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第8話 撮り鉄3(カメラ練習!?)

 「へー、これが錆び取り列車って言うんだ。良く撮れてるじゃない。」


 昼休み中、先日行った大阪臨港線でみさきの撮った写真を陽子に見せていた。


  「でも、後ろ部分が切れちゃって・・・。動いてるのを撮るの難しいね。」

  「じゃあさー、私の陸上部のランニング風景を撮るのは練習にならない?」


 陽子が所属する陸上部のランニングは大勢で列を作ってグラウンドを走るので、それを列車に見立てて撮影の練習をしてはどうかと提案したのである。人を列車に見立てるとは無理があるような気もするが・・・。


  「放課後お邪魔させてもらっていいかな?」


 みさきは乗り気である。

 放課後、みさきはカメラを首からぶら下げてグラウンドへと繰り出した。そこはすでに部活が始まっており、運動系のクラブがグラウンドを所狭しと使っている。


  「みさちゃーん!こっちこっちー。」


 陽子が呼んでいる方へ向かうと、そこには陸上部の部長さんも居た。みさきは撮影の練習をする旨の挨拶をしようとすると部長さんが、


  「今日はわざわざ来てもらって悪いね。ホントに助かるよ。」

  (え?え?助かる?どういうこと?)


 みさきは部長さんの意外な発言に何のことか分からずオドオドするばかり。


  「実はねみさちゃん・・・。」


 陽子から事のてんまつを聞かされた。それは、みさきが撮影の練習をしたいということを陽子が部長さんに報告をしたのだが、部長さんはどうせ撮るんならと学校ホームページの部活紹介用の写真も撮ってもらおうと考えたのである。いつもは写真部にお願いしているのだが、部員不足で休部になっており困っていたようである。それで、みさきの知らないところで勝手に話が進んでいたのである。


  「あたしなんかが撮っていいの?」


 いつの間にか集まっていた陸上部員全員が大きく頷く。


  (責任重大じゃないの、参ったなぁ。)


 早速、陸上部員はトラックの周回ランニングを始めた。みさきは邪魔にならないようトラックからやや離れた位置に陣取り、先頭から最後尾の人までカメラに収まるようにカーブ付近外側で構える。

 ランナーはトラックを1周まわってみさきが待ち構えるところに差しかかる。シャッターを押そうとした瞬間先頭の部長さんが、


  「みんなー、盗撮魔に気をつけてー。」

  ―カシャリ―


 部長さんの冗談にみんなの顔が緩み、良い表情の写真を撮ることが出来た。その後みさきは直線部分、カーブ内側、ランナーに併走してなどいろんなアングルから無我夢中で撮影をしていく。

 ランニングが終わり、部員それぞれに合わせた個別のトレーニングが始まった。みさきはその様子も撮影していく。すると部員の一人が、


  「高石さんって体力あるよね。併走して撮影ってすごいよ。この部に入りなよ。」


 みさきの無駄にある体力はこんな所で生きてくるのであった。


  「でも、あたしなんかが入ったら皆さんの足引っぱっちゃいますよ。」

 

そんなこんなで個別トレーニングが終わり、ミーティングの時間になったようである。みさきの撮影もここで終わりである。部長さんが、


  「高石さん、今日はありがとう。みんなもお礼言ってー。」

  「ありがとうございました!」


 陽子は撮った写真をパソコンに取り込むためカメラを持っていってしまった。取り込み作業が終わったら返すということなので、その間みさきはグラウンドを歩いて運動系の部活を見ていくことにした。

 歩いていると、足下に野球のボールが転がってきた。みさきはボールを拾い、手を大きく振っている野球部員に投げ返した。


  (よいしょっ!)

  ―バシッ!―


 投げたボールはコントロール良くグローブに収まり小気味よい音が響く。それを見ていた野球部顧問が、


  「お、良い球放るねー。キャッチボールだけでもやっていかない?」


 ここの野球部は弱小で部員数もギリギリ試合が出来る人数しか揃っておらず、けが人が出ると試合は出来なくなってしまう。そんな時、みさきがたまたま良いボールを投げるのを見た顧問が、半ば強引に野球部に引き込もうと考えたのである。そんなこととはつゆ知らず、みさきは軽い気持ちで野球部の練習につき合うことにした。

 みさきは部員と一緒にキャッチボールを始めた。先ほどと同様コントロール良く投げ込む。野球経験は子供が公園でやるお遊び程度だが、どこでコツを覚えたのか上手く投げている。

 次はバッティング練習を始める。グラウンドの片隅にある金属バットを拾ったみさきが、


  「バットって意外と重いんですね。」

  「それじゃあ、打ってみる?」


 早速、右バッターボックスに入る。構えを見た顧問は、


  「お、良い構えしてるね、もしかして経験あるんじゃない?」

  「あー、いやー、お父さんとお兄ちゃんと一緒にいつもテレビでナイター観てて、見よう見まねで    やってみました。」


 みさきの父と兄はプロ野球の熱狂的なファンで、いつもテレビ観戦している。それにみさきもつき合わされていて、いつしか野球の知識が付いてしまったのである。

 ピッチャーが少し加減をして打ちやすいところにボールを投げた。


  「はうっ!」


 思いっきりスイングしたが空振り。気を取り直して二球目を投げた。すると、


  ―カキーン!―


 快音を残した打球は部員が唖然とする中、外野へ飛んでいく。しかし、グラウンドを大きく外れていき校舎のある方へ。


  ―ガシャーン―


 打球の飛んでいった方向から何かよからぬ音が聞こえてきた。どこかの窓ガラスが割れたようである。


  (もしかしてやらかしちゃった?)


 みさきは血相をかいて窓ガラスが割れたであろう部屋に向かった。その部屋に着く頃にはに人だかりが出来ていた。そう、その部屋というのは職員室である。すでに後片付けが始まっていたが現場に居た先生はカンカンに怒っていた。


  「割ってしまって本当にごめんなさい。」


 深々と頭を下げるが、


  「何をやってるの!ケガしたらどうするの?」


 みさきはこっぴどく説教され、後片付けを手伝った。そして後片付けが終わる頃には下校時間になっていた。

 少し落ち込んだ様子で帰り支度をして校門を出ると、


  「みさちゃん、大変だったね。元気出して。」


 陽子が心配して待っていてくれたのである。それと、事情を聞きつけたいずみもいた。


  「みさきー、やっちゃったね。ハハハ。」


 二人が元気づけようとするも、まだ落ち込んでいる。すると、いずみが自分のカバンから何かを取り出した。


  「元気のない君にはこれを進ぜよう。」


 渡したのはいずみがおやつで食べようと買っておいたあんパンである。みさきの好物なのだが・・・。


  「こんなんでみさちゃんが元気出るわけが・・・・あ、食べた。」


 やはり好物を前にするとついつい手が出てしまう。あっという間に完食し、さっきまでの元気のなさはどこへやらすっかり元気になった。


  「フー、美味しかった。」


 どうやら怒られて元気がなかったのでは無く、単純にお腹が減っていただけのようである。それにしても幼馴染みのいずみはみさきの扱いをよく知っている。

 そんなこんなで三人は駅に向かう。駅に着くとタイミング良く電車がやってきた。すると、突然いずみが興奮気味に


  「おおおー、ついに来たー。」


 タイミング良くやってきた電車というのは、まだいずみが乗ったことがない古くて貴重な“湘南電車”である。カバンからカメラを取り出して撮影を始める。みさきは登校時間にいつも乗っている車両なので、いずみの興奮をよそにそそくさと乗り込む。


  「ドアが閉まりまーす。」


 撮影に夢中だったいずみは慌てて電車に乗り込む。車内も撮影しようとするが、乗客が意外に多く諦めることにした。残念そうである。するとみさきが、


  「電車乗れて良かったね、良いことはしとくもんだよ。それとあんパンありがとう。」


 笑顔になる二人を見た陽子は少し呆れた表情で、


  「何、このマイペースな二人は。」


 元気になったみさきを見た陽子は安心して家路につくのであった。

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