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17話 友達第一号

「五条、椿……」



 スクリーンに映し出される五条財閥前会長のビデオメッセージを口を開けてぽかんと眺めている彼女の姿を見た時、三葉は今まで断片的にしか覚えていなかった前世の記憶を、全て思い出した。

 それは、いままで三葉の頭の中で延々と渦巻いていた霧のようなモヤモヤを全て取り払った。


 そうか、私は転生したのか。おそらく、ゲームの中の世界に。

 生来の性格のせいか不思議とそのことに対する混乱はなかったのだが、問題は情報量の多さだった。

 


 五条椿、三鷹鷹臣……長篠三葉!!


 洪水のように流れ込んできた情報の波に、三葉は顔を顰めた。

 そしてその中には、確かに目の前の彼女……五条椿の情報があったのだ。


 乙女ゲームの、悪役令嬢として。

 長篠三葉と同じ立場のキャラクターとしての、五条椿の情報の全てが。


 そうだ、確かにこのパーティは五条椿の誕生日を祝うものだった。それは事前に聞いていたはずなのに、どうして今になって一気に思い出すことが出来たのだろう。

 いや、先程までも違和感は確かに感じていた。にこやかに挨拶回りをする彼女に何故だか底知れない違和感と恐ろしさを感じて、親から離れていたのだ。


 それは、記憶の中の彼女と目の前にいる彼女とではあまりにも印象が違いすぎたせいだろう。

 ふわふわとした違和感がハッキリとしたものになった。


 あれが、あの、五条椿だって?


 にわかには信じ難かった。

 間抜けな顔で口を半分開けて上を見る彼女が、どうしてもあの悪女と重ならなかったからだ。

 性善説というものがあるが、ゲームの中の椿は幼少期から悪そのものであったはずだ。

 かと言って性悪説のように周りからの影響を受け善へと変わっていくわけでもなし。

 我儘で、傲慢で、自己中心的。

 どういう育て方をしたのかと疑いたくなるほどだった。

 ライバルキャラがいかにもな悪役然としている方が、ヒロインの魅力や断罪する際の「ざまぁwww」感が際立つというものだが、椿の扱いはあまりにも酷かった。


 主に三鷹鷹臣の幼少期の回想や、兄である五条楓の独白で語られた椿だったが、まさに悪役令嬢になるべくして生まれたかのような少女だった。いや、事実悪役令嬢として生まれたのだが。


 しかし、目の前の彼女はどうだろう?


 ついつい品定めするように彼女凝視していると、こちらに気がついたようだった。

 

 三葉は気になって、とうとう声をかけてしまった。


 水面に小石が落ちるような一瞬の間があり、「え、ええ……と」絞り出すように椿は口を開いた。


 不意に名前を呼ばれた椿はしばらく目を丸くして固まっていたが、その目からはやはり邪気を感じることは出来なかった。

 だがそのことから、あるひとつの仮説が浮かび上がった。

 以前までの三葉なら鼻で笑っていただろうが、実体験を経た今となってはむしろ”それ”が一番現実味があるのではないかと思われた。



「悪役令嬢無理心中ノーマルエンドって聞いて、心当たりある?」


「大有りだわ」



 その後のお互いの固い握手にて、その考えは確かなものとなった。

 


 五条椿は……いや。

 五条椿も、転生者だったのだ。



──────────



 それから、三葉は頻繁に彼女と会い、語り合うようになった。

 どうやら前世での世代や境遇にも似たところがあるらしく、それはもう盛り上がった。

 なにせこちらの世界に来てからというもの、他人と話していて盛り上がるなんてことは無かったのだから。


 それについては今となってははっきりとわかるのだが、きっとそれは他人が三葉に対して語りかける内容が、三葉本人の中身と差がありすぎたためだ。

 もうすぐ三十路の女が四歳児への対応をされても面白いはずがないだろう。


 その点椿とは共通の話題も多いことから、自然と盛り上がるのだ。


 だが、お互いに前世の名前は伝えない。

 前世のことはあくまで思い出として語るに留めておくためだ。

 互いに今は「五条椿」と「長篠三葉」として生きているのだから、前世に囚われすぎるのも良くないだろう。

 

 そう、三葉は早々に割り切っていた。こういう時は、自分のサバサバした性格を好ましく思う。


 だが、時々椿は暗い表情を見せる。

 それは、ゲームの設定やシナリオを思わせる出来事があった時だ。

 三葉と違って、「五条椿」というキャラクターはあまりにも報われない。

 恐らく本人も、シナリオ通りの結末になることを危惧しているのだろう。

 話を聞く限り出来うる全ての手は打つつもりらしいが、やはり不安は拭いきれないらしい。


 仕方がない、ここで出会ったのも何かの縁だ。

 

 私は、彼女を支えていこう……そう、三葉は決心したのだった。



「椿」


「ん?なに??」



 椿は、夕陽の眩しさに目をすがめながらこたえた。

 彼女の部屋でお茶を飲んでいた三葉が不意に彼女の名前を呼んだのは、ちょうど窓の方向で、半分開けたカーテンの隙間からオレンジ色の光が差し込み始めた頃だった。



 椿は、三葉の前でだけ砕けた口調になる。

 普段は立派な令嬢を演じている彼女だが、どうやら気が緩むらしい。きっと、これが彼女の素なのだろう。

 そのことが、すこし嬉しかった。



「私、アンタのこと応援してるからね。何かあったら遠慮なく頼りにしていいのよ?」


「え、なに急に。怖いんだけど」



 真顔で後ずさる椿に三葉は苦笑いを零しながら、続けた。




「アンタと私は、友達だからね」




 今世での友達第一号は、三葉の言葉にくしゃりと顔をゆがめて笑った。


長らく間を開けてしまって申し訳訳ありませんでした汗

長篠三葉視点、これで終わりです。

次回からは新展開になる予定ですので、更新を待っていてくださると嬉しいです´`*

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