見せない強さ
「俺は立ち向かえることなら立ち向かいたい。そう思っていたんだ。以前は…。
でも、いつからかそれすらも忘れてしまっていた。もう一度だけ抗ってみるよ。自分自身にさ。それを気づかせてくれた理沙には本当に感謝してる。ありがとう」
誠一郎は、理沙に感謝しても仕切れないほどの気持ちを抱いていた。それは、もう一度だけいじめに屈服すまいとする志。
これは人にとって最も重要な構成要素の一つだ。
この志を思い出させてくれた。これだけでも誠一郎にとっては価値あることだった。この価値は人なら誰もが抱いていいはずの感情。しかし、それは環境によって抱く事が出来ない状況になることもある。誠一郎のように。
だが、誠一郎がいくら感謝していたとしても理沙は不安で仕方なかった。どのように、誠一郎がいじめを行なっている言うなれば加害者に対して抗うのか。この具体的な内容を聞いていないからだ。理沙とて誠一郎には楽になってほしい。しかし、これ以上誠一郎が傷つくことも胸が張り裂けそうだった。
「絶対に絶対に無理だけはしないでね。無茶して傷ついて欲しくないから」
「理沙はどっちなんだよ」
誠一郎は微かに微笑んだ。その満たされた顔で。理沙はその誠一郎の満たされた顔を見て安堵した。その満たされた顔は他のどんな言葉よりも信用に足る事象だった。
「いや、大丈夫だよね誠ちゃんならさ。私が心配するまでもないかな。頑張れ!負けんなよ!!!」
理沙は今自分の出来る精一杯のエールを誠一郎に送った。そのエールに答えるように誠一郎は手を上にあげた。その手は全てを終わらせる。その意思が屈強に込められていた。そして、その宇宙にも届きそうな手は夕日に当てられて輝いていた。
この後二人は会話を交わすことはなかった。しかし二人の気持ちは確かにつながっていた。見えない絆で。それは他人には決して見ることのできないもの。その二人のみに見える透明な綺麗な糸。その糸は一色ではなく様々な色がおろこまれた丈夫で太い糸。この糸は二人にとっては何者にも代え難いほどの強さになる。
それは他人からは決して見えない強さ。しかし確実な強さ。精神的にたくましく、そして豊かにしてくれる強さ。武力でも知力でも無いがそれはとても大切なこと。
誠一郎は…いや誠一郎と理沙の二人は勝負を始める。絶対にいじめをやめさせるために。いじめている者の誤解を解くために。もし彼らが間違いに気がついているのなら、その間違いを認めさせるために。




