第7話 撮り鉄2(大阪臨港線)
第7話に登場する“大阪臨港線”は実際にある(正確にはあった)場所です。というのも作中ではまだ現役ですが、現実は2006年に廃止されています。
筆者は廃止前に一度見に行きました。その行ったときのことに思いをはせ書いてみました。列車名称や路線の概要、歴史は実際のを元にしております。
今日の部活は今後の活動予定について部長から話がある。と、その前に撮り鉄(第6話)に行ったときの写真が現像できたのでみんなにお披露目することにした。現像といってもいずみがみんなの撮ったデータをパソコンに取り込んで印刷したものである。そして3人分の印刷された写真をを机に並べていく。するといずみが、
「おー、いいねー。」
すると瑞希が、
「みさきさんのもこうやって見るといい味出してますね。」
「え、本当?瑞希くんお世辞言ってない?」
みさきの撮った写真も初心者とはいえ端から見れば良い写真である。惜しいところをいってるので、他2人のと並べても見劣りしない。
部室の入り口で様子を見ていたさくらが入ってきて腕組みしながら写真を見る。
「ふーん、3人で行ったんだ、よく撮れてるじゃん、今度私も行きたいなあ。」
無愛想な感じだがみさきに言ったように聞こえた。するとみさきが嬉しそうに、
「うん、今度は一緒に行こうね、さくらちゃん。」
みさきに初めて名前で呼ばれたさくらは少し照れくさそうにしている。そこへ孝子が部室へやって来て、
「はーい皆さーん、こっち注目ー。」
本題の活動予定の発表である。孝子は大阪市内が大きく描かれた地図をホワイトボードに貼り付けて持ってきた。地図のとある鉄道線を指し棒で指した。その鉄道線とは“通称・国鉄大阪臨港線(大阪環状線貨物支線)”である。これは1928年開業の貨物列車専用線で、大阪環状線の境川信号場(弁天町―大正間)から分岐して浪速駅へ至る全長2.3キロ(ピーク時は支線を含め8.7キロ)の路線である。しかし1980年頃からは急速に貨物扱いが廃れ、今や貨物運行は無くなり1日1往復の保安目的の列車しか運行されていない。
「今からここへ行きまーす!」
この1日1往復の列車の見学及び撮り鉄へ行くという算段である。しかし丹羽野町は大阪近郊とはいえ現場まで車で3,40分かかる。所要時間以前に突拍子もない計画に一同目が点になっている。すると部室に先生が入ってきて、
「準備は出来たかい?」
孝子はこの先生に車を出してもらおうとお願いしていたようである。
「実はここにおられる滝谷先生は鉄道研究部顧問なんです。」
みさきを始めさくら、瑞希とは初対面である。滝谷先生は特に鉄道マニアというわけではない。鉄道研究部は1年前から顧問の担い手が居なくなって半分は仕方なしでやってくれている。それでも人の良い先生は部活動を影からサポートしている。見た目とおっとりした性格から“爺さん先生”と呼ばれている。
「ほー、女子の新入部員が3人も。それは良かった。」
瑞希も女の子と思われているようである。雰囲気が女子っぽいので見間違えやすい。瑞希は困惑しているといずみが笑いながら、
「先生、こっちの子は男の子ですよ。」
「あーそうなんだ、これはすまない。」
雑談混じりに自己紹介をして、滝谷先生の車を停めてある駐車場へ向かい乗車。車はワンボックスカーなので部員5人全員が乗り込めるようになっている。
車中では孝子の大阪臨港線講義が始まる。
「今から見に行く列車は“錆び取り列車”ともいいます。」
レールというものは列車が走らなくなるとたちまち錆び付いてしまい、列車運行に支障が出てしまう。それを防ぐために運行されるのが通称・錆び取り列車である。これが運行されるということは列車本数が極めて少ないということであり、大阪臨港線に限っていえば定期列車はすでに無く、いつ廃止宣告が下されてもおかしくない状況なのである。定期列車復活を夢見て今日も錆び取り列車は運行される。
車は国道43号線に入り目的地まであと少し。すると前方に踏切が見えてきた。片側2車線で大型トラックが結構なスピードで行き交う国道を遮るように交差しており、よくこれで事故が起こらないものである。
「これが噂の大阪臨港線でーす。」
車は踏切の少し手前の交差点を右折。さらに右へ左へと曲がっていき、とある運河に架かる橋の上で車が停まる。どうやらここが撮影スポットのようである。
車を降りるとそこは工場や倉庫が建ち並ぶ工業地帯で人の気配が無く、運河にはクレーンを載せた台船が停泊している。遠くには大きな船もくぐれるぐらいの高さの橋も見え、やはりここは港が近いということを感じさせる。
「あれかなー?」
橋の欄干から運河を眺めていたみさきが大阪臨港線の鉄橋を見つけたようである。その鉄橋は運河に架かっており、単線で全長は50メートルほどと短いが水面ギリギリにある。橋脚は完全に水没しており、見ようによっては水面に浮かんでいるようにも見える。孝子が、
「もうちょっとしたらこの橋を通るよ。」
3人が撮影機材をカバンから取り出して手際よく準備に取りかかる。孝子は鉄道音マニアの“音鉄”ということで、テレビ局の人かと思うぐらいの大きな集音マイクとヘッドホンをノートパソコンに繋いでセッティングしていく。いずみと瑞希は一眼レフカメラを三脚に取り付けていく。しかしほぼ初心者のみさきとさくらは準備の様子をただただ眺めるしかなかった。
みさきは借り物のコンパクトデジカメを構えて撮影のリハーサルをすることにした。するとさくらが、
「みんな自分の持ってるんだ、でも私はいずみ様にお借りしたカメラがあるもん。」
「え?あたしのもいずみくんの借り物だよ。」
みさきの言葉に少し動揺しながら、
「じゃ、じゃあ、ど、どっちがいずみ様のカメラを持つのに相応しいか勝負よ。」
(変な勝負を持ちかけられちゃったなぁ。)
そうこうしているうちに列車の通過予定時刻が近づいてきた。遠くから踏切の警報音が聞こえてきて全員に緊張が走る。1日1往復の列車なので撮影の失敗が許されない。
―ポォーッ―
汽笛が聞こえたと思ったら、赤く大きなディーゼル機関車が轟音とともにゆっくりと鉄橋に姿を現した。この機関車はDD51形と呼ばれ1962~78年にかけて製造されたものである。蒸気機関車を追い出したということもあり、一部鉄道ファンからは嫌われている。
―カシャカシャカシャカシャ―
孝子以外はカメラのシャッターを夢中で切っていく。DD51形は何も連結しない単独(単機)での運行だったので、あっという間に鉄橋を渡り終えてみんなの視界から消えていった・・・。
「みなさんどうでした?」
みんなが余韻に浸る中、孝子がしゃべりだす。すると、撮った写真を確認したいずみが笑顔で、
「良い感じで撮れましたよ。」
瑞希も満足げな表情を浮かべていて、二人とも良い撮影ができたようである。一方、みさきとさくらはというと、あまり良い出来では無かったようである。みさきはDD51形の顔(正面部分)を撮るのに必死で後ろ部分が切れてしまった。前回初めて撮影したときと同じ結果になってしまい残念そうである。
「うーん、また後ろ切れちゃったなぁ。」
さくらは横から(サイドビュー)の撮影に挑むもシャッターを押すタイミングが早く後ろ部分が切れてしまった。
「勝負は次までお預けだね、みさき。」
「だね。」
みさきは笑顔で応えるとさくらは少し照れた様子で笑みを浮かべる。するといずみが、
「ほらー、夕日が綺麗だよー。写真に撮っとこう。」
錆び取り列車が行った方角を見ると雲一つ無い真っ赤な夕焼けが広がっていた。大きな船がくぐれる高さの橋と夕日を絡めると撮影には絶好のロケーションである。最後に全員で夕日の写真を撮って帰路につくのであった。




