二十八話 オルディング商会での日々 7
生存確認で書きましたとおり、薬害に当たったりと不運続きです。
執筆も遅々として進まず何とか数話分書けたので久しぶりにUPしました。
「では、早速算術の指導を受ける人を選んでおいて下さい。時間は朝食後と夕食後にいつもやっていますので出来ればその時間帯で、無理なようでしたらご相談ください」
オルディング商会に戻って早々、クラウスにそう伝えるとアイリスと共に部屋へと戻ってきた小次郎はアイリスに頭を下げて詫びた。
「アイリス、せっかくの外出が訳のわからん連中のせいで台無しになってしまってまことに済まない。
さらに君に教えている勉強を他の人達にも教えると約束してしまった。まぁ、一人でやるより多少他人が居たほうが励みにもなるだろうが、勝手に決めてしまったことには変わりない勘弁してくれ」
《そんな、私は教えて頂けるだけでも有難いのですから謝らないでください》
「ありがとう、その代わりに何かアイリスの言う事を一つ聞こう、と言っても私に出来る事なんてたかが知れてるがね、何か望みは有るかい?」
なにか望む物、望む事はないかとアイリスに尋ねた。
《そ…それでしたら、大平様の剣術を私に教えてください》
アイリスは意外にも剣術の指導を望んだ、どう見ても戦いを望むような子には見えない。
「それはどうして?君は戦いを望むようには思えないんだが」
《私が、私がもっと強ければ…闘う術があったならばお父も母も、もしかしたら死なずに済んだかも知れません。私が弱かったから……だから、もう何も出来ずにいるのは嫌なんです》
目しっかりと合わせ思いを語るアイリス目に強い力を感じた。
「アイリス、君が強くなってもお父さんとお母さんは帰っては来ないぞ?それは解っているね」
《はい、もう何も出来ずにいるのは嫌なんです。私は誰かに助けられるのではなく誰かを助けられる様になりたいのです》
「む……ぅ」
見た目がまだ幼く感じるが、確りとした強い思いが感じられるだけになんと言って良いか思わず唸ってしまう。
「教えるのは構わない。だが助けられるのは、守れるのは君の手の届く範囲でしかない事は理解できるね?私だって何でも出来る訳ではない、出来るのは手の届く範囲と知識の及ぶ範囲でしかない。それが解っていないなら教えることは出来ないよ?」
《はい、解ります》
「解った、明日の朝から指導しよう」
《ありがとうございます》
「とりあえずは今夜の勉強だな、人は増えるがやることは変わらない。一つずつしっかりやろう」
《はい》
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
《オオヒラ様》
「ん?、はい」
夕食中、会話が途切れたタイミングで小次郎はクラウスに声を掛けれられた。
《算術の講義の件なのですが、今夜は急な事もありまして受講者の選別が済んでおりません。私を含め主だった者は参加いたしますが後日数名増えると言う事でもよろしいでしょうか》
「はあ、別に構いませんよ。少し進みが違う人が居た方がお互いに教え合うのにも都合が良いでしょう、結局算術なんて物は数を繰り返して覚える他無いのですから」
《そうですか、助かります。部屋は空き部屋を用意させていますので、もう少ししましたら準備が整うかと思います》
「承知しました。で、人数は何人になりますか?」
《はい、当商会の会計に従事する者を主に選別しましたので本日は7名になります》
「承知しました、そのつもりで準備します。アイリス、ちょっと手伝ってくれ」
早足で部屋に戻った小次郎は自由帳を取り出しながらテーブルに向かった。
《何をなさるのですか》
「ああ、この間数字を教えた時みたいに数字の早見表を作ろうと思ってね、アイリスもノートに書いただろ?自分が使ってる数字と私が使っている数字の表を」
《あ、解りました。それで、私は何をお手伝いすればいいのでしょう》
「私が数字と記号を書いていくからそれの訳を文字の下に書いていってくれ、クラウスさんは7人と言っていたが念のため10枚作る事にしよう。夕食後少ししたらと言っていたから、そんなに時間は無いと思うんだ、急がないとな」
《はい、わかりました》
二人は手分けして数字記号の早見表を書き上げて行く。
《オオヒラ様、失礼いたします。準備が整いましたのでお迎えにあがりました》
数字の早見表を準備し終えた小次郎とアイリスが一息入れていると扉がノックされ、エレンがやって来た。
エレンに案内され商会の方へと移動する。
商会の一階は受付等の窓口と運搬作業員の詰め所意外は倉庫の様を呈しており天井も2階分の高さがある。
2階は通常3階に当たる高さに設けられている。
その2階にある一部屋へと案内された小次郎の前にはクラウス夫妻を含む7名がすでに席に着いていた。
部屋には大きめのテーブルが2つ、テーブルを囲むように簡素な椅子が並べられている。
《旦那様、オオヒラ様をお連れしました》
《ありがとうエレン。大平様、簡単に紹介させて頂きます。当商会の会計と商品管理部に勤める者たちです》
椅子から立ち上がったクラウス夫妻、エレン他、4名が小次郎へ頭を下げた。
「クラウス氏のご好意にてお世話になっている大平小次郎と申します。こちらはアイリス、本日よりクラウス氏のご要望にお応えして算術の講師を務めます。どうぞよろしく」
頭を下げた小次郎は「では早速ですが」と、手にしていた紙を7名に手渡す。
「これは私が使っている数字とそちらが使っている数字を一目で解る様にした表です。まずはこれを見ながら簡単な問題を解きながら説明をしたいと思います。何か質問はありますか?」
表を見ている者たちを見回しながら小次郎は問いかけるがどうも反応がおかしい。
「何かありましたか?」
《オオヒラ様》
戸惑う者たちを代表してクラウスが小次郎に声を掛けてきた。
《これはいったい・・・・・・。一般的な羊皮紙とはまったく違う様ですが、何の革で作られているのでしょうか》
用紙は若干震えているようにも見える。
「それは・・・革ではなく木や草を使って作られた物です。そこまできれいな物でなければ私も作り方を知っていますのでお教えします。《木や草でこれがっ》ですが、今は算術の講義ですから取り合えずその件は後にして下さい」
興奮気味のクラウスの声を遮って講義を始める。
さすがに子供へ教える訳ではないので、既存の物からの置き換えという形での講習にした訳だが・・・。
「その一文字一文字が一桁の数字を表しています。基本的に二文字ある場合は二桁、三文字は三桁です。+は加算、-は減算、×は乗算、÷は除算、=は計算結果を表します。まずは、数字を覚えてください」
丁寧に説明を行い小次郎は簡単な例題を出して各々に表記をさせてみる。
最初は文字の違いに戸惑い間違える者も多かったが元々会計を主にしていたとあって、さほど時間も掛からずに多少の時間は掛かるが、問題なく読み書きができるようになった。
「さすがに会計のお仕事をなさっているだけあって、さほど時間は必要ありませんでしたね。では、これより基本的な算術へ移りたいと思います」
まずは一桁ずつの足し引き算、和が二桁になる物等を混ぜつつ出題していく。
文字の違いに多少躓いたりする事も有るが、ほとんどは問題なく計算できているようだ。
質問に丁寧に答えつつ、例題を用いて説明していくと次第に二桁、三桁までの計算なら簡単に出来るようになった。
そこで、今夜の講習はこれで一旦終わりにして、早見表と一緒に作った算数ドリルのような物を配り、まだ時間はあったが終了とし、残った時間でアイリスの勉強時間へと割り当てた。
「こういったものは繰り返し計算をこなすしかありませんので、課題を出しますから明日までにどれだけ出来るかやってみてください。何かご質問はありますか?無いようでしたら本日はこれで終了とします。私は時間いっぱいまでここで、アイリスの勉強を見ます。疑問があればいつでもご質問ください。では、お疲れ様でした」




