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10話 人類補完計画(ではない)

 長篠三葉が五条家に来た。

 今日は、彼女の母親も一緒だった。



「まあ!長篠様、ようこそいらっしゃいました!」



 笑顔で出迎える母、夏目の横で、椿は小さく三葉とアイコンタクトを取った。

 今日は、記念すべき第一回作戦会議の日だ。


 それにしても、三葉の母親は絶世の美女と言っても過言ではないほど、美しい人だった。

 三葉によく似た銀色の美しい髪と、青い瞳を持っており、顔立ちもハッキリとしている。

 北欧系のハーフだろうか。

 ゲームのキャラクターとしての三葉も、まるで北欧神話の妖精のような可愛さだった。

しかし中身が違えばやはりイメージも変わるのか、今ではシベリアンハスキーの子犬を思わせる。

 親子揃っての顔面偏差値の高さは、流石乙女ゲームと思わずにはいられなかった。

 

 あの後母親同士も仲良くなったらしく、二人はリビングに行くと、早速話し込んでいる。

 その隙に、「お姫様ごっこしましょう!」「いいですわね!」という小芝居までして、二人は椿の部屋へ赴いた。

 母親同士はお茶会、子供同士は遊びに、という名目だった。


 そう、名目。

 



「……で? 作戦会議するんでしょ、早く始めましょうよ」


「作戦会議ってほど大層なものでは……あるな。ミスれば死亡エンドだわ」



 碇〇ンドウポーズで向かい合う幼女二人。

 その会話の内容と相まって、女の子らしい部屋の内装に似合わない、実に異様な光景だった。

 椿は、今日の作戦会議の主旨と、予め考えておいた破滅回避のための計画をざっくりと三葉に伝えた。



「……なるほど。つまり、椿はヒロインを他のライバルキャラに押し付けたかった、と」



 ジト目を向けてくる三葉から目を逸らし、バツが悪そうに唇を尖らせる椿。

 そう、つまりはそういうことなのだ。

 舞恋において、ライバルキャラで死亡、または破滅する未来があるのは五条椿だけだ。

 他の二人のライバルキャラは、攻略対象者がどちらに転ぼうが、破滅はおろか死亡する未来はない。

 ならば、ライバルキャラに協力してもらい極力安全な道を、というのが椿の考えだった。



「も、申し訳ないとは思ってるんだけどさ……。それしか思い浮かばなかったんだよ……」



 三葉は呆れた顔で椿をまっすぐと見つめた。



「ていうかそもそも、ヒロインを虐めなきゃいい話じゃないの? アンタ、そんなつもり毛頭ないでしょ?」


「それはもう前に考えた。けど、回避対策は万全な方が良いかなって」



 濡れ衣を着せられないとも限らないしね、と椿は苦笑いしながら答えた。



「別に協力するのはいいんだけどさあ……」


「えっ、ほんと!?」



 椿は救われたとばかりに顔を輝かせた。



「ただね、結局は恋心なんて私たちがどうこうして上手く誘導できるようなものじゃないわけじゃん? そこだよ、難しいのは」



 ヒロインである赤坂誉がどんな人物にせよ、誰を好きになるかは彼女自身しか決められない。

 三葉が言いたいのはそういう事だった。



「やっぱり、破滅……」



 表情が一転して暗くなる。

 それを考えるのは、とても辛い。

 結末を一度見ているからこそ、恐ろしい。

 そして何より、あの鷹臣や楓が本当に椿を破滅させるのか、そのことを考えるのは嫌だった。

 

 いつの間にかじわりと汗の滲んだ手を握りしめた。

 三葉は、そんな俯き沈黙を続ける椿の頭をそっと撫でた。

 顔を上げると、優しく微笑む三葉の顔がすぐそこにあった。

 小さい子を窘めるような、慣れた手つきだ。



「もう、だぁいじょうぶだって!」



 そう言うと、三葉は歯を出して笑った。



「私に、いい考えがある」


「へ?」




──────────



「ヒロイン椿ルート計画ぅ!?」


「そう、私天才」



 自信満々にニヤリと笑う三葉が頼もしく思えたのは、やはり気の所為でした。


 いやー私ってやっぱ天才だったかー、とドヤ顔で頬に手を添える三葉は、心做しかツヤツヤしていた。

 三葉の言う”ヒロイン椿ルート計画”とは、端的にまとめるとこうだ。



・要するにヒロインが鷹臣や楓とくっつかなければいい


・ならばヒロインを懐柔、即ち惚れさせればいい


・椿もヒロインもハッピーな天才的エンド


・ついでに三鷹×円堂でくっつけばいい




 ……。


「却下」


「Why!?」


 三葉はガタリと立ち上がった。


「いやいやいや、こんなん却下でしょ! 最初から最後まで趣味ダダ漏れじゃない! ていうかなんだ最後のひとつはなんだ自重しとけ!!」


 ……協力者、間違えたかもしれない。


「ホワァイ!? だって王様俺様鷹臣様に突っかかる真面目眼鏡円堂よ!? よくない!? 萌えるしかなくない!?  私正直言って二次創作の薄い本から舞恋入ったから、円堂ルート最初に選択したのもぶっちゃけ円堂の三鷹に対する心情詳しく知りたかったからですし!? あれ、ハッピーエンドでクリアすると漏れなく二人の確執も無くなってお互いの実力を認めるんだけど……ああもうヒロインとかどうでもいいから私は壁になりたいの!! 二人をいつ何時でも見守る太陽、いや夜の方がいいか……そう月になりたい!! いっそそれさえ認めてくれればヒロイン椿ルート計画とかどうでもいいからこれだけは認めて!! でなきゃ私が高校卒業を待たずにお前のこと破滅させたる!!」

 

「無駄に長いしこわい!!」



 もはやキャラが変わっていた。

 しかもヒロイン椿ルート計画はおまけなのか……。

 肩で息をして呼吸を整える三葉を、椿はどんな顔で見ればいいのかわからなかった。


 そうかー……腐女子だったかー……。

 椿は遠い目で虚空を見つめた。

 確かに、実は前世でその気がなかったとも言いきれないので、三葉の気持ちはわからないでもない。

 が、幼女が熱く語るその姿に正直戸惑いを隠せないというか、若干引いていた。いやこれは仕方ない、ハズ……。

 

 三葉は暫くしてやっと呼吸が整ったようで、何事も無かったかのように傍にある紅茶を一口含んだ。

 一旦流れを変えなければ、と切り替えの意味も込めて椿もカップに口をつけるが、当然の如く冷めていた。



「……取り乱して、悪かったわね」


「いいんですのよ、三葉さん。誰しも隠している性癖の一つや二つ……」


「急にお嬢様口調になんのヤメテくれない!?」



 新たな一面を知ることが出来た瞬間でしたわ、おほほほほ……。



「まあ、そんな冗談はさておき、ヒロインと仲良くなるのは悪い考えじゃないかも」



 流石に惚れさせるとまではいかなくても、仲良くなれば確かに破滅の可能性は減る気がした。

 そうすれば、例えば嫌がらせの濡れ衣を着せられたとしても、ヒロインが庇ってくれたり……。

 これは、ヒロインを鷹臣や楓以外に惚れさせる作戦よりも、希望があるかもしれない。

 その点では、余計な邪念が挟まっていたとはいえ三葉の計画は実に的確なものであったと言えるだろう。

 うん、それがいい。それでいこう。



「まあ、ヒロインが椿のこと怖がっちゃうかもしれないから、あくまで保険かしらね」


「大丈夫、貯金はちゃんと続けるから!」




 「貯金?なにそれ?」と首を傾げる三葉に、枕元に置いている「百万円が溜まる!」の貯金箱を持ってきて見せると、これでもかというくらい大笑いされた。

 将来没落した時、当面の生活費を貯めるためだと言ったら、床を転げ回って大爆笑された。

 なんでも、この貯金のデザインがツボに入ったらしい。

 解せぬ。





 何はともあれ、破滅回避作戦会議は思わぬ副産物もあったが、こうして第一回を無事に(?)終えることが出来たのだった。


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