う。

 彼女の菫色の瞳は、夜空に散った星屑を映して、星雲のように輝いている。


「ポリネシアかぁ。随分遠いね」

「でも、それもいいかも」


 リズは、何処か遠くを見ながら呟く。

 月影が、彼女の顔をしらしらと照らしていた。


「ね、じゃあ、早速行こう」


 イヴァンは、身を乗り出してリズに笑いかける。


「今からかい?」

「うん。それとも、今日はもう疲れちゃった?」


「そんな事はないけど…」


 リズは苦笑する。

 イヴァンは、普段はのんびりしてる癖、妙に行動力があるのだ。

 そして、その行動力に、リズは何度となく助けられてきた。


 彼女は暫し逡巡し、答える。


「まあ、いいか。じゃあ行こう、イヴァン」

「ふふ、そうこなくっちゃ」


 そうして二人は立ち上がる。

 イヴァンが手を叩くと、何気なく階下で蠢いていた植物達が、一斉に彼女達の足元に向け、蔓や茎を伸ばし始める。

 やがて、植物が足場を作ると、それにリズが飛び乗り、イヴァンに手を差し出す。

 そして二人は手を取り合って、ゆっくりと夜闇に消えていく。


 余韻も何もあったものではないが、これが彼女達の愛する日常なのだ。

これにて完結です。

ここまで読んで頂き、有難う御座いました。

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