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二十九話  オルディング商会での日々 8 -アイリスへの剣術指南1-

まだ夜明けよりも少し早い、いつも通りの時間に小次郎は目覚めた。


隣のベッドで寝ていたはずのアイリスはまた小次郎の上で眠っている。

ここ数日お馴染みとなりつつあるが、いつ潜り込んで来たのか・・・普通ならば寝ていても誰かが近付けば目覚める小次郎だがなぜか気付く事はなかった。


(ここ最近は一人稽古ばかりだったから、鈍ったか?)


アイリスをそっと横に転がし、身を起こした小次郎は翻訳のランプを起動させると彼女揺すり起こす。


「アイリス、アイリス、起きなさい、アイリス。」


《・・・ん・・・お父さん、もう少・・・し》


がばりと顔を上げたアイリスは少し困ったような顔で小次郎に挨拶した。


《お、おはよう・・・ございます。》


「おはよう、約束通り今日から稽古を付ける。まずは顔を洗いなさい」


アイリスの表情に気付いてはいたが、あえて気付いていない素振りで言いつつ部屋に用意された水入れから水桶に水を移す。


顔を交代で洗い終え歯を磨く。

歯ブラシは3本セットの新品がまだ2本有ったのでアイリスにも渡していた。


「アイリス、動きやすい服に着替えて中庭に行っていなさい。私は道具を用意するから」


《あの、お手伝いは》


武道具は自分を育ててくれる大事な物であり手入れを含め、全て自分で管理しなければならない物と思っている。

部活動等で、よく先輩とか言う(やから)が後輩達に道具の世話をさせているが、小次郎には考えられない事だ。

道具に不備があり、それが原因で他人を傷つけた場合、その責を他人に押し付けることが出来ると言うのか。

出来ると言うのならば、その様な輩に武道・武術をやる資格はない。


「稽古道具はどんなに偉くなったとしても自分で用意するものだから、私が用意する。先に行っていなさい」


手早く着替え・・・と言っても小次郎は就寝時、Tシャツにパンツ一丁な為、脱ぐ物は無くただ着れば良いだけだ。

アイリスが着替えを始める前に、手早く革パンを履き帯を巻くと刀を腰に差して翻訳ランプを手に部屋を出た。


《オオヒラの旦那、今日も稽古ですかい?》


商会中庭に停めた車から道具を取り出していると、昨夜出会った男達が声を掛けて来た。


「お、レイルさん達か今夜も夜警かい?ご苦労様。特別な用が無ければいつもこの時間だよ」


軽い挨拶をしつつ、ロッドケースから木刀を取り出すとササクレや亀裂が無いか、軽く振って違和感を感じないかを確かめる。

問題が無い事を確認した小次郎は続いて予備の帯と小太刀も取り出し、目釘と鍔周りの異常が無い事を確認した。


「これから稽古をするんだが、ちょっと見ていくかい?」


「いや、すまないな。昨日は思わず仕事も忘れて覗いちまったが、仕事はしっかりやらんと信用に関わるんでな」


昨夜興味ありげに覗いていたので言った見たのだが、レイルは見た目より真面目な性格のようだ。


「お、そうなのか悪いな余計な事言って」


「なに、交代休憩の時にでも寄らせてもらいますよ」


そうこう言っている間にアイリスが準備を終えて出てきた。


「オオヒラ様、お待たせいたしました」


アイリスの格好はいつのも服だった。

さすがに鈍い小次郎もこれには気付くことが出来た。

そういえば村を出る時の荷物に衣服らしきものは無かったと。

ここでそれを指摘してしまえばこの少女に恥をかかせる事になると。

後でクラウスさんの奥さんに相談するか・・・と考えつつひとまず先送りにした。




「では、稽古を始めよう」


《はい、よろしくお願いします》


「まずは基礎の基礎から教える。体の力を抜いて、まっすぐに立ってみなさい」


《は、はい。》


まっすぐに立たせると小次郎はその姿勢を少しずつ修正する。


「いいかい?人は真っ直ぐに立つだけの事もよく見ると出来ていないものなんだ。

本人は出来ているつもり、でも実際は出来ていない。そういう事は多い。

無意味に胸を逸らしていたりと本人は真っ直ぐのつもりだが曲がっているものなんだ。

大きく息を吐いてごらん、胸が少し下がって背中の上部が曲がる感じがしないか?」


《はい、背が丸くなる感じがします》


「その状態を維持して軽くあごを引いてごらん、それで上半身はほぼ真っ直ぐになるから」


そう言いながら、腰と腹に手を当て軽く修正する。


「今の状態で体は真っ直ぐになっている。どうだい?変な感じだろう、でもこれが正しい真っ直ぐな状態なんだ。この状態を常に取れるようにまずは体に覚えさせる事、それと真っ直ぐに歩くことが出来るようにする事、これが私がやってきた武術の基本になる」


小次郎に修正された姿勢ははっきり言ってあまり良い姿勢には思えなかった。

若干猫背気味に感じる。


「とても真っ直ぐに立っているとは思えないんだろ?」


なんとも言い難い表情をしているアイリスに小次郎は笑いながら説明する。


「見ててご覧、これが普通に真っ直ぐに立ってると思える姿勢だ」


アイリスの前で横を向き、腰を逸らし胸を張ってあごを引いた姿勢をしてみせる。


「反っているだろう?次は私の言う真っ直ぐな姿勢だ」


そう言って取った姿勢は確かに今まで反っていた腰が真っ直ぐになり胸も反っていない。

だが、真っ直ぐなのかと言われればそうとも言えない姿勢だった。


「なんとも微妙な顔だな、人はね見た目に色々と騙され易いんだよ、これは骨格・・・骨の並びで言うと確かに真っ直ぐに近いんだ。でも、外からの見た目ではそう見えないんだよ、だから違うと思ってしまうんだ。まあ、だまされたと思ってやってみてくれ、やっていけばその内解るようになるから」


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