第3話 入部希望
「昨日はいずみくんのクラスにすごいイケメンさんがいてね」
昼休み中、みさきと陽子との会話である。昨日、鉄道研究部について聞こうと2年生の教室へ行ったときのことである。
「みさちゃんがイケメンって言うならよっぽどだよね。んで、いずみくんもこの学校に通ってたんだね」
陽子はいずみが同じ学校に通っていることは知らなかったようである。みさきとも最初は同じ学校だとは知らず、たまたま通学中に知ったのである。
放課後になり、みさきは鉄道研究部の部室へ行くことにした。また誰かの視線を感じるが、振り返っても誰もいないのでスルー。気を取り直して、
どんな部室か楽しみだなあー。
部室は今はほぼ物置になっている旧校舎にある。学校敷地は小高い丘になっており、頂上付近に現校舎が建っている。旧校舎は中腹の森にひっそりと建っており薄暗く少し不気味である。この2つの校舎は一本の渡り廊下で結ばれているが、高低差があるため現校舎は1階、旧校舎は3階になっている。さらにこの一帯は人気がなく心霊スポットとの噂もある。
みさきはその渡り廊下へ差しかかるが、怖い噂を知ってか知らずか窓から見える景色を楽しんでいる。意外と眺望は良く木々の間から海や国鉄線の電車が見え、頂上付近の新校舎とはまた違った景色である。
旧校舎にたどり着く。日頃あまり使われていないせいか電気が点いていない。というか蛍光灯自体取り外されている。これでは暗いし気味悪がられても仕方ない。
部室はどこかな~。
場所は2階会議室なので階段を降りて探しているとその扉があった。みさきは扉をそっと開けて部屋をのぞき込む。そこは照明は点いていないが会議室とあって中は広々としている。
「失礼しまーす。」
挨拶をするが返事がない。奥に目をやると何かを仕切るように分厚いカーテンがあり、そこから明かりが漏れている。
恐る恐るカーテンの向こう側をのぞいてみた。するとそこにはヘッドフォンをして何かに見入っているいずみともう一人女子がいた。どうやら集中しすぎてみさきに気付かなかったようである。気づいたいずみが、
「あー、ごめん、ごめん。」
いずみが見入っていたのは自分で撮影した鉄道動画で出来栄えを確認していた。もう一人の女子は録音した鉄道音をパソコンで聴いてうっとりしていた。二人とも一旦手を休めてみさきと話をすることにした。すると鉄道音を聴いていた女子が、
「入部希望?イヤー、入ってくれるとうれしいなあ。で、私は部長の尾崎孝子です。」
孝子は3年生でしっかり目のお姉さんといった感じである。好きな鉄道ジャンルは鉄道音を録音して楽しむいわゆる“音鉄”である。これが功を奏してか国鉄線の列車は音を聴くだけで車種を当てられる。
いずみは2年生で前述の通りみさきの幼なじみである。見た目と言動は女の子っぽいところがあるが本人は自覚無し。好きなジャンルは鉄道の写真や動画を撮影する“撮り鉄”であり、乗って楽しむ“乗り鉄”でもある。
活動データを見ながら孝子から部の説明を受ける。
「ところで高石さんは何鉄なの?」
そう言えば何鉄とか考えたことも無かったなあ。
みさきは鉄道がただ好きなだけで特にこれと言ったこだわりが無いのである。
「しいて言うなら国鉄線のカボチャ電車が好きかな・・・。」
この車両は湘南カラーの113系と思われる。
一瞬間があき、いずみと孝子はお互いの顔を見合わせて目を輝かせる。今は鉄道の知識はあまりないが、カボチャ電車という渋めの電車が好きと聞き“鉄”の素質十分と見たのである。どんな“鉄”にみさきを育てていこうか楽しみになってきた二人は不敵な笑みを浮かべるのであった。
「あー、あとこれ見てくれるかな?」
孝子は部室の片隅に置いてある布がかけられた台へ向かう。そして布をどけるとそこにはガラスケースに入った丹羽野市の大きなジオラマがあった。このジオラマは歴代の部員が少しずつ造ってきたのである。もちろん鉄道模型を走らせられるように配線されている。
「わぁーすごい。」
みさきはあまりの精巧さにただただ感激するばかり。我を忘れていろんな角度からなめ回すように眺めている。気がつくと1時間近く経っていた。
「高石さん、入部したらこれ毎日見られるよ、いじってもいいよー。」
みさきの腹は決まった。もう入部するしかない!明日、入部届を持って行くという約束をして家路につくのであった。
ワクワクするぅー。