第9話 鉄道模型1(Bトレインショーティー)
某メーカーの鉄道模型「Bトレインショーティー」を題材にしております。組み立てとか若干異なっているかも知れませんがご容赦下さい。
「昨日はやらかしたんだってね高石みさき!ホント世話がやけるわね。部活行くよー。」
昼休み中、さくらはそれを言い残してそのまま走り去っていった。ただ最近のさくらはみさきへの絡みに加えて、一緒に行きたいのか部活へ誘うようになっている。
部室へ着いたがまだ誰も来ていない。見渡すと長机が以前やったペーパークラフトの時と同じ配置で並べられていた。
(今日はペーパークラフトをするのかな?)
しかし、長机にはその時とは違う物が置かれていた。見てみるとニッパーとペンチ、プラモデル用接着剤、なぜか爪切りが置かれている。端から見ればプラモデルでも作りそうな雰囲気である。
横に目をやるとそれら道具の他に鉄道車両の絵が描かれた箱がいくつか置かれていた。箱はお菓子でも入っているのかと思わせるぐらいの大きさである。みさきはその箱を手に取って眺めてみる。
(Bトレインショーティー?何だろう)
箱には鉄道車両の形式や2両セット、組み立てキットといった文字も書かれている。これは間違いなく鉄道模型である。すると部員全員が遅れて部室にやってきて孝子が仕切る。
「みんな揃ったね、今日は岸乃いずみくんの持ち込み企画をやりまーす。」
“Bトレインショーティー”と長机はいずみが用意したものである。そして部活の仕切りを孝子からいずみにバトンタッチして、
「今からこれを作っていくのですが、ただの鉄道模型ではないんですよ。」
“Bトレインショーティー(以下Bトレイン)”とは、ロボットアニメのプラモデルで有名なメーカーから発売されているキット形式(組み立て式)の鉄道模型である。日本で最も普及している鉄道模型の規格“Nゲージ(実物の150分の1)”に倣って作られているが、車両の長さが短縮されているのが特徴である。基本的にはディスプレイ(展示)用だが、別売りの台車、動力装置を取り付けると通常のNゲージ線路を走らせることが出来る。
いずみは“Bトレイン”について熱く語り、一人一箱ずつ配っていく。みさきはNK電鉄1000系、いずみもNK電鉄10000系、さらに孝子、さくら、瑞希もNK電鉄でそれぞれ7100系、2300系、2000系が配られた。するとみさきが、
「NK電鉄の車両ばかりだね。」
いずみが、
「この前、私鉄各社が集まったイベントがあってね、そこで買っちゃった。みんなの性格とかをイメージしてそれっぽい車両を選びました。」
(何か新手の占いみたい)
いよいよ箱を開けて中身を取り出す。中には部品がいくつかのビニール袋に小分けにされていて、一つ目の袋には塗装済みの車両の側壁、正面の部品、2つ目はランナーと呼ばれる枠に繋がった黒、グレー、透明のプラスチックの部品が、3つ目は説明書と細かい文字が書かれたシールが入っている。いずみが、
「それじゃあまずは説明書を袋から出して下さーい。」
とにもかくにも説明書を読まないことには始まらない。しかしプラモデル経験がない部員ばかり、どうなることやら。みさきが、
「説明書見てもわかんないよー。」
するといずみが、
「大丈夫、一見難しそうだけど簡単だよ。」
いよいよ組み立てに取りかかる。まずは2つ目の袋に入っていた黒、グレー、透明の部品をニッパーでランナーから切り離していく。紙をハサミで切る感覚でやや不器用なみさきでも順調に切り離していく。孝子が、
「先生ー、切り離したけど切った部分がデコボコでーす。」
いずみを先生呼ばわりである。ランナーから部品を切り離すと、そこに繋がっていた部分がどうしても残ってしまう。このままでは組み立てるときに邪魔になるので普通はカッターで削るのだが・・・。いずみが、
「使い古しの爪切りを使いまーす。」
爪切りの刃の角で出っ張りを挟んで少しずつ切っていく。それでも若干デコボコが残ってしまう。細かいところが気になる人はヤスリを掛けるが、もう組み立ての邪魔にはならないのでこのまま作業を続ける。いずみが、
「一通り切り離せたので、組み立てていきまーす。まずはこのガラスパーツから。」
ガラスパーツとは先ほど切り離した透明の部品である。これは窓ガラスに相当するのでそう呼んでいる。ガラスパーツと塗装済みの側壁をはめ込んでいく。するとみさきが、
「接着剤は要らないの?」
いずみが、
「これはね、接着剤を使わなくても作れるというのがウリなんですよ。」
部品には突起があるのでそれを穴の空いた部品に差し込むだけで組み立てられるのである。この場合、側壁の裏に突起がありガラスパーツに穴が開けられている。これをはめ込むには少々コツがいるのだが・・・。さくらが、
「いずみ様ー、こんなんなっちゃった。」
側壁の前側はしっかりはまっているが、反対側は浮いてしまってはまらなくなっている。側壁の突起は複数あり、一つの穴だけに集中してはめるとこういうことになる。バランスよくはめるのが肝心。接着剤を使わないのでまた取り外してやり直すことができる。
左右の側壁が出来たら、黒の小さな部品をガラスパーツの前後の穴にはめ込んで左右の側壁を接続。これで側壁のみの車体ができあがり。
側壁のみの車体はひとまず置いといて、グレーの部品に一手間。これは屋根にあたる部品である。二種類あるのだが、一つは一角に小さな穴が二つ空けられていて、もう一つは穴がない。この穴はパンタグラフを取り付けるものである。二種類あるのは電車は車両によってパンタグラフを取り付けなくて良いからである。
パンタグラフを取り付けたら、この屋根部品を側壁のみの車体に取り付ける。ガラスパーツの突起を屋根部品の穴にはめるのだが、力加減が難しくなかなかはまらない。かといって力を入れすぎると、みさきのように・・・
「あっ!」
側壁が黒の小さな部品から外れて崩壊してしまう。こうなると、この小さな部品をガラスパーツにはめるところからやり直しである。それを見ていたさくらが、
「あーあ、やっちゃった・・・・あっ!」
人のことを言っているそばからさくらも崩壊させてしまった。するといずみが、
「これはね、ある程度はめたら裏からこうするの。」
車体を逆さまにしてマイナスドライバーを使い、ガラスパーツの突起を押し込んでいく。やや力技のようにも見えるが、これが一番良い方法である。
次にする作業は、車体の前後に正面と“妻面”の部品を取り付けていく。妻面とは連結された車両間を行き来する部分だがあまり目立たないところである。逆に正面は車両の顔とも言える部分である。正面部品は数種類あり好きなのを選んで取り付けられる。取り付けが終わり、若干飽きてきた様子のみさきが、
「これでもう完成でいいんじゃない?」
いずみが、
「いやいや、まだ足回りが出来てないよ、あと一息だから。」
足回りとは、車両の土台となる台車や車輪のことである。“シャーシ”とも言う。
車輪を二つの部品で挟み台車を作っていくのだが、みさきは車輪が転がってしまい上手くはめられない。
「んー、転がらないで。あっ!」
車輪が転がりすぎて床に落としてしまう始末。一度落とすと細かいので見つけるのが大変である。いずみが、
「はい、これ落とした部品。」
落とした部品をいずみがすぐに拾ってくれたのである。さらにみさきのシャーシを手に取りいとも簡単に車輪をはめて台車を完成させてしまった。それを見ていたさくらが、
「あーずるい!いずみ様の手を煩わせ・・・て。」
さくらも車輪に苦戦していたので、いずみが代わりに台車を完成させてしまった。突然真横にいずみが来たので、さくらは顔を少し赤らめ舞い上がってしまった。
気を取り直して、できあがったシャーシの側面に台車の細部をかたどったレリーフを取り付けたらシャーシの完成である。するといずみが、
「これを車体と合体させたらいよいよ完成でーす。」
車体とシャーシを合体させていく。シャーシの裏側に四つのツメがあるので、それを車体のガラスパーツの凹みに引っ掛けて取り付ける。その際、マグネット式の連結器も取り付ける。
これでやっと完成である。みさきは手しか動かしていないのに、長距離走でもしてきたかのような疲労感がある。
「フー、できたできた。」
いずみが、
「まだ1両目だよ。もう1両あるんだけど・・・。」
今日の部活で作ったBトレインは2両1セットなので、リアリティーを追求するなら2両作りたいところだが、みさきとさくらにはもう気力がないのでこの辺りで終わることにした。その時瑞希が、
「出来ましたー。」
さらに孝子が、
「私のも見てー、イイ感じに出来たよー。」
この二人は組み立て経験が無いにも関わらず、いずみに教えてもらうこと無く完成させた。しかも2両共である。それを見たいずみが、
「ほー、ちゃんと出来てるね。って、シールも貼ってる!」
シールとはBトレイン完成後に車体に貼るものである。行き先表示や社章、車種の型式番号、“女性専用車両”案内板などがあり、カッターナイフで切り出していく。貼る位置は説明書に載っているが細かすぎて作業は大変である。だが二人は器用に切り出し説明書の位置と寸分違わず貼り付けていた。するとみさきが、
「いいなー器用な人は・・・。」
二人の出来栄えに感心するばかり。横で見ていたさくらもうんうんと頷いていた。いずみが、
「それじゃあ今日はこの辺にしますか、みさきとさくらは次回続きをやりましょう。何なら組み立てて来てもらっても良いよ。」
それを聞いたみさき、さくらは一人では無理と言わんばかりに首を横に振っている。
みさきは皆が帰り支度を始める中、時間を忘れて初めて組み立てたBトレインにうっとり。手のひらに乗せていろんな方向から眺めている。すると孝子が、
「高石さん、それじゃ戸締まりよろしくー。」
気がつくと部室はみさき一人だけになっていた。
「あー、待ってぇー。」
慌てて帰り支度をして家路につくのであった。ちゃんと戸締まりもして・・・。