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「おばあちゃーん!!」
こうくんが、泣きながら家に飛び込んできました。おばあちゃんは、いつものように日当たりのいい廊下でうとうとしていましたが、大きな声にびっくりして飛び起きました。
「あらあら、おかえりなさい、こうくん。どうしたの」
「おばあちゃああああああんん!」
ランドセルを背負ったまま、こうくんはおばあちゃんに抱きつきました。
「あのね、りゅうくんが、僕のことね」
「はいはい」
ぐしぐしと泣いているこうくんの体を、おばあちゃんはぽんぽんとあやすように叩きます。
りゅうくんは登下校の班が一緒の、こうくんと同じ小学二年生のお友達です。
「帰りにね、いつもの班でね、帰ってたらね」
「うん、うん」
興奮してつたないこうくんの話を、おばあちゃんはにこにこしながら聞いています。
「りゅうくんが運動着の袋をぶつけてきてね、るかちゃんにあたりそうになって、だめだよ、って、あぶないって、僕、かばったのね」
「うん、うん」
「それで僕がよろけて転んだらね、りゅうくん、僕のこと笑ったの。ひどいよね!」
おばあちゃんは穏やかに笑いました。りゅうくんとこうくんはいつもけんかばかりしているけれど、実はとても仲良しなことを知っているからです。
「それは大変だったわね。こうくん、けがはしなかった?」
全部話してようやく落ち着いたのか、こうくんはおばあちゃんから離れると、あらためて自分の手の平を見つめます。
「うん。あ、ちょっと、膝をすっちゃった」
「じゃあ、手当をしておきましょうね」
こうくんのかわいらしい膝にすり傷があるのを見たおばあちゃんは、救急箱を持ってくると、大きなばんそうこうを一つ、こうくんの膝にはりました。
「こうくん、おやつがあるわよ」
「食べる!」
ふたりは庭に続くガラスのサッシを開けて廊下に座ると、並んでおやつのクッキーを食べました。
庭では小鳥がのんきにえさをついばんでいます。
「あーあ、僕も鳥になりたいなあ」
「こうくんが?」
「うん。そしたら、毎日お空をどこまでも遠くへ飛んでいけるのに」
大きな青い空を、翼をはためかせて飛んでいく自分を想像して、こうくんはわくわくしてきました。
「鳥なら宿題もしなくていいいし、りゅうくんにいじめられることもないし、ピーマンも食べなくていいし」
「そうねえ」
おばあちゃんは、首をかしげました。そして、庭におりてきた小鳥に話しかけます。
「こうくんは、鳥になりたいんですって。あなたはどう思う?」
「いいんじゃない?」
ふいに、こっちを向いてその小鳥は言いました。こうくんはびっくりして目を丸くします。