13話 少女漫画?いえ、乙女ゲームです
「お礼はまた後日、改めて」
この言葉は一種の社交辞令なのだろうと捉えていた椿は、五条家にある日届けられたドレスに靴、アクセサリーといった類のプレゼントに、大いに困惑していた。
それらが送り届けられたその日、偶然その場にいた三葉には「アンタ、新手の送り付け詐欺にでもあったの……?」と真顔で心配された。
送り人の名前は、”ルイス・テレスティーノ”。知らない名前だが、心当たりが無きにしも非ず。
そう、先日の誕生日パーティーで出会った天使のようなイタリア人(推定)の男の子だ。
建物内で迷子になっていたところを見つけ、親御さんの所まで案内してあげたのだ。
彼は確か、「ルイ」と呼ばれていた。
その時、親御さんから言われたのは、「お礼はまた後日、改めて」。
まさかドレスが送られてくるだなんて、誰が予想しただろうか。
だが同時に、ただの迷子の案内でここまでするものかと訝しんだものだ。
子供の道案内のお礼なんて、せいぜい飴ちゃん一個だろう。
「なに、詳しく教えなさいよ」
三葉がにやにやと擦り寄ってきた。この顔みたことあるぞ。前世で近所だった噂好きの熟女、竹田さんそっくりだ。
「それがさ……」
──────────
「迷子だったショタを助けたらキスされた!?え、なにそれ少女漫画かよ!!」
乙女ゲームだよ。
「ていうか、キスっていっても手の甲だし!ほら、あれ……漫画とかでよく見るやつ」
「へえ、それでこの大量のプレゼントねぇ。いいんじゃないの?有難くもらっときなさいよ」
「でもこんな高そうな……」
送られてきたものはどれも高そうで、普通の子供服とはおそらくゼロの数が二個も三個も違うだろう。
椿も転生してからというものその位の値段のものを着てはいるのだか、未だに慣れない。
前世はし〇むらやユニ〇ロを愛用していた椿に、いきなりドレスなんてものを着せるのがそもそも間違っているのだ。これじゃあ木登りなんて出来たものじゃない。
椿は機能性重視の女なのだ。
「それにしても、自社製品をこんなに大量に贈るなんて、さすがテレスティーノね。しかもこれ、発表前の新作じゃない?」
「どういうこと?自社製品って?」
首を傾げて聞き返すと、三葉は目を丸くして椿に詰め寄った。
「椿、知らないの!? テレスティーノっていえば、イタリアの世界的に有名なファッションブランドじゃない!!」
「そ、そうなの……」
三葉の勢いにたじろぎながら、椿はそう言葉を絞り出した。まったくわからん。
「ええ、上流階級の女性が揃って贔屓にしてるわ。ママもこの間、新作のバッグが届いてとっても嬉しそうにしてたもの」
聞くに、テレスティーノブランドというのは知らない人はほとんどいない程に有名なのだとか。
普段着からウェディングドレス、果てはスポーツウェアまで幅広く手がけているブランドで、近年では建築物のデザイン分野でも高い評価を受けているらしい。が、まったくわからん。
三葉曰く、椿はファッションに疎すぎるのだそうだ。ついでに巻き髪もダサい、時代遅れだと軽く罵倒された。
ファッションに疎いのは前世からのことだし、この巻き髪に関しても、周りの反応はいまひとつパッとしない。
薄々そうなのではないだろうかと気付いてもいたが、面と向かって言われるのはやはり釈然としないものだ。
私は父譲りの赤毛の巻き髪がいかに素晴らしいかを延々と三葉に語って聞かせたのだが、「へーん」「はぁーん」と優雅に紅茶を飲みながら聞き流され、しまいには話題が逸れたと怒られてしまった。
「そもそも、ファッション以前に椿なら当然知っているものだと思ってたわ。だって……」
と、三葉の言葉を遮るようにして、自室のドアがコンコンと子気味のいい音を立ててノックされた。
「どうぞ」と声をかけると、そこに居たのはメイドの初瀬さん(凛とした雰囲気の若い女性)だった。
「お嬢様、ルイス・テレスティーノという方がお見えになっているのですが、いかが致しましょう?お嬢様に会いたいと仰られてまして……」
ガタッ
その言葉を聞き、椿と三葉が同時に席を立つのには一秒とかからなかった。
少し短いですが、一区切りということで
次に続きます