第5話 ペーパークラフト1
「みさちゃん、大変ね。」
昼休み中の会話である。さくらにライバル宣言されてから、何かと突っかかってきて陽子に同情されている。同情というか面白がられている。当のみさきはいずみに特に恋愛感情はなく、ただ単に仲の良いお友達である。幼なじみで付き合いが長いせいか息が合うところもあり、端から見れば恋人同士に見えなくもない。
放課後になり入部後初の部活があるのでみさきは部室へ直行した。すでに部長の孝子と、いずみが居て部活の準備をしていた。会議用の広い机を出して、そこにパソコンとプリンター、画用紙、定規、カッターナイフ、セロファンテープ、木工用接着剤が置かれていた。すると孝子が、
「今日は鉄道のペーパークラフトをやりたいと思いまーす。拍手ー。」
まずは各自鉄道の図柄をネット検索して気に入ったのがあれば画用紙に印刷するところから始める。図柄は個人で作っているところもあれば、鉄道会社の公式サイトにも公開されている。
それぞれ作りたい車両を見つけたようである。みさきは国鉄113系、いずみはOC地下鉄旧20系、孝子は国鉄201系に決まった。とりあえず先頭車両を作ることにした。
それぞれの図柄の印刷を終え作業を始める。図柄は展開図のようになっていて、まずは図柄の形に合わせ、組み立てると角になる部分は少し余白を残しカッターナイフで切り取っていく。底になる部分は使わないので切り取る。さらに屋根に載せる機器類(室外機、パンタグラフ)は別パーツになっているのでこれも切り取っていく。
んー、真っ直ぐ切れない・・・。
みさきは少し不器用なところがあり、なかなか真っ直ぐに切れない。特に機器類は細かいので苦労している。他の二名は手先が器用なのでいとも簡単に切っていく。その時、部室入り口から声がする。
「あのー、鉄道研究部ですか?」
声の主はさくら・・・
げっ、高野さん。
みさきはさくらにまた突っかかられると思い身構える。しかし、声と顔はさくらのようだが何かが違う。よく見ると丸い縁のメガネをかけて男子の制服を着ている。
「この前はさくらちゃん、いや、姉がお騒がせしました。」
どうやらさくらの弟のようである。さくらとは本当にそっくりである。入り口で話すのも何なので部室に入ってもらうことにした。
「僕は双子の弟で瑞希と申します。実は・・・」
詳しく話を聞いてみると姉弟で鉄道研究部に入りたかったようである。あの日、さくらが入部届を持って行ったところライバルのみさきがいずみと仲良くしていたので、我を忘れて悪態をついたのである。するとまた部室入り口から声がする。
「この前は悪態ついてごめんなさい。」
そこには少し気落ちしたさくらがいた。それを見ていた孝子が優しく、
「良いのよ、入部したいからまた来たんだよね。とりあえず部室に入って。」
入部希望の二人を交えてペーパークラフトの続きを始めることにした。作業を始めようとしたときさくらが、
「高石みさき!あんたはまだ認めてないからね!」
さっきまでの落ち込んださくらはどこへやら。元気を取り戻したようである。みさきは呆然としてただただ苦笑いをするしかなかった。
それぞれの自己紹介をして作業を再開する。さくら、瑞希もパソコンで図柄をダウンロードして印刷していく。さくらが選んだのは電気機関車EF81形、瑞希は国鉄223系である。
切り取る作業を終え画用紙を折って組み立てていくのだが、そのままでは綺麗に折ることができない。折る部分にカッターナイフと定規を使って切れ込みを入れると直線的に折れる。また、アップロードされているサイトによっては折る部分に点線が入れられている。幸い全員が点線の入った図柄をダウンロードしていた。さらに、屋根部分に機器類を取り付ける細い長方形の穴も開ける。
みさきは不安げな表情で表面の点線の通りに切れ込みを入れている。少し歪んでしまったが許容範囲である。ふと孝子の作業を見てみると、画用紙を裏返して裏面から切れ込みを入れていた。
「こうすると折ったときに切れ込みが目立たないの。でもちょっとコツがいるの。」
この手法は、切れ込みを入れる位置に気をつけないと折ったとき不自然な境目ができる。さすがに器用で慣れた孝子にしかできない。
さくらも少し苦戦しているようである。それを見ていたいずみが、
「さくらちゃん、ここをしっかり押さえて」
憧れのいずみがすぐ横に来たので、さくらは舞い上がってしまった。
「あ、あ、は、はい」
作業が手に付かない。
切れ込みを一通り入れ終わり、折り曲げて組み立てていく。その前に機器類を組み立てて取り付ける。車体を組み立ててから取り付けても良いのだが、紙なので潰れることもあるから先にする。幸いみさきの113系は先頭車両に細かい作業がいるパンタグラフが無く、取り付けるのは室外機のみである。機器類を組み立てたら先ほど空けた穴に差し込んで完成。
次に車体を組み立てていく。しかし、そのまま折っただけではすぐに開いてしまう。そこでみさきはセロファンテープを短く切り裏側に貼っていく。開かないように一旦は固定されるが、少しの衝撃で剥がれてしまい上手くいかない。見ていた孝子が、
「セロファンテープよりこっちの方が良いよ」
持ってきたのは木工用接着剤である。切り取り作業で残した余白が糊代になっていて、木工用接着剤を薄く塗り取り付ける。すぐには付かないのでクリップで挟み固定する。
しばらく時間をおいたら、挟んでいたクリップを外していく。しっかり接着されていないとすぐ開いてまたやり直しになるので緊張の一瞬。
何とか無事に接着されたようである。しかし、みさきのは接着剤の量が多く接着面から少し漏れていた。
「ちょっとはみ出ちゃった」
「まだまだだね、高石みさき」
さくらは綺麗にEF81形ができていた。パンタグラフは前後二基あるがしっかり作られている。
みんな完成したので机に並べていく。やはりみさきのは若干歪んでるように見える。すると孝子が奥の棚から何かを持ってきた。
「これは前に作ったペーパークラフトでーす。」
持ってきたのは線路やトンネル、鉄橋、山、木のペーパークラフトである。これらを床に配置して、みんなの作った列車を乗せていく。しかし、作ったのが先頭車両だけなので何かしっくりこない。すると孝子が、
「やっぱり中間車両も欲しいね、作っちゃおう!」
みんなが作った列車は実際には6両や8両で走っているが、これを全部作っていては途方も無いのでとりあえず3両分を作ることにした。作るのは先頭車両もう一つと中間車両一つである。
孝子といずみは作る気満々だが、残り三名は初めて作ったということもあってお疲れ模様。それにもう下校時間が近づいている。作るのに夢中になるとやはり時間が経つのを忘れてしまう。時計を見て我に返った孝子は、
「そ、それじゃあ今日はここまでにしよっか」
みさきの初めての部活はペーパークラフト製作だったが、工作をあまりやらないので苦労の連続。しかし自分なりに作ってまあまあな出来に達成感を感じるのであった。それとさくらとはどうやったら仲良くなれるのか考えるのであった。