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二十六話  オルディング商会での日々 5

もう少し書き溜めたらとか言いつつ投稿してしまう。

次回は本当にもう少し溜めてからの投稿になります。

当り屋を返り討ちにした小次郎だが、街の治安を預かる警備隊からすると、はいそうですかと言う訳にはいかない。


双方から事情聴取を行い調書を取らねばならない。

騒ぎによって出来た人集りの中からも聞き込みを行い事の顛末を纏めていく。


「だから、何度も言っているじゃないですか、あの男が私に当たったせいで転倒し、大切な商品を壊されたんです。それなのに、あいつは謝る所か私達に斬り掛かって来たんですよ見て下さいこの腕を。しかも、そちらときたら私達を罪人の様に縛り上げて」


詰め所の一室であくまで被害者だと訴えるこの男、半ば切断された腕を治療魔法で繋いでもらい包帯でぐるぐる巻きにされているが、簡易な治療の為動かすことは出来ない。


「治療師に頼めばこの腕は治るかもしれませんが、費用だって馬鹿にならないしこれじゃ暫くは商売だって出来ませんよ、商品も壊されてしまったし…あの男にその分も保障してもらわないとこちらの気が収まりません」


あくまで被害者の振りをする積りのようだ。


既に他の隊員が過去の調書を取り寄せに文書保管室に行っている。

調書には被害状況や名前、相手の人相なども記されている筈だ。

取調べを行っているこの男、ステファン・マルウィンは溜息をついた。


「わかりました、とりあえず貴方からの聴取はこれで終わります。もう暫くここでお待ちください」


そう言い席を立つとステファンは部屋を後にした。


部屋を出ると廊下には警備兵の他に2名、ジョルジュの配下ではない部隊の者が待機していた。

ステファンは「どうだ?」と問うと2人はドアの方に目配せをした後に答えた。


「過去の調書を見た所、ステファン殿が仰ったように同様の事案がここ3年で10件近く……この内一件は私が担当しましたので間違いありません。名はその都度変えていたようですが顔は変えようがありませんからね間違いありません、あいつです」


「……バモス一家の奴です間違いありません、何度か騒ぎを起こしたりして取調べをした事があります」


「そうか、ご苦労。この件は我々からそちらの管轄へ送られる事になるだろう、済まんが頼むぞ」


「承知しました」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「で、ジョルジュさん…何で私はこんな所に?」


ジョルジュに伴い警備隊詰め所へとやって来た小次郎は何故か詰め所裏に設けられた練兵場にいた。

目の前には木剣を構えたジョルジュが居る。


《まあ、そう言うなよ少しばかり相手してくれるだけで良いんだ》


「はぁ…相手するのは良いですが今日は腹の虫の居所が悪いので少々乱暴になるかもしれませんよ?ちなみに松・竹・梅と有りますが、どれが良いですか」


先程の件があまりに呆気なく終わってしまい、さらにジョルジュに止められた上、こんな所に連れて来られたので小次郎の機嫌はあまりよろしくなかった。


《なんだ?それは》


「相手をするこちらの難易度です。松が一番厳しく、梅が一番やさしく相手します」


ジョルジュはその物言いに若干ムッとすると《そうか、では遠慮なく松とやらで行かせてもらおうか?》と、ブンブンと木剣を振り回しながら小次郎に打ち掛かった。


《げぶぅ》


「そんなガラ空きの体勢で攻めたって死ぬだけでしょ?もう少し考えてから来なさいよ」


小次郎は呆れた様な声を零しつつ打ち掛かろうとしたジョルジュの元へスッと近寄り、右手首辺りをついっと左手で抑えると同時に腹に右で掌打を放つ。

怯んだジョルジュの木剣を取り上げると、そのまま投げ捨ててしまう。


「ほら、どうした,やられっ放しで良いのか?剣を取られたら役立たずなんて恥ずかしくないのか?」


そう言いながら投げ倒されたジョルジュの手首を緩めては極め、緩めては極め右へ左へと転がす。


《ぐっぬぅおっ》


抵抗し、腕を振り解こうとする力に逆らわず、その力を利用し放り投げる。


「どうした?自分から転がるなんてよっぽど地面が好きなのか?」


《お、おのれぇ》


立ち上がったジョルジュは有得ない速度で一気に小次郎へと肉薄してきた。

が、いくら速くてもテレホンパンチなど小次郎に通用する筈も無くカウンターの掌底が顎へと打ち込まれると、その場に崩れ落ちた。


《あっ?ぅぇ?》


「お、気絶しないとは中々頑丈だな、暫くは立ち上がれないだろうからそのまま休んどけ」


小次郎はドカリと傍に立膝で腰を下ろすと煙草を取り出して一服し始めた。


「で、いったい何がしたかったんです?」


《……退屈、でな》


「は?」


《退屈で、仕方なかったのだ》


「退屈って、そんなくだらない事でこんな所に態々人を連れ出して手合わせをさせたのですか」


《貴様には解るまい、地位も名誉も……息子まで失い王宮から追い出され閑職に回された者の事など》


ジョルジュはそう言うと小次郎を見つめていた目を閉じ《少しばかりこの愚か者の話に付き合ってくれ》と言った。


小次郎は「他人の不幸自慢には興味ないな」と、にべも無く語り出そうとしたジョルジュを止めた。


「生きてりゃ良い時も悪い時もある。それを不幸だ不幸だと言って何になる。不幸だと思うのなら幸せになる為に努力しろ、それが嫌なら文句を言わず黙って生きろ、人は人、自分は自分だ。他人に幾ら己の不幸を話しても満足するのは吐き出した本人だけだ、他人には何の特にもならん。それとも他人に不幸な人だ、可哀そうな人だと哀れんでもらいたいのか?」


《ぐ、うぅ・・・》


「それに、あんたには今しなければならない仕事が有るじゃないか、私のように職も地位も財産も全て失ったわけじゃないだろ、部下だって居る。誰かに対して責任のある仕事に就いているじゃないか、それとも街の治安を維持する警備隊の仕事なんていつ放り出しても構わないような仕事なのか?」


小次郎の容赦ない物言いにぐうの音も出ない。


「とりあえず、ちゃんと相手したんですからその分働いてくださいよ?どうせああいう奴らは被害者面して弱者の振りをするでしょうから、キッチリ調べて二度と悪さが出来ないようにして下さい」


ふーっと吹き出した煙草の煙の行く先を見やりながら


「それと、もっとよく周りを見渡してみるんだな、あんたの周りにはあんたの事を慕う者も心配する者も居るだろう」


顎で指し示す先にはジョルジュを見つめる部下達がいた。


「少なくとも彼らはあんたの事を思ってくれてるんじゃないのか?」


《……すまん》


「それは私に言うことではないだろう?彼らに言ってやんなよ」


腰のポーチから携帯灰皿を取り出し吸殻を放り込むと小次郎は立ち上がりつつ訊いた。


「それで、この後は取調べとか何か有るんですか?出来れば日も落ちてきてるし帰りたいのですが」


《あ…ああ、簡単な調書を取らせてもらうがそんなに長くは掛らんよ、道すがらおおまかな事情は聞いたしな。ただ、身元引受人が必要になる。オオヒラ殿はこの国の者ではなかろう、身分証もまだ発行されていないだろうからな。オルディング商会に使いは出してあるからそのうち迎えが来るだろうよ》


「そうですか、わかりました。では、また後で」


ジョルジュは自分の元を離れアイリスの方へ歩き去る小次郎を見送る事しか出来なかった。


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