16話 長篠三葉
大手自動車メーカーの代表取締役社長の孫娘として生まれた長篠三葉は、この世に生まれ落ちた時、泣かなかった。
教えられなくても知っている言葉、頭の中にふっと直ぐに浮かんでくるものの名前、家庭教師の先生が教えてくれる退屈なお勉強。
三葉が知らないことはほとんどなかった。
出来なかったのは身体の動かし方だけだが、それでも同じような年の子と比べると段違いに早い段階で、三葉は立ち上がり歩いていた。
天才だ、神童だと周りから誉めそやされても、子供らしくそれを喜ぶことはなかった。
ぼんやりとした瞳で、それを眺めるだけ。
両親に褒められて嬉しいはずなのに、大して喜ばないどころか、むしろ小馬鹿にされているような感覚さえ覚えていたのだ。
だってこんなもの、知らない方がおかしい。
なんでみんな、しらないの?
しかし、どうしてそれらを教えられる前から理解出来ていたのかまではわかっていなかった。
今思えば、この頃からぼんやりと前世の記憶を持っていたのだろう。
その朧気な記憶がハッキリとしたものに変わったのは、五条財閥令嬢の誕生日パーティーへ赴いた時だった。
「五条、椿……」
少し週末忙しいため、次話に続く三葉視点の前準備のような扱いになります汗
短くて本当に申し訳ないです