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七話 村の宴

村人達によって次々と息の根を止められて行く魔物を見ながら小次郎は安堵の息を漏らした。

魔物の数は20匹にも達するだろうか。

これだけの数に襲われれば相当な被害が出ていただろう。

(デリカが無ければ俺も死んでいたかもしれない)

そう思うとぞっとした。

幾ら剣術に秀出ていたとしても20匹にも及ぶ敵を無傷で倒すのは不可能だ。

村人と協力しても相当な被害を覚悟しなければならない。

その被害の中に勿論自分も含まれるのだ。

「所詮、そんなものか」小次郎は呟いた。

その時、村人達が大きな声を上げた。

小次郎が振り向くと1匹の魔物が立ち上がり、村人達に棍棒を振り回しながら森に向かって逃げようとしていた。

無意識に走り出していた。


「うおおおおおおおおっ」

刀を高く掲げ、唸り声を上げ魔物に肉薄した。

その大声に村人達は足を止め、魔物は小次郎を注視した。

いや、凍り付いたと言ったほうが正しいか。

憤怒の形相で迫り来る小次郎の迫力に村人も魔物も凍り付いたのだ。

「やーーーーっ」

一撃で魔物を袈裟斬りに両断した小次郎を村人達はただ、呆然と見ていた。


小次郎は悲しかった、悔しかった。

唯一人この世界に現れ、どんなに剣術が使えようがたった一人では役に立たない。

漫画やゲームの中にある様な世界で自分は主人公のような気分になっていたのだ。

だが、現実はどうだ。

一人で出来る事などたかが知れている。

無双など夢物語だという事に気付いてしまった。

車が無ければ無双など不可能だった、全ては自分の力ではなく道具の力だと。

主人公になったつもりで浮かれていた自分は、なんと滑稽で惨めか・・・。

涙が溢れ目の前が歪んで見えなくなった。


声も無く静かに涙を流す小次郎の手を小さく柔らかな物が包む様に触れた。

目を向けると涙で歪んだアイリスが居た。

アイリスに手を伸ばし、胸に抱き小次郎は小さく嗚咽を漏らした。

少女は何も言わず小次郎の胸に頭を預け、腰に手を回しぎゅっと抱きしめた。



夜中にも拘らず、村人達は総出で魔物の死骸を村に運び込み解体し始めた。

アイリスによるとブタ頭の魔物、レザーバックは食べられるらしく革も使い道があるという。

イノシシ頭の魔物、ワイルドバーも同様でこちらの革はレザーバックより高級らしい。

《ワイルドバーは食べた事ありませんが、レザーバックはとてもおいしいですよ》だそうな。

一切の被害も無くこれだけ多くのレザーバックが獲れる事など有り得ない事らしい。

(そりゃそうだよな)

最初に解体された2匹はそのまま調理され全員に振舞われる事になった。

どうやらこのまま戦勝パーティーと言うか、収穫祭と言うかそんな事になるようだ。

にぎやかな雰囲気の中、良い匂いが漂い始める。

レザーバックの肉は普通に豚肉だった、名前からしてブタだし。

合計20匹近くも獲れた為、塩漬けにしたり燻製にしたりと、女性達は作業に追われている。

そんな姿を見ながら小次郎は夕食では満たせなかった腹を満たすべくモリモリと食べる。

丸焼きは見た目が魔物なので非常に不味そうだが、普通に美味いのがなんとも変な感じだ。

アイリスと村長が連れ立って小次郎の下へやって来た。


《大平様、村長さんがお話があるそうです》

「ああ、はい。 何でしょうか」

《大平様のお陰で怪我人も無く魔物を討伐する事が出来ました。村を代表して感謝申し上げます》そう言うと村長は深く頭を下げた。

「偶々持っていた車が良かっただけです。私の実力ではありません。

《お礼をしたい所ではありますが、この村にはそれをするだけの余裕はありません》

そう言うと、ちらりとアイリスに視線を移しながら言った。

《そこで、この子を・・・奴隷として売るつもりでしたが、代わりにお礼として受け取って頂く訳には行きませんか》

村長は小次郎の目を見据えながら続けた。

《大平様はこの子が使う魔法がなければ言葉にも不自由されるでしょう、お役に立つはずです》


周りで話を聞いているであろう村人にも聞こえるような声で言うと小次郎に目配せをしてきた。

(なるほど)奴隷として売る筈のアイリスを差し出す事で払えぬ程の謝礼の代わりにする。

奴隷として売ったとしても、殆どは礼金として支払う事になるなら、多少損でも感謝の気持ちとして引き渡した事にすれば文句も出難い。

そう考えたのだろう。


「アイリスはこの件に付いて承知しているのですか?」

村長の隣に立つアイリスを見詰ながら尋ねると《この子には先程話をしてあります。本人もこの事を承知しました》と言った。

アイリスは小次郎と目を合わせて頷いた。

「承知しました。この子を奴隷としてお礼の代わりに受け取りましょう」

周りに聞こえる様にそう言うと村長は微笑を浮かべて《有難うございます》と言った。

アイリスを奴隷として引き渡す証明書は翌日に発行すると約束を行い村長とは別れ、アイリスと供に家に戻る事にした。 

居間のテーブルで向き合い一息ついた時、アイリスは立ち上がり言った。

《あのっ大平様》

「ん?」

《一生懸命お仕えしますっどうぞ、よろしくお願いします》

そう言うと深々と頭を下げた。


小次郎はっきり言って困った。 

美少女の奴隷ゲット~とか喜びたい所だが、可愛過ぎて嫁にしたい位なのだ。

それに、奴隷とかあまり好きではない、ゴツイ外見だが女性に対して意外と夢見がちなのだ。


「アイリス、はっきり言っておく事がある。君を奴隷として扱う気は無いから、その事は理解して置くように、以上」

《ですが》

「一度しか言わない、私は君の事をとても可愛いと思っている。だから、その、なんだ・・・使役する対象としては見れない。よって、家族として引き取ったつもりだ。だが私も男だ子供や妹としても見れないそう言う事だ」

顔を真っ赤にしながら小次郎は一気にまくし立てた。

アイリスは暫く黙っていたが、意味を理解したのか同じく真っ赤になって俯いた。

居心地が悪くなった小次郎は「もう寝よう、私は何処で寝ればいい?」と尋ねた。



《父と母の寝室だった部屋です、そのベッドをお使い下さい》

案内されたのは居間と続きの小部屋だった。


「ありがとう、遠慮なく使わせてもらう、ではお休み」

そう言い刀をベッドの脇に置き、上着と靴を脱ぐと布団に潜り込んだ。

暫くしてアイリスが部屋へ戻って来た。

部屋へ入ってきたがそのまま動く気配が無い事を不審に思い布団から顔をのぞかせると俯いたアイリスがじっと入り口に立っていた。

「どうした、何か言い忘れた事でも?」

アイリスは答えずにじっとしている。

「私はあまり気の長い方ではない、言いたい事が有るならはっきり言ってくれ」小次郎は身を起こして答えを待った。

《か・・・家族として引き取るって、子供や妹では無くって言う事は、つまり・・・そう言う事ですよね。私だってもう子供では有りません意味は解っているつもりです》

そう言い、おずおずとベッドの脇までやって来た。


「え~と、私の心の準備が出来てません」


《・・・・・・》


思わず答えた小次郎にアイリスは目を大きく見開き驚いた後、クスクスと笑い始めた。

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