醜態の強さ
「無茶しないって言ったのに。嘘つき…。どれだけ私はあなたのこと心配すればいいの?もう私、耐えきれないよ。これ以上こんなことばっかりから耐えられないよ。だから、今回で終わりだと絶対に終わりだと誓ってよ」
病院の一室で一人の少女はそこに寝ている少年に向かっていた。
発された言葉には、怒り、不安、安堵、喜び様々な感情が入り乱れていた。
未だ意識の戻らない幼馴染に向かって、涙すらも静かに流していた。
誠一郎は、あの日鈍器なようなもので頭を殴られて昏倒していた。幸い理沙がすぐに救急車を呼んで病院で治療したため命に別状はなかったが、いつ意識が覚醒するか分からなかった上に、後遺症すら残るか分からなかった。
誠一郎の身体には沢山のチューブが通されていた。頭には、痛々しい手術痕があった。理沙は待っていた。ずっと。そして、その日は家に帰ろうとはしなかった。
その気持ちに誠一郎も答えたのだろう。次の日の朝に誠一郎は意識を覚醒させた。
「…り、さ。僕は無事…なのか?」
「お、起きた!!起きた!!!大丈夫じゃないわよ!バカ…」
理沙は涙を流して誠一郎の身体にしがみついた。誠一郎は驚きながらも理沙の頭を撫でた。
「ありがとう。僕の我儘に付き合ってくれて」
「もし、これで死んでいたらどうしていたの?」
「それは、考えていなかったな。あいつらも未来あるし賢いかなそれ位はわかると思っていたけれど、冷静に判断できなかったみたいだな。て、あいつらは今どうしてるんだ?」
「知らないわよ。そんなの。でも、君の意識が戻ったという事を聞いて、警察もすぐに来て事情を聞かれると思うよ。私も含めてね。恐らくそこで今回、誠ちゃんが目論んだ通りになるだろうね。
全く普段の気弱な姿からは想像もつかないような方法だと思うよ。
そのために一人称まで変えて望んだなんて。すごい賭け方だった。失敗していたらどうしていたの?」
理沙は誠一郎を質問ぜめにした。それには流石に誠一郎も苦笑するしかなかった。そして、あれやこれよ理沙と話していると、誠一郎の病室にスーツを着た二人の男が入ってきた。
「私は警察のものです。相模原さんですね?少しお話を伺いたいのですがよろしいですか?…二条さんも一緒によろしいですか?」
「私は構いません」
「知ってたの?」
「暫くここにいさせてくれって少し我儘言ったら許してくれたの」
「そっか…。
で、警察ですか。わかりました。場所はここでいいですか?」
「問題ありません。それでは早速伺います。誰にその傷を負わされたか分かりますか?」
「僕と同じクラスの矢島剛太郎、井上稔、鹿野雅彦の三人です」
その後たっぷりと今まで三人のしてきたことに対して恨みを込めながら警察に話した。そして、最後に話したのはこれだった。
「あの、刑事さん。もう一ついいですか?」
「まだ何かあるんですか?」
「はい、実はあの時にどうしてもいじめをやめさせたくて証拠を掴んで警察に提出すれば対処してくれると踏んでそれをしたんですが彼らの余罪をもう一つ追加してもらってもいいですか?
証拠はこの録音機です」
誠一郎は、言いながら理沙から録音機を受け取った。
刑事は、それを見つめた。そして軽く息を吐くと
「分かりました。しっかりと解析させていただきます」
と丁寧に応対した。
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暫くして誠一郎は退院して学校に行くと三人の噂が耳に舞い込んできた。
その噂によると三人は、いじめをしていた上に、それがエスカレートして殺人未遂まで犯して警察に逮捕。学校の処分はまだ決まっていないがおそらく退学処分になるだろうというものであった。
誠一郎も担任に呼び出されて被害者として大丈夫なのかを聞かれた。もちろん詳しいいきさつもだ。誠一郎はそれに対して、嘘偽りなく答えた。いじめのことも。
その時に誠一郎は心が軽くなっていくような気分だった。
目の前の世界が明るくなったという言い表せる状況だった。無論、彼のした選択が正しかったのかどうかなどもっと時間が経ってみなければ分からない。
しかし、今この段階で言えることは相模原誠一郎をいじめていた直接的な要因は消え去ったということだった。これは本当に大きいことだった。
誠一郎は一人である建物まで来ていた。その建物は警察署。逮捕された三人に面会を申し込んだのだ。誠一郎はどうしても言いたいことがあったのだ。
刑事に頼み込んで、三人一緒に面会をできるようにしてもらっていた。
「よう、久しぶりだな。元気にしているか?」
「よく言うよ。俺たちの人生を潰したに等しいくせに。俺はお前を許さない。いつか必ず同じ苦しみを味あわせてやるから覚えておけよ」
どこまでも間抜けな言葉に誠一郎は笑うしかなかった。
「バカなのか?僕は被害者だ。実際いじめられていたのはこっちだし。
…そんなことよりも今日は一つして欲しいこととがあってきたんだ。言っていた。三人とも。だから、謝ってほしい。そして、僕についての噂は全て自分達が捏造したものであるも認めてほしい。それを謝ってほしい」
「だれがお前なんかにするかよ」
三人ともそっぽを向いた。暫くその光景を見ていた誠一郎は刑事に言った。
「刑事さん。この三人は、被害者としては厳罰を求めたいです」
「書類には書いておこう」
「ありがとうございます」
「少なくとも数年は出てこられないだろうし学校は退学。その出てくる数年後に心境位は変化していると思う。だからそこまでに謝って欲しい」
それだけ言うと誠一郎は面会を打ち切った。もうこれ以上何も反省していない三人とも同じ空間にいるのがとてつもなく嫌で、不快だったのだ。
誠一郎は謝ってもらうという、一つの目的を達成できずに帰り道にため息をついていた。しかし、同時に全てから解放されたことを実感できたためか、顔は非常に晴れやかだった。
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誰にも見えないところでー厳密には一人幼馴染が見ていたのだが、そこで小走りをしていた。その顔には悲壮感もなく今、この瞬間からもう一度誠一郎の時計の針は動くだしたのだ。
「よかったね誠ちゃん」
「本当によかった。ありがとう理沙」
途中から誠一郎は気がついていた。理沙は誠一郎が振り返るとほんのりと顔を赤らめた。
「理沙今回のことで本当に感謝しきれないほど感謝してる。今度しっかりとお礼をさせて」
「…それよりも、もう二度とこんな危険な真似をしないと私に誓ってよ。もう私を心配させないと誓って。それが私にとっての一番のお礼になるんだから。君と一緒に楽しく過ごすことが出来る。これ程に満たされている時はないんだから。
だからこんな楽しくて平和な生活がずっと続くといいなぁ」
最後になるに連れて理沙の発言はこの生活…三人を倒してやっと手に入れたそれを維持したい。その願いそのものだった。
「ああ分かってる。だからこれを守っていこう。一緒に」
誠一郎はその理沙の言葉を汲み取った。
ここから二人一緒に止まった時間をほぐし、動かしていくのだ。
そして、一言誠一郎は理沙に向かって何かを悟ったような表情で屋上から見え有る限りの情景を見ていた。その夕暮れの忙しい街は、常に何かの音が聞こえてくる。そんな状況の中、二人のいた空間は何処か別の次元にあったのではないかと思わせる程に静かだった。決して二人が、沈黙していたわけではない。
二人の話し声のみが広がっていたのだ。
そこには、誠一郎の、理沙の声はよく響いた。
「僕は今まで本当にいろんなことがあったけど一つわかったことがあるよ」
「わかったこと?」
「うん。強さっていうのは力じゃない。力ももちろん強さだよ。でも、強さってのは周りに対して配慮して、考えて誰か他人のために動くことのできること。
知り合いに助けを求められたら、躊躇わずに助けられること。
それって全て共通していることがあると思う。
だから僕はこう思うんだ。
強さは精神力の裏返しなんじゃないかってね」
「強さは精神力…か。これ、あの三人は分かるのかな?」
「その内わかってほしいことではあるけど、少なくとも一昨日、面会に行った時にはそうは思っていなかったと思う」
「そう、きっとあの三人にも、分かるときはくるわよ」
「だといいな」
「でも、強さは精神力かぁー私は思いつかなかったな。相変わらず面白いところに目をつかんだね君は」
「人と見方が違うのかもな。でも、これでいじめられることもない。
楽しめそうだ!」
誠一郎は胸を張って言った。
誠一郎は強さとは何かに自分なりに結論を出した。その結論は迷うことはあっても曲がることはないだろう。その理由は誠一郎自身が必死になって掴み取った強さだからだ。
強さについたの結論を出した者は強い。だか誠一郎は心を優しくしようと思っていた。
それが自分にできることだと思ったから。
宣言通り短いお話でしたがどうでしょうか?自分としては結構上出来なのではないかなと思います。
評価や感想をいただけると非常に嬉しいですのでよろしくお願いします。また、アドバイスのような感想もお待ちしています。というか、そのような感想を頂けるのがこの作品を書いた意図の一つですのでよろしくお願いします。
また、ここまで読んでくださった読者の皆様ありがとうございました。




